医学部不正入試で声上げ始めた元受験生たち。東京医大だけで被害は30パターン以上

医学部不正入試問題で、10月23日、東京医科大学などの元受験者の男女らが都内で会見した。

「医療現場の働き方の問題を、なぜ学生を差別することで解決しようとしたのか」

「募集要項で事前に説明していれば問題ないという議論もあるが、そもそも公開のもとで差別をしたら社会的制裁を受けたはず」

実名告発のリスクを負っても、変えたい未来がある。

労働環境の問題を入試差別で解決しようとするな

東京医科大

会見を行った元受験生たち。

撮影:竹下郁子

会見を開いたのは、「東京医大等入試差別問題当事者と支援者の会」。同会には110人の当事者(保護者含む)が参加しているといい、この日は3人の元受験生が氏名や在籍大学を明かした上で、現在の思いを述べた。

竹口優三

福島県立医科大学の竹口優三さん。

撮影:竹下郁子

「多浪の男性」として声を上げたのは、福島県立医科大学・医学部6年生の竹口優三さん(30代・男性)。東京医科大を複数回受験し、二次試験まで進んでいる。同大学は二次試験で4浪以上の男子と女子に不利な得点調整を行っていた。竹口さんは、自身もこの得点調整の「被害にあったと思っている」と話す。望むのは入試成績などの「情報開示」だ。

「当時は医学部入試は公平に行われていると思っていましたが、今思い返すと二次試験まで進むと情報開示できない大学が多い。事前に(募集要項などで)説明があればいいのかという問題もありますが、そもそも公開して差別をしたら社会からの制裁を受けたはずです。だからこうした議論をする前に、大学からの情報公開を望みます」(竹口さん)

現役や1浪、同窓生の親族を優遇していた昭和大学、そして女子と2浪以上の男子の受験生を差別していた疑いがある順天堂大学を受験したのが、筑波大学・医学群6年生の山本結さん(24)。

「確かに医療の現場に労働の問題はあると思いますが、その解決策を入試で、しかも差別というかたちで学生に求めるのはおかしいですよ。大学の入試は採用試験じゃない。男性医師は家事や育児を度外視して働くことが前提で、女性医師はそれを考慮して働かなければならないという価値観が医学部全体にあるのがすごく嫌だし、変えていきたいです」(山本さん)

山本結、姫岩祥子

筑波大学の山本結さん(左)、東京慈恵会医科大学の姫岩祥子さん(右)。

撮影:竹下郁子

昭和大は加点されていた側。順天堂大にも合格しているため被害は受けていないと考えているが、そもそも「そういう大学だと分かっていたら受験したくなかった」という。

これまでに不正入試が発覚したり疑惑が出ている大学を受験していなくとも、声を上げた人もいる。東京慈恵会医科大学・医学部4年生の姫岩祥子さん(25)だ。国公立大を中心に受験し、3浪して今の大学に入学した。今回、会見に臨んだのは、女性や多浪の受験生が差別される現状を変えたい一心だ。

「予備校では『多浪の女子は医学部には受からないから他の学部に変わった方がいい』と言われました。面接指導でも『結婚するのか子どもを産むのか考えて答えを用意しておきなさい』と言われ、実際に国公立大でもそうした質問を受けました。男子が科目の勉強をしている中、なぜ女性だけがこんなことを聞かれ、そのために時間を割かないといけないのでしょうか」(姫岩さん)

東京医科大だけで被害は30パターン以上

東京医科大

不正入試被害者パターン一覧表

提供:東京医大等入試差別問題当事者と支援者の会

医学部入試制度は複雑だ。同会の河合弘之弁護士によると、不正入試の被害パターンは東京医科大だけでも30種類以上ある(表を参照)。

「受験料の返還や成績を開示して合格ラインを示すのは、大学として最低限やってほしいこと。元受験者たちの希望に合わせて、大学に細かく要求して行きたい」(河合氏)当事者が求めているのは、受験料(6万円、4万円)や受験時の交通費・宿泊費、得点操作により点数が下がり補欠となり合格発表を待っている間に他大学に支払った入学金、操作により不合格となったために通った予備校の学費や経費、などの返還だ。

特に全員が求めているのが受験料の返還だ。同会共同代表の北原みのりさんは言う。

「医学部生はお金持ちのイメージがあるかもしれませんが、みんながそうなわけじゃない。シングルマザーの家庭に育って、『寄付が少ないと思われて受からないんじゃないか』と心配したり、『親に負担をかけたくないから今年で最後の受験にしよう』と必死に勉強とアルバイトを両立しながら貯めた6万円でもあるんです。受験生にも6万円にもさまざまな背景があって、それを返してほしいと要求するのはとても意味のある戦いだなと」(北原さん)

被害者は全国にいる。同会では、彼らが上京するための交通費や弁護士費用などに充てるため、クラウドファンディングも開始した。

医学部入試で露呈したのは「日本の組織論」の問題点

東京医科大

撮影:今村拓馬

会に集まっている110人の内訳は男女それぞれ約半数ずつ。北原さんは当事者の女性から「女性だけで声を上げるのはこわい」という声を複数聞いたという。

「被害者の数は女性の方が多いと思うのですが、医療界は男性社会なので、女性の方がより深刻な状況で声が出せないのかなと。一方で多浪の男性への社会の共感の低さも問題だと感じています。今回の医学部不正入試で露呈したのは、日本の組織論の本質的な問題です。自分と同じような環境で育ち同じ顔をした人間しか受け入れず、異質なものや多様性を拒む権力者たち。男女ともに力を合わせて大きな動きにしたいですね」(北原さん)

声を上げるのはリスクがあるのではないか。前出の山本さんに尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「これから受験する人たちは声を上げづらいと思ったので、今6年生の私たちがやらなければと思いました。友人の中には多浪は合格しづらいと聞かされ、薬学部や看護の道に進路変更した女性たちもいます。彼女たちやこれから医学部を目指す後輩たちのことを考えたら、声を上げない理由はありませんでした」(山本さん)

(文・竹下郁子)

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