日本型雇用をブチ壊すだけでいいのか。「欧米型就活バンザイ」議論に欠けている3つの視点

日本社会 労働

就活ルール廃止が「日本型雇用の終えん」につながるとの見方に始まり、いまや日本型雇用から脱却すべきとの強い意見も出てきているが、本当にそれでいいのだろうか。

撮影:今村拓馬

10月5日、ネット生放送のニュース番組「NewsX」に出演する機会をいただいた。経団連の中西宏明会長による「就活ルール廃止」発言以来、喧々諤々の議論がかわされている日本の新卒採用のあり方をテーマに、ベストセラー『転職の思考法』著者の北野唯我氏や、Business Insider Japan編集部の方々とともに問題を掘り下げた。

10月5日放送のニュース番組「NewsX」より、北野唯我氏と筆者がコメンテーターとして出演した第2部。45分間しゃべりっ放しだったが、それでもこのテーマについては話し足りないと感じた。

提供:dTV channel

採用・若手キャリア支援のプロフェッショナルである北野氏と、人事労務を専門とする筆者との間では、意見が合致する部分もすれ違う部分もあったものの、早期インターンに代表される脱ナビ型採用、多国籍採用などの潮流から、年功序列、日本型雇用、企業の採用選考方法への疑問、学生の貧困、親の経済力による就活格差まで、就活を取り巻くさまざまな視点に触れることができた。

就活ルール廃止議論の「偏りと危うさ」

就活ルール

雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏が執筆したコラム記事。「秋山氏の寄稿は興味深いのだが、現行の採用ルールができた経緯については筆者にも思うところがある」との問題提起。

出典:ITmedia ビジネスオンライン

9月3日の中西会長発言から1カ月半が過ぎようしているが、就活をめぐる議論はいまだに続いている。この間、労働政策研究所長の濱口桂一郎氏、東北学院大学教授の菅山真次氏といった労働政策の重鎮を含め、多くの識者がそれぞれの持論を展開してきた。

尊敬する雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏には、筆者のBusiness Insider Japan寄稿への対論記事までいただいた。

参考記事:経団連「東京五輪のために採用前倒し」計画が、就活ルール廃止にすり替わった本当の理由

この分野のキーパーソンの論考がこれだけ集中するに至ったのは、それほど現在の就活ルール廃止に関する議論に偏りと危うさを感じているからだろう。終着点が見えずに混迷している足もとの議論の状況を、三つの観点から整理してみた。

  1. グローバル化・流動化の中で、企業・学生双方の焦りが高まっている
  2. 欧米型礼賛のあまり、日本型就活や雇用の良さが誤解されている
  3. 教育と雇用、家庭の視点が欠落し、採用「時期」の話に堕している

以下でそれぞれを詳しく見ていこう。

企業・学生双方の焦り、「1社目ブランド」はさらに重要に

マッキンゼー コンサル

「1社目ブランド」の代表格とも言える外資系コンサルティング会社、マッキンゼー・アンド・カンパニー。同社から独立した人材による著書も数多く出版されている。

REUTERS/Arnd Wiegmann

かつては金融・コンサル・IT、あるいは高度専門職に限られていた「優秀な人材の年収が何倍にも上がって外資系企業に転職していく」現象は、いまやあらゆる産業、あらゆる年齢層で起こるようになった。

今のままではマズいという恐怖感は、実際に優秀な人材の流出を何度も経験してきた経営者たちにとって、もはや拭いがたい感情だ。報酬、仕事そのものの魅力や新規性、働きやすい職場環境、採用時点からの会社と個人の自立した関係のつくり方など、海外企業に学ばなければ取り残されるという意識は、この数年で飛躍的に高まっている。

一方、学生の方もグローバル化・流動化への強い恐怖感を持っている。

かつてエリートの代名詞だった旧帝大も、いまや海外大学卒の前に霞んで見える。そして、大学名以上に怖いのが「1社目ブランド」だ。20代、30代で活躍するビジネスパーソンの多くが、GAFAに代表されるグローバルIT企業、マッキンゼーなどのコンサルティング企業、国内なら大手商社、電通、博報堂、リクルートなどのいわゆる「人材輩出企業」を1社目に経験している。

転職や起業が増えて多様化・流動化が進めば進むほど、実は1社目のブランドが重要になることを「意識の高い」学生は敏感に察知している。だからこそ学生たちは、大学受験のために(外部の)塾に通ったように、大学や国内企業が決めた内向きで横並びのルールに背を向け、1社目就活に時間とコストをかけて自発的な取り組みを始めているのである。

日本型就活や雇用の良さが過小評価されている

就活 学生

黒髪・紺スーツ・ひっつめ髪の集団就活を、画一的で旧態依然としたスタイルと批判する声もあるが、この日本的就活・雇用によって守られてきた利益もある。

撮影:今村拓馬

就活ルール廃止の議論に乗じて、「今こそ日本型雇用は変わるべき」などとメディアを通じて声高に発信する方々が数多く見受けられるが、日本の人事のあり方を安易に馬鹿にし過ぎではないだろうか。キツい言い方になるが、あえて言わせてもらえば、考えが浅い。

彼ら彼女らは、自分だけの原体験や、自分と似たような集団の限られた意見だけに耳を傾けて、雇用という大きなテーマを語ろうとする。しかし、経済のグローバル化とともに、日本型雇用にさまざまなひずみが生まれているのは事実とはいえ、決して世界に恥ずべきシステムではないのだ。

黒髪・紺スーツ・ひっつめ髪の学生たちが一斉に就活を繰り広げる日本の春の風物詩は、確かに「突っ込みどころ満載」かもしれない。とは言え、それだけをもって日本型の就活や雇用が欧米型に劣っていると結論するのはあまりにも短絡的と言わざるを得ない。

日本の就活のあり方は世界的に見ても特異である。しかしその結果、きわめて高い卒業後就業率を実現できている。欧米諸国に比べれば、日本は若者の労働問題を起こさずに進んできた国と評価されていいだろう(リーマンショック後に就活せざるを得なかった2011年の卒業者ですら、就業率は91%にのぼる)。

一方で、新卒時の就職活動での失敗を取り戻しにくい、日本型雇用の「硬直性」は大きな問題だ。昨今「アラフォークライシス」などと呼ばれる就職氷河期世代の貧困問題の一因は、日本型就活にある。ところが、現在行われている就活ルール廃止や採用の自由化・通年化の議論は、多様な人材、さまざまな世代に機会を提供する方向には向かっていない。

いずれにしても、欧米型礼賛を口実にして、強者のための採用早期化に議論が進んでいくことは、雇用の視点からこの問題を見ている筆者のような立場の者にとっては大いに物足りない。さらに言えば、採用選考を早期化するだけの話なら、日本は10年以上前にも同じ道を歩み、得るものが小さくて引き返した過去がある。歴史を知るものにとっては稚拙な案なのだ。

教育と雇用、家庭の視点が欠落している

東京工業大学 学生

東京工業大学の図書館にて。自発的に研究や学業に打ち込む学生時代はもちろん素晴らしいものだが……。

REUTERS/Toru Hanai

世界的にも珍しい「学校卒業≒正社員就職」が当たり前とされる日本の独自性は、行政・学校・企業・家庭の緊密な連携によって築き上げられたものだ。

学校は専門性を過度に限定せず卒業させ、企業は就労意欲ある学生たちを人気企業から不人気企業へと順繰りに広く受け入れた。行政は学校から企業への若者のスムーズな移行を陰で支え、家庭は大学進学を経済面で支え、さらに口うるさく卒業即就職を常識として求めた。その結果、若年失業者の発生が未然に防がれてきた。

ところが、現在の就活をめぐる議論では、欧米に比べて日本企業の初任給が低いこと、日本では採用面接を受けられる期間が短いことばかりを重く見て、欧米型採用への移行を進めるべきとの意見が強まっている。

しかし、企業や学生ひいては日本社会は、専門を定め、在学中は就活に時間など割かず、勉強に集中しないと卒業できない欧米型教育を本当に求めているのだろうか?

就労機会は少ないけれども給与は高い、欠員補充型の採用を目指すと断固宣言できるのか。卒業後の失業期間が当たり前にあり、その間の生活支援は家庭に期待できる、親にまかせる社会でいいのか。高い報酬が払えない中小企業は採用も厳しい、そういう社会で本当にいいのだろうか。

一部の企業と学生だけで結論を出すべきではない

東京五輪 建設

2020年の東京オリンピック開催に向けて急ピッチで会場建設などの準備が進む日本。しかしその裏で、労働市場の雰囲気としては、「特需」終了後の景気後退を見越した採用規模縮小の動きも見えてきている。

REUTERS/Toru Hanai

企業も学生も状況変化に焦っていて、何かを変える必要があると感じている。しかし、早期・通年採用を実現すれば問題は解決するという単純な話ではない。教育・雇用・家庭それぞれの変化を踏まえ、日本なりの新たな就活のあり方を模索する必要がある。議論を整理した上で、現時点で言えることはそれしかない。本来的には、時間をかけて議論すべきテーマなのだ。

東京五輪の終了後、消費税率の引き上げ後をにらんだ採用縮小の気配が、少しずつ感じられるようになってきた。状況は遠からず今とは異なったものになるかもしれない。教育と雇用の接点のあり方という重要な問題を、大きな変化の一時的な状況に振り回されて、一部の企業と学生だけで安易に方向づけてはならない。

大学も家庭も、企業も法律も大して変わっていないのに、採用のあり方だけを変えて良い結果を得ようという発想は虫が良すぎるし、何より次世代の社会に対して無責任ではないだろうか。


秋山輝之(あきやま・てるゆき):株式会社ベクトル取締役副社長。1973年東京都生まれ。東京大学卒業後、1996年ダイエー入社。人事部門で人事戦略の構築、要員人件費管理、人事制度の構築を担当後、2004年からベクトル。組織・人事コンサルタントとして、のべ150社の組織人事戦略構築・人事制度設計を支援。元経団連(現日本経団連)年金改革部会委員。著書に『実践人事制度改革』『退職金の教科書』。

ソーシャルメディアでも最新のビジネス情報をいち早く配信中

あわせて読みたい

Live life moment