東京・お台場にあるフジテレビ
撮影:小島寛明
10月24日に臨時国会が召集される。外国人の新たな在留資格を創設する「出入国管理及び難民認定法」(入管法)の改正をめぐる論戦が焦点となりそうだ。
日本国内の人手不足と外国人労働者の増加に注目が集まる中で、10月6日夜に放送されたテレビ番組「タイキョの瞬間!密着24時」に対し、弁護士25人が放送局のフジテレビに対して意見書を送った。
意見書は「外国人の退去強制手続等を扱ったものでしたが、内容が極めて不適切であり、対象となった外国人のみならず、日本に滞在するすべての外国人の人権、名誉感情を著しく傷つけるものです」と、番組を強く批判している。
番組の内容に対して、弁護士たちが放送局を批判する意見書を送るのは、それほど頻繁にあることではない。弁護士たちは何を問題ととらえたのだろうか。
「嫌な国だなと思いませんか」
東京都港区の法務省東京入国管理局。
撮影:小島寛明
番組は、外国人の不法滞在や不法就労の取り締まり、収容を管轄する法務省入国管理局の担当官の仕事ぶりを追ったものだ。不法就労をするインド人たちが共同で暮らすアパートに、担当官たちが張り込み、アパート内部の調査にも踏み込む。
手のひらをモチーフにした番組のロゴには「出て行ってもらいます」とも書かれている。
意見書の起案に携わった浦城知子弁護士は「自分が海外に行ってテレビを見ていて、『違反したら追い出すぞ』という番組をやっていたら、嫌な国だなと思いませんか」と話す。
フジ「タイキョの瞬間!密着24時」の紹介ページ。「日本列島で繰り広げられる“退去の瞬間”にカメラが完全密着!不法滞在者や、不法占拠など、違法行為や迷惑行為を許さないプロフェッショナルたちの姿を描く緊迫のリアルドキュメント番組」とある。
出典:フジテレビHPより編集部キャプチャ
浦城弁護士が、特に気になったと話すのは、摘発の場面だ。アパートに張り込み、対象の外国人が屋外に出てきた場面だ。
アパートから外国人が出てきたところで、入管の担当官が在留カードの提示を求め、在留資格に問題があることを確認し、そのまま車に乗せて入管の施設に任意同行させる。
外国人が暮らす室内に立ち入り、部屋の中の状況を調べる。立ち入る前に「入るよ」と問いかけているようでもあるが、外国人側が明確に同意したかどうかは映像からは分からない。
本来、立ち入りには裁判官が交付した許可状がいるが、「許可状のない状態での立ち入りに見える」と、浦城弁護士は指摘する。
おそらく、入管側の言い分としては、「入るよ」というやり取りで、承諾を得た任意の立ち入りだということなのだろう。
弁護士側の意見書は、「結果的に超過滞在者や不法就労者が含まれていたにせよ、このような調査方法は極めて強引で適法性が疑われるものであり、外国人の平穏な生活を脅かすものです」と指摘している。
不法滞在をどう報じるか
「無抵抗の人に、なぜ手錠が必要なのでしょうか。それを撮影し、報道する側も問い直してほしい」と浦城弁護士は話した。
REUTERS/Ueslei Marcelino
不法滞在の外国人をめぐる報道で取り扱いが難しいのは、刑法などに違反した重大な犯罪ではない点だ。今回の退去強制も、入管法に基づく手続きだ。犯罪を取り締まる刑事手続ではなく、行政手続にあたる。
番組内では、強制送還される外国人が手錠をされて連行される場面も登場した。
こうした映像について意見書は「重大な人権侵害である手錠の必要性についてメディアとして問題提起をするべきであるのに、同映像は彼らが重大な犯罪者であるかのような印象を強める映像となっていました」と指摘する。
行政手続である退去強制など、不法就労の外国人の摘発をどのように報じるのが「公平」なのだろうか。浦城弁護士は言う。
「今回の番組に出てきた入管職員の態度、手続きは、不法滞在、不法就労をした外国人を、私たちと同じ人間と見ていないように思えました。手錠についても、在留資格のない外国人には何をしてもいいという意識が表れています。無抵抗の人に、なぜ手錠が必要なのでしょうか。それを撮影し、報道する側も問い直してほしい」
フジテレビ側からは、10月15日付で以下のような回答が弁護士側にあったという。
「退去強制対象となった外国人を重大な犯罪者のように扱う意図や、アジア出身者に対する偏見、差別を助長しようという意図は決してありません」
「いただいたご意見を真摯に受け止め、番組スタッフの中でも共有致しました」
(文:小島寛明)