左から、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子、反政府記者ジャマル・カショギ氏、トルコのエルドアン大統領。
Hamad I Mohammed/Reuters; Middle East Monitor via Reuters; Matt Dunham - WPA Pool/Getty Images
- ジャーナリストのジャマル・カショギ氏の死をめぐり、サウジアラビアができるだけその責任を小さく見せようとする中、トルコ当局はアメリカやトルコのメディアに対し、次々と情報をリークし続けている。
- エルドアン大統領を含め、多くのトルコ政府高官がカショギ氏の死にサウジアラビアのトップの関与があったとする主張を強めている。
- 専門家は、トルコがサウジアラビアから新たな契約もしくは資金提供といった形で何らかの譲歩を引き出そうとしているのではないかと指摘する。
- トルコとサウジアラビアは、この地域の主導権を争う緊張関係にある。
イスタンブールで殺害されたジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏の事件からできるだけ距離を置こうとするサウジアラビアに対し、トルコは動きがあるたびにそれに対抗している。
カショギ氏の服を着てイスタンブールを歩き回る、サウジの替え玉と見られる人物の監視カメラ映像といった情報が、次々とアメリカやトルコのメディアにリークされている。そして、トルコ政府高官はカショギ氏の死にサウジアラビアのトップの関与があったとする主張を強めている。
トルコのエルドアン大統領は、カショギ氏の死について「赤裸々な真実」を明らかにすると述べていて、カショギ氏が殴り合いのケンカの末に死亡したとするサウジアラビアの主張の矛盾をつくものと見られる。
AFP通信の報道によると、トルコの与党、公正発展党(AKP)の広報担当オメル・チェリック(Omer Celik)氏は22日、カショギ氏の殺害は「非常に残酷な形で企てられた」もので、「これをごまかすために、多大な努力がなされた」と述べた。
トルコの相次ぐリークやサウジアラビアに対する主張は、トルコがその情報を使ってサウジアラビアから何らかの譲歩を引き出そうとしているサインかもしれない。
サウジアラビアとの交渉材料にしようとしているとの専門家の見方も
トルコは交渉材料にしようとしているのだろうか?
REUTERS/Amir Levy
ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(SAIS)のリゼル・ヒンツ(Lisel Hintz)助教はBusiness Insiderに対し、トルコの最近の動きは「トルコ政府が自らの持つ情報によっていくら引き出せるのか、推し量ろうとしていることの表れ」だと語った。
「トルコは(メディアへのリークや公式発言といった)非公式ルートで試している」
「彼らが何をつかんでいるかサウジアラビアに知らせている、もしくは少なくとも彼らが知っていることに対していくらか引き出すことができると主張している」と、ヒンツ氏は指摘する。
「国防契約、建設契約、非公式の資金提供…… それがどんな形になるのかは分からない」と、同氏は続ける。「しかし、その言動やこうした非公式ルートを使った情報のリークを考えると、(トルコ政府は)サウジアラビアに対し、何かしらつかんでいることを知らせ、それを売ろうとしているように見える」
10月2日、イスタンブールにあるサウジアラビア総領事館に入るカショギ氏の姿を捉えた監視カメラ映像。
CCTV/Hurriyet via AP
ニューヨーク・タイムズの元トルコ特派員Ceylan Yeginsu氏も、トルコがサウジアラビアと何らかの取引をしようとしていると指摘する。
Yeginsu氏は22日、カショギ氏の殺害に関するトルコの相次ぐリークは「リヤドとの取引がまだ成立していないことを示している」と、ツイートした。
「エルドアンが捜査の詳細について『赤裸々に』明かすという明日まで、彼らには時間が残されている」と同氏は加えた。
10月2日にカショギ氏が行方不明になってからトルコ政府もその主張を変え、今ではサウジアラビア王国がカショギ氏の殺害を計画し、事件そのものを取り繕おうとしていると主張している。
王立国際問題研究所(チャタムハウス)の中東・北アフリカ・プログラム(Middle East and North Africa Program)のシニア・リサーチ・フェロー、ニール・クイリアム(Neil Quilliam)氏は先週、Business Insiderに対し、 トルコ政府は「この危機を切り抜ける手段をサウジアラビアに提供する準備をしていたが、サウジアラビアの対応を見て、もしくは反応がないことを見て、さらなる詳細を共有し続けているのだろう」と語った。
地域の主導権を争うトルコとサウジアラビア
スンニ派のムスリム世界で、トルコとサウジアラビアは主導権争いをしている。
Zurijeta/Shutterstock
トルコとサウジアラビアの関係は希薄だ。どちらもスンニ派のムスリム世界で主導権を握ろうとしているが、国のあり方は異なる。トルコはイスラムと自由民主主義の要素を融合させる一方、サウジアラビアはより保守的かつ原理主義的だ。
エルドアン大統領率いるトルコはムスリム同胞団やハマスと協力してきたが、サウジアラビアはこの2つの組織をテロリスト集団と見なしている。
また、2017年6月にサウジアラビアとその同盟国がカタールとの国交を断絶した際には、トルコは公にカタールを支援した。
しかし、だからといってトルコとサウジアラビアはお互いにとって最大の敵ということではない。今夏、通貨が急落したトルコは、サウジアラビアを自国経済の潜在的な投資家と見なしている。
トルコのリークには警戒を
トルコのエルドアン大統領。
REUTERS/Umit Bektas
トルコ政府がアメリカやトルコのメディアにリークした情報は、鵜呑みにできるものではない。
「Daily Sabah」や「Yeni Safak」といった親政府系のトルコ・メディアは、カショギ氏殺害の瞬間が彼のアップルウオッチ(Apple Watch)で録音されていたといった、テクノロジーの専門家が疑問視するような、未確認情報を報じてきた。
「Daily Sabah」も「Yeni Safak」も、過去にフェイクニュースを伝えたことがあると、BBCは報じている。
また、トルコの匿名の政府関係者が繰り返し、カショギ氏殺害の様子を捉えた音声データを持っていると主張しているが、複数の欧米の情報機関がそうしたデータを受け取ったことはないと述べている。
アメリカのトランプ大統領も、こうした録音データの存在には懐疑的だ。
「我々はその存在について聞いているが、誰も見たことがない」と、トランプ大統領は20日、FBIやCIAからの情報も含めて述べた。
SAISのヒンツ氏は、アメリカのコメンテーターやメディア、政府は、トルコメディアの報道を「頼りにし過ぎている可能性がある」と言い、トルコ政府にはこうした情報を持っていると主張する計り知れないインセンティブがあるという事実を十分に考慮していないのではないかと指摘する。
また、事件を報じている親政府系の新聞は、政府が書いて欲しいと思うことなら何でも報じる傾向があると加えた。
「こうした主張の信ぴょう性については、慎重であるべきだ」と、ヒンツ氏は言う。「AKPとこうした新聞との結びつきは非常に強い。これらの新聞に掲載される内容で、少なくとも事前に政府の承認を得ていないものなどない」
[原文:Why Turkish officials keep challenging Saudi Arabia's claims about Khashoggi's killing]
(翻訳、編集:山口佳美)