求めるのは受験料返還と慰謝料と「差別のない社会」東京医大被害者弁護団に聞く

入試において女性受験生に差別的取り扱いをしていた東京医科大学に対し、得点開示などを請求する動きが始まった。

被害受験生からの相談をもとに、今後、東京医科大との交渉を手掛けるのが「医学部入試における女性差別対策弁護団」だ。参加する弁護士は64人に上っており、10月24日に都内で記者会見を開き、現状報告と今後の予定などを報告した。

活動の一環としてのクラウドファンディングも始めた。担当である櫻町直樹弁護士(パロス法律事務所)は、「東京医大の被害受験生だけでなく、差別のない社会を目指すことは他の人にも影響が大きい。その意味でクラウドファンディングによってご支援を募ることにふさわしいケース」と話す。

弁護団としてどう活動していくのか。櫻町さんに聞いた。

東京医科大学

写真:今村拓馬

—— 弁護団は今後、何をしていきますか。

櫻町:東京医大については10月29日に第一次請求を行うため、大学に直接、請求書を持って行く予定です。入試における差別の問題は、他の医大でも起きていたことが、報道で明らかになっています。私たち弁護団は、東京医科大だけでなく他大への対応もすべきと考えています。

—— 東京医大には、具体的に何を求めますか。

櫻町:まず、各年度における一次試験、二次試験の合格最低点の開示を求めます。また請求者(被害受験生)個人の得点の開示を求めます。

これらが明らかになると、得点操作がなければ合格したはずの人は、自分が該当すると分かります。報道によると、不正が行われていたのは平成18年度(2006年度)から。期間が長く事実確認に時間がかかることが予想されます。東京医科大学第三者委員会の第一次報告書 が10月23日に公表され,平成29年度と30年度については、不正がなかったなら合格した受験生の人数が公表されています。

櫻町直樹弁護士

10月24日「医学部入試における女性差別対策弁護団」会見での櫻町直樹弁護士。

撮影:竹下郁子

また東京医科大学は、女子受験生について性別を理由に一律減点することを隠していた。いわば、「ちゃんと採点しますよ」と女子受験生を「だまして」受験させたと言えます。

つまり、真実を隠して不当に受験をさせたということなので、ひとり1年度あたり10万円の慰謝料を請求する予定です。受験料の返還も求めます。

11月中旬に大学側から一次請求に対する回答があるはずなので、それを受けて被害者と弁護団で協議をします。さらに大学側に対して請求をしていくか、どのような請求をしていくかは、個別状況により異なってくると思います。

—— 弁護団でクラウドファンディングを担当されています。

櫻町:この件に関する弁護団の活動は現状、ボランティアで行っています。被害受験生との面談、文書作成などは無償ですし、弁護団会議に出席する際の交通費なども各自の自己負担です。

ただ、今回クラウドファンディングを始めたのは、私たち弁護士の人件費を賄うためではありません。この弁護団の活動は社会的な広がりを持っていると私は考えています。

「差別がない世の中とある世の中、どっちがいいですか?」と聞かれたら、ない方がいいに決まっていると男性の立場でも思います。

今回、被害受験生は東京医大に慰謝料や受験料などの返還を求め、それを我々弁護団が支援する形ですが、これは、被害受験生の方々の個人的な利益を求める活動に留まりません。

問題解決の結果、差別がない社会に近づくことで被害受験生という当事者以外にも直接・間接的な影響があるでしょう。だからこそ、広い範囲で活動資金を集めることに意義があると思っています。

10月24日午前10時からクラウドファンディングサイトを開設し、その日のうちに目標額(250万円)に到達しました。25日午前11時30分の時点で、支援者数135人、支援総額326万5000円となっています。

打越さく良、角田由紀子

同弁護団の打越さく良さん(左)、角田由紀子さん(右)。

撮影:竹下郁子

—— 改めて公平であるはずの入試における女性差別について、どう思いますか。

櫻町:まさに弁護団が「許せない」と思ったのは、入試という「公平性」が何より求められる場面で、ここまであからさまな性差別がされていたからです。「女性医師が増えると医療現場が崩壊する」という声もあるようですが、それは本末転倒で、ならばまず医療現場が崩壊しないように改善をするべきではないでしょうか。

その努力をせず、現状を当然として女子受験生に負わせるようなことは、認められるべきでないと思います 。

—— 残念なのは、「本来やるべきこと=医師の働き方改革」に議論が及ばず、「仕方ない」と現状肯定する人が、少なくないことです。

櫻町:根本的な問題は、医師の勤務形態が過酷すぎることでしょう。例えば、当直明けで連続して勤務するような働き方は、子育て中だと男性だって難しい。このような働き方になってしまう背景には、そもそも医師の数が少ないことがあるのではないでしょうか。

医師の数自体が少ないというのは、診療報酬の問題もあるのかもしれません。医師の数を確保するために十分な給料を払おうと思っても、国によって金額が定められている診療報酬という枠がある以上は限界があると。これは、医学部や病院だけでなく医療保険制度にさかのぼって考えるべき問題でしょう。

また、医師が事務的な仕事を担いすぎていることが長時間労働の一因となっている、という話も聞きます。例えば、可能な範囲でコメディカル(医師、看護師以外の医療従事者)に任せるなど業務分担を進めたり、作業を電子化したりすれば、労働時間短縮につながるのではないでしょうか。

医学部は大学病院や系列病院に人材供給する機関と位置付けられています。大学と卒業後のキャリアが直接つながっているところに、本件の特殊性があると思います。こういう構造を前提として起きたのが、今回の入試における女性差別であると思います。

東京医科大

10月23日、元受験生たちも実名で会見を行った。

撮影:竹下郁子

—— 働き方については、男性医師だから過酷で良い、とは言えないはずです。

櫻町:海外では医師に占める女性比率が5割を超えるところもあります。日本の現状が当然とは言えず、改善の余地は大きい。男性医師でも子育てなど家庭の責任を考えたら、17時に帰りたい人がいてもおかしくない。家事や育児などをせず仕事のみに没入という生活は、健全といえるでしょうか。

同じ医療職でも看護師は女性が多い職業です。夜勤もありますが、女性医師の場合と違って結婚や出産に伴って離職しなければならないというケースはあまりないように思いますし、きちんと仕事が回っていると思います。これは人員が確保され、シフト制がしっかりしていること、などの要因があるのでしょう。ですから、「物理的に不可能」という問題ではないと思います。

今回の件では医師の間でも肯定、否定、いろいろ意見があるようですが、同じ医師でも大学病院とそれ以外の病院では働き方が異なっているという面もあると思います。大学病院では診療に加えて,研究や教育などもしなくてはいけない、主治医制度が一般的である、そして象牙の塔ですから外部から変革のプレッシャーを受けない。そうした違いが、医師の間での「温度差」を生み出しているのかもしれません。

それでも入試で女性を差別することは、いかなる理由があっっても正当化できないものです。すみやかに根絶されるべき問題であることを、多くの人に知ってほしい。そのためにも弁護団としての活動は重要性を持つと思っています。

(文・治部れんげ)

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