2016年のパワーボールチケットを手に持つ客。
Justin Sullivan/Getty Images
- 6つの数字を選ぶアメリカの宝くじ「パワーボール」の当選金額は7億5000万ドル(約840億円)に膨らみ、全米史上4番目の高額となった。
- 10月24日(現地時間)、当選数字が発表されたが当選者は発表されなかった。
- 不可能に近い確率にもかかわらず、なぜ人は「当たる」と考えるのか。心理学者に聞いた。
外れた数百万人には残念な知らせだが、10月24日、賞金が16億ドル(約1800億円)に膨らんだ宝くじ「メガ・ミリオンズ」についに当選者が出た。当たりくじは、サウスカロライナ州のコンビニエンスストアで販売された(メガ・ミリオンズも6つの数字を当てる)。
そして次は賞金7億5000万ドルの宝くじ「パワーボール」で大金を手に入れようと多くの人が躍起になっている。パワーボールの当選者はまだ発表されていない。
全米史上4番目に高い賞金となったパワーボールの当選確率は約2億9200万分の1。
宝くじに本当に当たるかもしれないと考えることは、馬鹿げたことに思えるだろう。だが、アメリカ人は宝くじが大好き。
CNNによると、2017年、アメリカ国内で従来の宝くじに費やされた金額は約735億ドル(約8兆2000億円)。この数字は電子宝くじを含めると800億ドル(約8兆9000億円)に上る。
我々が宝くじを購入するのは好奇心のためだけではない。我々の多くは、実際に当たるのではないかと考えている。そんな考え方の背後にある心理を見てみよう。
我々は悪いリスクよりも、良いリスクに賭けてしまう。
ロサンゼルスでメガミリオンズに申し込む女性。
Mario Tama/Getty Images
ギャンブルとなると、人は実際よりも楽観的になりがち。我々は高額の報酬がかかわると、リスクを取っても良いと考えるようになるとノースウェスタン大学の精神医学・行動科学の教授、ハンス・ブライター(Hans Breiter)氏は述べた。
確率が低ければ低いほど、より重要だと思ってしまう。
「1ドルで何ができるか、想像してみてください」と書かれたパワーボールのチケット。
Thomson Reuters
人間の心理は「宝くじに当たるといった、おそらく絶対に起こらないような出来事をより重要視する」とブライター教授。
「一方で、加齢とともに起こる健康問題のために医療保険が必要になるといった確実に起こることは軽視しがち」
「分からない出来事には、なにか本質的な魅力がある」とウェズリアン大学の助教授、マイク・ロビンソン(Mike Robinson)氏は語った。
外れた時でさえ、「あと少しだった」と思ってしまう。
2016年のパワーボールに並ぶ人たち。カリフォルニア州、サンロレンゾ。
Justin Sullivan/Getty Images
外れたが、6つの番号のうち、3つは当たっていたとする。次回、当たる確率は高くなっただろうか?
まったくなっていない。過去の結果は未来の結果に何の影響も与えない。「ギャンブラーの誤解」の罠に陥り、すぐに当たるに違いないと考えている人は、結局、大金を失ってしまう。
期待値を調整済み。
酒販店「カバナー・リカーズ」でパワーボールを買う客。この店からは、過去に数名の当選者が出ている。
Justin Sullivan/Getty Images
宝くじを買う人の多くは、確率が非常に低いことを認識している。むしろ、これこそがそもそも我々が宝くじを買う理由かもしれない。
ノースウェスタン大学の心理学部のマーク・ライネッケ(Mark Reinecke)氏は、人は普段は空いているコンビニにいつになく長蛇の列ができている時など、期待が裏切られるとフラストレーションを感じがちとBusiness Insiderに語った。
ロビンソン氏もこの意見に同意した。
「人は一般的に、何か重要なものを手に入れるチャンスに対して数ドルを費やすことには抵抗がない。毎日の中で見ると、些細なことに感じる」
「暗号を解く」ことができると思ってしまう。
パワーボールのチケットを見せる男性。ダラスのコンビニエンスストア。
LM Otero/AP
ギャンブルをする時、多くの人は、結果をコントロールできると思い込んでしまう傾向がある。特にギャンブル好きに見られる傾向だ。人は、正しい戦略を使ってシステムの裏をつけば、大勝ちできると自分に言い聞かせる。
しかし、心理学者はそうした考えは幻想と語った。当選確率を上げるためにできる小技はあるだろう。しかし、宝くじは最終的にはランダムだ。
あるレベルを超えると、我々は確率を考えることができない。
ルイジアナ州のバーで売られている宝くじ。
Rogelio V. Solis/AP
当選確率が2億9200万分の1と極めて低い時、それを想像することは難しい。その理由は、人間の脳は2億9200万分の1の確率と、それよりもはるかに高い10万分の1の確率を十分に区別できるようには進化していないから。
「100万台の数字になると、脳内でイメージできなくなる」とロビンソン氏は述べた。
当たった人に注目する。外れた人ではなく。
当選を祝う人。スペインの宝くじ。
Francisco Seco/AP
我々は、誰かが大当たりしたというニュースにも大きく影響される。数百万人の落選者の上にいる、わずかな当選者のことをより考えてしまう。
これは「可用性バイアス」と呼ばれるもの。過去の事例にもとづいて確率を高く見積もってしまう。
分かりやすい例をあげると、花火が原因で死ぬ確率の方が、パワーボールで7億5000万ドルを当てる確率よりも高い。
(翻訳:Yuta Machida、編集:増田隆幸)