「ビジネス書」風のキングダムの表紙(写真は有隣堂 ミウィ橋本店で撮影)。
撮影:西山里緒
累計発行部数は3600万部を突破、実写映画化も決まり、今ノリに乗っている漫画「キングダム」。
10月には「今、一番売れてる、ビジネス書。」というキャッチコピーのもと、キングダムの表紙をビジネス書風に変える広告キャンペーンが打たれ、SNS上で話題になるなど、ビジネスパーソンにも絶大な人気を誇っています。
キングダムの舞台は春秋戦国時代。もちろん話にはビジネスの「ビ」の字も出てきません。そんなキングダムが、なぜ多くのビジネスパーソンの心を打つのか?
そこで、キングダムが大好きという経営者の方々に「キングダムからビジネスの何が学べますか?」を、聞いてみました。
(注:本文にはネタバレが含まれます)
お話をお聞きしたのは、この3人。
株式会社リンクアンドモチベーション 取締役 麻野耕司さん
作成:Business Insider Japan
株式会社CRAZY 代表取締役社長 森山和彦さん
作成:Business Insider Japan
株式会社Ginco CEO 森川夢佑斗さん
作成:Business Insider Japan
まずは簡単にあらすじをおさらい。
舞台は、春秋戦国時代(紀元前8〜3世紀)の中国。
のちに秦の始皇帝として中華統一を果たす若き秦王・嬴政(政)と、身寄りのない孤児から、将軍へと成り上がっていく信。
二人の主人公が、いまだかつて誰も成し遂げたことのない「中華統一」の夢を実現していく様子が、史実を元に描かれる。
では、さっそく、キングダムからビジネスの何を学べるのか?を聞いてみました。
麻野さん「ビジネスにおける“戦略”と“戦術”の違い」
中華統一によって「法治国家」をつくりたいという夢を語る政。そのビジョンに感銘を受けた敵国・斉の国王は、秦に事実上の“降伏”宣言をする。
©︎原泰久/集英社
経営者も、競合が出てきたときに、戦うことを考えるのではなく、素晴らしいビジョンを提示して「うちの会社が買収するので、グループインしてくださいよ」ということが最大の功績かもしれない。
森山さん「リーダーのあるべき姿」
非物質的な幸せ、つまり友情や戦う目的を飛信隊は提供できています。
また面白いのが、それが「正しい」というわけでもない。今でいうと、お金や名誉を与えることで人の心を満たす組織の方がまだ主流でしょう。
森川さん「スタートアップの成長過程」
戦いとともに成長していく、信は「起業したい学生」(森川さん)。
©︎原泰久/集英社
一方で政は、敵国で人質として育てられたという自分の過去があり、その上で中華統一を目指している「天命型」。
イチオシシーンを“ビジネス的に”解説してもらうと……
麻野さん「ライバル・桓騎軍から、信が率いる「飛信隊」へ那貴が“転職”するシーン」(45巻)
2コマ目の桓騎の目は「エンゲージメントの4Pについて理解した目」(麻野さん)。
©︎原泰久/集英社
エンゲージメントには、4Pと呼ばれる「Philosophy(理念・目標)」「Profession(仕事・成長)」「People(人材・風土)」「Privilege(待遇・評価)」の要素があり、これらを高めていくと、人材から選ばれる組織になるのです。
森山さん「昌文君に対し、李斯が『“法”とは願い!』と語るシーン」(46巻)
「法とは刑罰をもって人を律し治めるもの」という昌文君に対し、まったく違う答えを出す李斯。
©︎原泰久/集英社
政に仕える李斯が、法とは、人間のあり方の理想を形にしたもの、という言い方をします。これは今の世の中にもすごく通じると思うんです。
願いを持たずに制度だけ真似をしても、うまくいかない。そのことを気づかせてくれるシーンです。
森川さん「伝説の六大将軍の一人、王騎が信を馬に乗せるシーン」(16巻)
伝説の将軍・王騎は、今でいうスタートアップを応援する先輩経営者?(写真は渋谷駅構内のポスター)
撮影:西山里緒
自分が経営を始めてからあらためて思うのは、将軍とは何か。敵と、味方と、天と地と、周りの仲間という、広い視野を持ち、その一つひとつを見ながら、その中で自分が何をできるかを考える。
信にとってターニングポイントとなるシーンと言えるでしょう。
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麻野さん「トップがひどくても与えられた場所で頑張る。敵国・趙の天才的宰相、李牧」
政との会談時、ホンネがこぼれる李斯。今でいう「上司に恵まれない優秀な部下」?
©︎原泰久/集英社
僕も、経営者として戦略を立てるところも磨きたいですが、自身のコンサルタントとしての圧倒的なパフォーマンスで、顧客になってもらうことも大事だなと思っています。
(李牧が仕える)趙の悼襄王は国が滅びようとしているのに、お風呂に入っているんですよ(笑)。僕だったら「お風呂出ろや!」と言ってしまいますけど、李牧はそこをグッと我慢して、自分ができることをやる。
国が滅びようとしているときお風呂に入っている、趙の悼襄王。
©︎原泰久/集英社
……こんなことを言っていると、うちの会長が悼襄王みたいな人と誤解されそうですが、それは違います(笑)。
森山さん「極悪非道だが結果は残す。リーダーとしてのあり方を考えさせられる桓騎」
桓騎は市民を虐殺するなど非人道的なことをするが、そのために味方の軍の戦死者はとても少なかった。
©︎原泰久/集英社
信か桓騎か、どちらかを選ぶのではなく、彼らから学んで、経営者として、自分たちなりの答えを出せれば、と思っています。
森川さん「『リーダーとしての覚悟』を持つ、政」
「ほかの六カ国を滅ぼしてでも、天下を統一する」という思想を持つ政から、起業家としての覚悟が学べる(森川さん)。
©︎原泰久/集英社
経営をしていると、得ようとしているものに対して、自分は何を捨てても良いのか、その基準がないと大きな意思決定はできません。
スタートアップは、世の中に新しい価値を提示するもの。もちろん反対する人たちもいますけれど、そこで「自分が成し遂げたいこと」に対する覚悟の大きさが必要になってくるのだと思います。
起業家としてのあり方から、組織のつくり方、M&Aの本質まで。いたるところに話題が飛び交い、あまりの熱量に驚いた今回の取材。
古代の話でありながら、現代にも強くつながる普遍的なテーマを鋭く切り取るキングダム。だからこそ、これだけ多くの人の心を打つのだろうなあと思いました。
(取材・構成、西山里緒)