SAPIOも不定期刊に。先鋭化する右派雑誌現場の意外な“事情”

小学館は10月26日、保守系の隔月刊雑誌『SAPIO』が2019年1月4日発売号をもって不定期での刊行になると発表した。同誌関係者から「事実上の休刊」という情報を事前に得ていたBusiness Insider Japan編集部は、前日の25日に同社に質問状を送っており、その回答からほどなくして上記の内容がメディア各社によって報じられた。

『新潮45』(新潮社)の休刊を機にヘイトと距離を起き始めた大手出版社と、より先鋭化する中小出版社。保守論壇の「再編成の始まり」の構図が透けて見えてきた——。

SAPIO不定期刊は「リスクマネジメント」

SAPIO、新潮45、Hanada、WiLL

『新潮45』の休刊で出版業界は変わるのか。

撮影:竹下郁子

以下はBusiness Insider Japan編集部が2018年10月25日に小学館の広報を通じて『SAPIO』編集部に送った質問とその回答の一部だ。

質問1:『SAPIO』を休刊させることが内定したとの情報を信頼できる筋から得ました。本件は事実でしょうか。

「『休刊』ではありません。2019年1月発売号をもって刊行形態を変更し、定期刊から適時刊(不定期刊)として今後も刊行してまいります。すでに2019年2月に改元に関連した特集号を刊行する予定で、鋭意編集を進めております」

質問2:衆議院議員の杉田水脈氏の寄稿などをきっかけに、新潮社が『新潮45』の休刊を決めました。出版不況の中で販売部数を重視するあまり、偏見や認識不足に由来する表現、差別的な視点を含む特集企画が看過されているとの指摘も、一連の議論の中で識者から出されています。

『SAPIO』誌につきましても、近年は「安倍首相『大宰相への道』」「中国が日本でしている卑劣なこと」「日本人よ、気をつけろ北朝鮮と韓国はグルだ!」(以上、2017年11・12月号)、「女政治家はアホばかり」「中国と韓国に乗っ取られた日本領土」(以上、2018年1・2月号)といった極端な表現がタイトル等に目立つように感じられます。

編集体制、企画内容について、御社内ではどのような評価が為されているのでしょうか。また、そうした誌面の内容や社内からの評価は休刊に関係しているのでしょうか。

「『SAPIO』は創刊以来、月2回刊、月刊、隔月刊、そして適時刊と、状況に応じた刊行形態を常に模索してまいりました。今回の変更もその流れでかなり以前から検討してきたことで、ご質問にあるような背景はございません」

紀伊國屋書店

「ヘイト本を見たくないから書店に足を運ぶ機会が減った」と話す人もいる(写真はイメージです)。

shutterstock/TK Kurikawa

同誌は1989年創刊。2016年1〜3月に11万3833部あった発行部数も、2018年4〜6月の最新の調査では8万5000部まで減少していた(日本雑誌協会)。

同誌で連載を持っていた小林よしのりさんは、今回の決定を受けてブログにこう記している。

「雑誌の年齢層は超高齢化していて、その老人層は極右化・ネトウヨ化している。『HANADA』『WiLL』のように極右化しなければ、特に言論誌は生き残れない」(「ゴー宣ネット道場」より)

しかし、大手出版社が「極右化」できるのか。同誌関係者は今回の不定期刊化の背景にはやはり『新潮45』問題があったと言う。

「SAPIOの不定期化は実質的な『休刊』だと聞いています。表向きは売り上げが落ちているので刊行を減らすということですが、『新潮45』問題が起きたことで会社のリスクマネジメントとして、『ヘイト系の本や雑誌は出さない』と判断したそうです」

また、ある小学館の社員は、最近の誌面について社内からも疑問の声が上がっていたことを明かす。

「『新潮45』問題が起きる以前から、SAPIOに中韓ヘイト記事が掲載され始めたことを社内で疑問視する声が上がっていました。2年ほど前から編集者が『週刊ポスト』や『NEWSポストセブン』に異動になり、3~4人での編集体制にまで縮小され、最近はルーティン的な誌面づくりに陥っていたようです。休刊間近との見方は社内に定着していましたから、今回の決定に驚きはありませんね」

先鋭化する『Hanada』と『WiLL』

WiLL、Hanada

よく似ているように見える2冊。だが、つくり手たちはそれを否定する。

撮影:竹下郁子

一方で、『新潮45』の休刊を経てなお、保守路線をひた走る雑誌もある。

10月26日発売の『月刊Hanada』(飛鳥新社)は「『新潮45』休刊と言論の自由」と題した84ページに渡る大特集を組んだ。

犯罪である痴漢とLGBTを同様に扱う差別的な寄稿で大きな批判を集めた小川榮太郎氏の独占手記に始まり、櫻井よしこ氏、藤岡信勝氏、月刊『正論』発行人の有元隆志氏、自民党の稲田朋美衆議院議員などが寄稿や対談で登場している。

同日発売の『月刊WiLL』(ワック)でも、新潮45の休刊について「『新潮45』はなぜ腰砕けしたか」(高橋洋一氏、門田隆将氏)、「LGBTに向き合っているのは安倍政権」(松浦大悟氏)、「濁った時代」(曽野綾子氏)などの4つの記事が掲載された。

『Hanada』に寄稿した藤岡氏、『WiLL』に寄稿した松浦氏は、『新潮45』休刊のきっかけになった「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」特集にも寄稿していた人物だ。

『WiLL』といえば、『新潮45』について編集部の公式アカウントで「小川榮太郎氏の論文が『新潮45』の休刊を招いたことはご承知の通りです。弊誌は、現編集体制に移行した2016年4月以降、小川氏を起用しておりません。論壇誌として『本件につきコメントを』と取材依頼がございますが、受ける立場にないことを申し上げます」とツイートしたことが話題になった。

『WiLL』は2004年の創刊。創刊編集長はワック取締役でもあった花田紀凱氏。花田氏はその後2016年に同社を退社し、飛鳥新社で新たに立ち上げた雑誌が『Hanada』だ。ワックの出版局長は言う。

「当時、小川さんご本人から『僕は花田さんの方に書くからWiLLさんにはもう書きません』と言われました。それなのに社長宛てに小川氏に関するコメントの取材依頼があったからああいうツイートをしただけです。『新潮45』は最新の発行部数が1万6800部でしょう? 経営的に見れば、雑誌をやめるいいきっかけをもらったという感じでしょうね

「ライバルは文藝春秋」、自称「保守じゃない」20代が支える

サラリーマン

誰がつくり、誰が買っているのか。笑っているのは誰か、傷ついているのは誰か。

撮影:今村拓馬

前出の小林よしのり氏は同誌を「極右」だと呼んでいるが、前出の出版局長は反論する。

右派論壇やヘイト雑誌と言われるのは心外です。私たちは保守論壇誌として創刊しているわけで、韓国を叩くためじゃない。売れるという理由だけでヘイト本を出したり、朝日新聞を叩きながら同紙に年間数千万円の広告費をあげている出版社もありますが、そういう“商売保守と一緒にされたくありません。私たちは『文藝春秋』のようなガリバー雑誌に追いつけ追い越せと思ってやってきたんですから」

2008年6月号で山口県光市の母子殺害事件の被害者遺族、2009年8月号には論文問題で航空幕僚長を更迭された田母神俊雄氏のそれぞれ独占手記を掲載するなど、ヘイトではなくスクープ、ジャーナリズムによって読者を獲得してきたという認識だ。

同誌で最も部数が伸びたのは、2014年8月に朝日新聞が慰安婦報道で訂正を出した直後に発売した号だ。「史上最悪の大誤報だった!」と題した120ページの特集を組み、発売3日で完売。当時の発行部数は10万部だったが、5万部、3万部と2回重版し、計18万部を発行したという。

『WiLL』の最新号の発行部数は8万部。「Hanadaは6万部、正論は5万部と聞いています」(出版関係者)。『Hanada』と『正論』編集部に確認したところ、『Hanada』は現時点で回答がなく、『正論』は「公開していない」とのことだった。

WiLLの読者は60代以上がメインで、男性が約7割を占める。2017年度の売り上げは前年比170%、2018年も103〜105%で推移しているという。

WiLL編集部の3人の編集者のうち2人は20代と若い。20代編集者の一方は、自身を「右派とも保守とも思ったことがない」と話した。

「『ヘイト』と批判するのであれば、具体的にどこの箇所がそれに当たるのか指摘しなければ議論にならない。WiLLにはヘイトスピーチ対策法の対象になるような記事はありません『政権寄り』と言われることもありますが、各政策を是々非々で論じているつもりです。僕は憲法を含む防衛問題以上に経済政策が重要だと思っていますが、アベノミクスを評価する一方、消費増税には猛反対しているんです。いずれにせよ、既存の読者層だけでなく若い人にも分かりやすい誌面づくりを心がけています」

ネトウヨにウケても財界から拒否される「正論」路線

正論懇話会

「最も勢いがある」(関係者)と言われるのが、安倍首相の選挙区・山口県の「長州「正論」懇話会」だ。首相も講演するなど繋がりの深さがうかがえる。

出典:産経新聞社ホームページ

『WiLL』『Hanada』と並ぶ保守系雑誌と称される月刊『正論』も、岐路に立っている。

『ZAITEN』2018年10月号は、『正論』を発行する産経新聞の幹部が“正論路線”を転換しようとしていると指摘。「嫌韓・嫌中が酷すぎて、ジャンクメディア扱いになっている」(東京編集局長)、「上からは『(新聞の)1〜3面の総合面には政治部の原稿よりも、正論路線の色がついていない経済部の原稿の方が載せやすい』と言われている」(経済部デスク)という社員たちの声を報じた。

従来の「正論路線」を支えてきたのは、全国にある「正論懇話会」「正論友の会」だ。ホームページには「産経新聞の正論路線に共鳴、賛同する人の集まり」とあるが、実際に会の運営を任されている産経新聞のある支局長によると、「地元の財界人とのネットワーキングが大きな目的」だという。

「地域によって方法はさまざまなのですが、例えば規模の大きい懇話会では、年会費を約10万円いただく代わりに、正論の年間購読や年数回開く保守系言論人の講演会に無料でご招待しています。皆さん会社の経費で会員になっていらっしゃいますね」(産経新聞支局長)

講演会の協賛企業を探すのも支局長の仕事だが、最近は苦労も多い。

『色がついて見られるのが嫌』だと断られることも多いです。『協賛金は払うけど協賛企業名を公表するのはやめてほしい』と言われることも。リベラル系の地元新聞への配慮もあるんでしょうね。私も右翼じゃないので、講演会にはエコノミストなどできるだけ政治色の薄い人を呼びたいというのが本音です」

正論

11月1日発売の『正論』の表紙には「特集『新潮45』休刊 リベラルな言論封殺」の文字が。

出典:『正論』公式ツイッターアカウント

ヘイト本と距離を置き始めたかに見える大手出版社や新聞社もあれば、保守路線をさらに強めようという中小出版社もある。保守論壇は今後どのようになっていくのか。保守の動向に詳しい文筆家の古谷経衡さんは言う。

「保守系雑誌もいろいろありますが、最後まで残るのはおそらく単独で採算がとれている『Hanada』と『WiLL』でしょうね。PHP研究所の『Voice』は前半がネトウヨ路線、後半が既存の文芸路線という、『新潮45』とよく似た二重構造の雑誌で、どちらにも振り切れない苦しさがある。経営的な判断で廃刊になって、以降は単行本でヘイトをやるというのは考えられますね」

イデオロギーがないから、葛藤を抱えているから、商売のためだから——どんな理由であれ、安全な場所から出版という手段を使ってマイノリティを攻撃する結果になっているのだとしたら、それは許されることではない。

「ヘイト本が堂々と本屋に並ぶ、今の日本の言論空間は異常ですよ。出版社も何が売れるか分からないから、ヒットしたら二匹目のドジョウを狙うし、多産する。多産するから事実誤認が起きる。『呆韓論』のヒットの後、同じような本が何冊出版されたか……。対抗手段として、安倍首相の政治団体が小川榮太郎の本を大量買いしたように、ヘイトに対抗したりまっとうな政権批判をしてる本や雑誌を買い占めてランキングを上げるしかないですよ」(古谷さん)

(文・竹下郁子、川村力、浜田敬子)

編集部より:初出時、曽根綾子氏としておりましたが、正しくは曽野綾子氏です。お詫びして訂正致します。 2018年10月29日 15:00

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