南青山の児童相談所建設に反対の声。各地で続く建設断念に子どもたちへの偏見

東京都港区が青山の一等地に児童相談所やDV被害者などを一時保護する母子生活支援施設などが入った「(仮称)港区子ども家庭総合支援センター」の建設を計画していることに、住民から反対の声が上がっている。

相次ぐ虐待事件が社会問題化する中、虐待に遭っている子どもたちの施設はなかなか受け入れられない、という事態が各地で起こっている。

「港区としての価値が下がる」

青山・児童相談所

港区が子どもの虐待問題などへの対策として、建設を予定している施設に対して、一部の近隣住民らは反対。説明会では強い調子で区に詰め寄った人も。

施設の総事業費は約100億円。建設予定地は表参道駅から徒歩5分で、周辺に世界的高級ブランドのショップが並ぶ。

児童相談所は、18歳未満までの子どもに関する発達や障害、虐待などさまざまな問題について相談に応じる。同時に、必要に応じて児童相談所内もしくは近隣の一時保護所で虐待、置き去り、非行などの理由によって一時的に保護すべきと判断された子どもに対し、医学的、心理的なケアなどを施すもの。児童福祉法に基づき設置される一時保護所は、児童相談所の近隣に置かれる場合もあるが、今回港区で建設が計画されているものは相談所内に付設される。

これまでの報道によると、10月12、14日に開かれた港区による周辺住民への説明会では、一部の住民が猛反対の姿勢を見せ、怒号も飛び交ったという。

「なんで青山の一等地にそんな施設をつくらなきゃならないんですか」「港区としての価値が下がるじゃないか」

そのような資産価値が落ちる不安を口にする人もいれば、施設の機能を誤解しているような意見もあったようだ。

「ネギひとつ買うのにも紀ノ国屋に行く。DVで保護される人は生活に困窮されていると聞くのに、生活するのに大変なはず」「100億もかけて、なんで法に触れるような少年の施設をここにつくらなきゃならないのか」

「ともに子どもを育てる意識が低すぎる」

青山・児童相談所

港区は2017年秋に72億円をかけて用地を買収。敷地は約3200平方メートル。2021年の開園を目指すというが…。

これらの声について、茨城県内の児童相談所で10数年にわたって嘱託医を務めてきた成田奈緒子さん(文教大学教育学部特別支援教育専修教授)は憤りを隠さない。

「非常に貧困な発想。ともに地域で子どもを育てるという意識が低すぎると言わざるを得ない。子どもが虐待死すると、何をしているのだと責められるのが児童相談所。港区はその機能を充実させようとしているのに、差別的な認識や偏見で反対しているように聞こえてとても残念です」

支援が必要な子育て家庭にとっては、施設へのアクセスの良さは非常に重要だ。最寄り駅から遠く、バスなどを利用しなくてはならない場所だと、ベビーカーや小さい子の手を引いてとなると、足が遠のく。

「支援を受けるタイミングを失ったまま、どんどん孤立して問題を抱えるケースは少なくない。ただ、もっと残念なのは、ほかにも似たケースがあることだ」

「地域の子どもに影響を与える」と反対

成田さんが言うように、実は同じことは過去にも起きている。

岐阜県山県市では2017年、社会福祉法人美谷会が運営する児童養護施設「美谷学園」を同市に隣接する関市の山間部から移転させようと土地の造成まで済ませていたが、反対の声が上がった。

児童養護施設は、児童相談所の一時保護所でケアを受けた子どもたちを18歳まで養育する施設。多くが虐待に遭った子どもたちだが、港区同様「非行に走った子」と偏見の目を向けられる。

そのため「地域の子どもに影響を与える恐れがある」などと書かれたビラが配布された末、1300人分の署名と移転反対の意見書が市に提出された。

結局、計画は中止に。老朽化していた施設は、やむなく現在ある場所で建て替えられることになった。市街地までの交通手段は1日往復2本のバスだけ。学校まで自転車や徒歩で通学できる距離ではないため、約80人の子どもたちは片道20分以上バスに揺られなくてはならない。

取材に応じた美谷学園の若森孝義事務長は、「それしか選択の余地がない。他にもそのような話は聞く。世の中全体が、もう少し子どもの福祉に理解をしてもらえたらと思う」と言葉を選びながら話した。

そのうえで、「反対される方々にはその人たちなりのお立場があるのでしょう……」と、今もって反対派に理解を示す。気遣う様子からは反対の声を浴びせられ疲弊したあとが垣間見える。

子どもに更生の機会を与える施設

表参道

港区の児童相談所は高級ブティックが並ぶ表参道からほど近い。

2016年には東京都国分寺市でも児童養護施設の建設計画が、一部住民の反対によって中止に追い込まれている。住民がつくった反対ビラには、入所する子どもについて「いじめ、ねたみ、うらみ、つらみの経験 そんな環境を持つ」と表現していたという。

山県市も国分寺市も児童養護施設の一部で、非行を犯してしまった子どもたちを一時預かることに対しての不安を訴える声が多かった。青山の一部住民たちも同様の不安を訴える声が強い。いずれも間接的な表現はしているが、そうした子どもを排除しようとしているように見える。

しかし、非行を犯した少年の更生に尽力してきた前出の成田さんはこう話す。

「多くはすごく素直でいい子です。法を犯してしまう背景には、貧困や親からの虐待などさまざまな事情がある。成長過程で大人から得られるべき保護を受けられていないわけです」

孤独でつらく苦しい日々のなかで、仲良くなった友達がたまたま反社会的組織とつながる人だったケースが多く、本人の自己判断では罪を犯していないケースが多いという。

「きちんと子どもを育てるプロセスを踏めば、犯罪への欲望は抑制できる。それまでの環境がそれを阻んでいるだけ。きちんと寝て、食事生活リズムを整えたら(触法少年の)片鱗もなくなる。その環境を与えられる場所が児童養護施設なのです」

彼らを養育した親も社会から攻撃されている。だが、成田さんによると、親の身の上に貧困や障害、もしくは壮絶な虐待を受けているなど何らかの負の要素によって人生の歯車を狂わされている。保護施設でケアを受けることで、親も子もきっかけをつかんで好転していくという。

港区のように施設や支援の担い手を増やすことが、彼らを更生させ、それがひいては社会の安定につながるはずだ。

「そんな施設ができることを誇りに思ってほしい」

児童虐待の対応件数は2017年度に全国で過去最多を更新し13万件を超えた。1990年度は約1100件。虐待ということが認知されてきたことも通報件数の多さにつながっているが、それでも問題の根深さを語るには十分な数字だ。

虐待に対応する児童相談所や保護施設の数の不足は深刻だ。

大ヒット映画『万引き家族』を見て東京の子どもの現実をリアルに知ったという50代の女性は施設建設に反対の声があるのを知った日、港区に「応援するから頑張って」という激励の電話をかけたそうだ。

「反対する大人の多くは、資産価値を気にしているのではないか。若い人たちが助かることをもっと応援しなくちゃと思った」

反対派の人は「もっとハッピーな施設かと思ったのに」とテレビのインタビューで苦情を述べていたが、施設の内容を区側がもう少し丁寧に説明する必要もあるだろう。成田さんは言う。

「みんな苦悩している。親もそんなはずじゃなかったと思いながら子育てしている。そんな彼らの事情を把握せずにひとくくりに考えないでほしい。私たちのケアがうまくいかないこともあるが、立ち直る人たちは多い。そんな施設ができることを、誇りに思ってほしい」

(文・島沢優子、写真・今村拓馬)

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