視聴率低迷の有働由美子さん。ステップアップ女子が本領発揮できる日は?

有働由美子さん。

有働由美子さんが「news zero」のメインキャスターに就任して、ほぼ1カ月。視聴率は低迷中。

撮影:川村力

有働由美子さんが「news zero」(日本テレビ系)のメインキャスターに就任して、ほぼ1カ月。 好調の視聴率は束の間で、低迷中だと報じられている。わかるなー、と思う。

視聴率の変遷をざっとおさらいすると、初回の10月1日は10.0%と2桁発進。本庶佑さんがノーベル賞を受賞、電話出演した山中伸弥教授が開口一番、「有働さんの初回に出演できて、光栄です」と語った。

2日はタモリと対談。タモリ曰く「テレビは見るより、出るものでしょ」。10.4%。以後、下降。12日には4.6%と5%割れを記録してしまった(数字は関東地区、ビデオリサーチ調べ)。

キャスター就任の2カ月余り前、有働さんは朝日新聞のインタビューに応じていた。NHK退社時のコメントにいれた「ジャーナリスト」という言葉への批判を意識し、こう言い切っていた。

「不妊治療やセックスレスとかを掘り下げるのは、ジャーナリスティックではないというのでしょうか? 私はそう思いません」

「わき汗」で始まったクロ有働

有働由美子

「ウドウロク」には「わき汗」騒動も。

そう、有働さんといえば「不妊治療やセックスレスを掘り下げ」た「あさイチ」だろう。「あさイチ」の成功と「zero」での苦戦。何が違うのか。「ブルーオーシャン」と「レッドオーシャン」。その違いが大きいと思う。

「あさイチ」スタートの午前8時15分、民放各局は「ワイドショー」をオンエアしている。扱うニュースはほぼ同じ、キャスターの持ち味を生かし、独自色を競い合う。

そんな赤い海を横目に、「あさイチ」は青い海を泳いでいた。悠々と、のんびりと、ではない。すばやく、鋭く。典型が「わき汗」だった。

「あさイチ」スタートから1年、有働さんのブラウスにワキ汗がしみた。「見苦しい」と苦情ファックスが寄せられ、それを読んだ有働さんが「不快にさせてごめんなさい」と謝ったところから、賛否が湧き上がる。1カ月後、「なぜか気になるワキ汗」を特集。

20万部超のヒットとなったエッセイ集『ウドウロク』で、有働さんは「わき汗」を書いている。最後の部分を引用する。

“わき汗の”アナウンサーという、イタい、かわいそうな形容に耐えている感じが好感を持ってとらえられるらしく、放送でちょっとくらいクロいことを述べても、苦情がこなくなった。/それに乗じて、結構な毒を吐いている。/ワタクシも、転んでもただでは起きないのである。

「元気ないです」という自虐ポスター

「zero」で取り上げた北海道・十勝川温泉の自虐ポスター。

出典:音更町十勝川温泉観光協会

有働さんは自虐の人だ。

地震以来観光客が激減した北海道・十勝川温泉の「元気ないです」という自虐ポスターを「zero」で取り上げた時、「私、好きですね。自虐、自虐の人間ですから」とコメントしていた。だから有働さんの言う「クロい」「毒」とは、「本音」のことだと思う。

鋭い本音を有働さんが語り、それが視聴者に刺さった。「あさイチ」は「セックスレス」「不妊治療」とヒットを飛ばし、青い海で赤い海の人たちに勝っていった。

仕切りの女将、本音はゲスト次第

ところが「zero」の海は赤い。「報道ステーション」(テレビ朝日系)、「NEWS23」(TBS系)など、少しずつ時間帯は違っても、NHKを含む全局がニュース番組で競っている。そこでどう戦うか、有働さんも日テレもつかみきれていない。

有働さんは番組発表会見で「若いアナ、キラキラした人と、置屋の女将みたいですが、女将なりにがんばります」と得意の「自虐」を語った。女将は真ん中、サイドに若いアナ、そして日によって違うゲストが女将の隣に座る。

女将は仕切り、「本音」を言うのはゲスト。「自虐」通りの進行だ。面白さは、ゲストの切れ味が決める。鋭い本音を吐く人(例・安藤モモ子さん)がゲストだと、それなりに面白い。ジャーナリストらしい解説なり洞察なりを女将に期待したいが、それは日テレの政治部または国際部の記者の担当だ。

もちろん海が赤いことは日テレだってわかっていて、「会話するニュース」というキャッチフレーズを立てている。「あさイチ」での「わき汗」のごとく、議論を起こしたいということだろう。ツイッターに力を入れ、番組終了間際に視聴者投稿をいくつか紹介している。

だが残念なことに、その投稿がパッとしない。「素朴な疑問」「本音らしいもの」「斜めな視線」あたりが適宜選ばれているようだが、有働さんはそれを読み、「という意見ですが、どうですか?」とゲストか解説担当記者に振ることが多い。

「あさイチ」風味をレッドオーシャンに持ち込んだものの、不発。これでは有働さんに期待した視聴者は離れてしまう。それが冒頭に書いた「わかるなー」である。

「男社会で長く生き過ぎ」

ここからは少し、違う話を書く。

実はこれ、彼女固有の問題ではないかもしれないと思う。という話だ。

会議をまとめる女性

有働さんは男社会で勝ってきた人だ。(写真はイメージ)

Shutterstock / imtmphoto

青い海で鋭さを見せ、次へと歩を進める。するとそこは赤い海で、勝手が違う。戸惑う。それは組織で働く女子に、ありがちな光景ではないか。そんな気がするのだ。

『ウドウロク』に「男社会で長く生きすぎ」という文章がある。わい談的なものにもひるまず、全然平気どころか倍にして返すくらいにまで適応してきた有働さんが、好きな人から言われたのが「男社会で長く生きすぎ」の一言だった。そういう笑えて、考えさせられるエッセイだ。

わい談対策はさておき、有働さんは男社会で勝ってきた人だ。その武器が「本音」で、それが「あさイチ」で結実した。それは想像に難くない。

男社会=男が多い。男同士はレッドオーシャン。だから、出る釘は打たれることを怖れがち。女はその点、最初から少数派の異分子。打たれることなど怖れず、自由に発言する。「自由に」と力まずとも、思ったことを語る。そういう発言が「鋭い本音」と聞こえる場合、男性も注目する。それが、評価につながる。

「赤い海」で待ち受ける男性の勝者

有働由美子

「zero」では「あさイチ」の時の鋭い本音が見せられていない。

出典:news zeroの公式ツイッター

有働さんと同じマスコミ業界に長くいた私なので、女性がそういう立ち位置でステップアップしがちなことはわかっている。「しがち」と書いたのは例外もいるからで、そのこと自体は悪いことでは全くない。

問題はそこからだ。そんな感じで歩を進めていると、いつか赤い海に足を踏み入れることになる。それは例えば、組織の幹部になること。そこでズラリと待っているのは「赤い海」の勝者である男性だ。赤い海ならではの発想、振る舞いが求められもする。私も、ここでかなり戸惑った1人だ。

有働さんはNHKで管理職の道を提示されたことから、退社を考えたと語っていた。組織を出て勝負する決意をし、選んだのが、「夜のニュース番組」という赤い海だった。

これまでとは勝手が違う。戸惑い、本領を発揮できずにいる。その姿は、ステップアップ後の女子の一つの典型にも見える。

新しい海には、新しい泳ぎ方が必要だ。

ここからどう自分らしさを出すのか。有働さんの切り返しに期待している。

矢部万紀子(やべ・まきこ):1961年生まれ。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、「AERA」や経済部、「週刊朝日」などに所属。「週刊朝日」で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長を務めた後、2011年退社。シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に退社し、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』。

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