株式会社TPO代表取締役のマニヤン麻里子さん。一橋大学社会学部卒、仏HEC経営大学院修了。東京生まれ、東京/ニューヨーク/パリ育ち。大学院修了後、パリの雑誌系出版社にてグローバルマーケティングを担当。帰国後、仏ソシエテ・ジェネラル証券、米ゴールドマン・サックス証券会社等で金融商品開発や営業に従事。その後、米グッゲンハイム・パートナーズのディレクターとして日本拠点の立ち上げに尽力。UWC ISAK Japan評議員。
ゆとり時間、子連れ旅、感動体験…私たちが考える新しい「プレミアム」
人生をより豊かなものに、充実したものにしたいと多くの人が願う。だが、その豊かさを得るのに必要なモノ・コトとはいったい何だろうか。自分ならではの価値を見出し、実直に生きるミレニアル世代のトップランナー、株式会社TPO代表取締役のマニヤン麻里子さん、CRAZYWEDDINGのCEO遠藤理恵さん、育児を楽しむワーキングファザーの堀込泰三さんの3人に話を聞いた。
仕事もプライベートも「公私融合」で充実させる
働き方改革などの言葉があちこちで聞かれるようになった2016年、マニヤン麻里子さんは、企業内にコンシェルジュを常駐させ、従業員の相談・依頼を受ける「コーポレートコンシェルジュサービス」を提供する会社TPOを設立。2018年7月から本格的にサービスを開始した。
「以前は外資系金融機関で働きながら2人の子育てをしており、家に帰ると髪を振り乱して家事育児に追われるような日々でした。何か一つでも誰かに手伝ってもらえたら……という思いが募り、自分の希望を形にするため起業。優秀な人材が存分に力を発揮できる組織にしたいという企業に人材投資の一環として、従業員の方それぞれのニーズに対応する私たちのサービスを導入していただいています」(株式会社TPO代表取締役マニヤン麻里子さん)
利用者の年齢層は幅広く、依頼内容も不妊治療の相談、小・中学校受験の塾探し、介護など他人には打ち明けにくい私的なことから、レストランの予約、ギフト選びと購入代行、本場ロシアでのバレエ鑑賞やお子様と行ける農業体験などオリジナリティのある旅のプランニングまで多岐にわたる。
マニヤンさんは幼い頃アメリカで過ごし、フランスで働いた経験もある。日本の企業は会社にプライベートを持ち込むことを嫌い、“わたくしごと”は自分で解決することが求められる。
一方、フランスでは「公私混同ではなく公私融合」。当時の上司は「カレンダーは1つ」をモットーにしていた。カレンダーに公私両方のスケジュールを入れてオープンに。従業員もまた就業中のコーヒーブレイクには互いに家庭内のことを気軽に話していた。
上質なサービスは「フレンドリー」
フランスの上場企業では、時価総額上位40銘柄の60%以上がコンシェルジュサービスを導入しているという。
サービスを開始した1年半前と比べて、利用者の意識も変わってきた。子育てや介護に関する相談が急増。「仕事と生活を切り分けず、充実させるためには他者を頼っていいんだ」というスタンスの人が増えているとマニヤンさんは感じている。
「企業も、会社が従業員のプライベートに共感し、理解しようという姿勢があるほど、従業員の仕事に取り組む姿勢が積極的になっていると気づき始めています」
テクノロジーが進むほど、人間的なサービスが求められている、とマニヤンさんは言う。
「例えば“プレミアムなサービス”というとフォーマルなイメージを思い浮かべる人が多いかもしれませんが、私たちが考える上質なサービスはフレンドリー。親しみやすいコンシェルジュが、お客様の立場に立って人生の中で埋もれていた『新しい幸せ』に気付くような提案型のサービスを目指しています」
人生にとって本当に価値あるものに投資したい
CRAZYボードメンバー、CRAZYWEDDING・CEOの遠藤理恵さん。2006年人材教育コンサルティング会社に入社。化粧品企画事業、エステサロン事業の会社を経験した後、2012年にCRAZYWEDDINGの事業を共同でスタートし、2016年より現職。
造船工場や酒蔵をウェディング会場に、参加者全員がデニムスタイル……。これまでにないオリジナルウェディングをプロデュースするCRAZYWEDDING。そのCEO、遠藤理恵さんはかつて人材教育コンサルティング会社で営業に携わり、3カ月でそれまでの会社のセールス記録を更新する快挙を遂げた。
遠藤さんは、忙しい日々の中で「人生をどれだけ感情豊かに過ごすことができるか」に関わる仕事がしたいと思い始めた。その思いでの転職を経て2012年、CRAZYに創業メンバーとして参画。
「従来のウェディングには、料理や会場の豪華さが求められましたよね。でも今は自分たちの人生、個性を表現することで、参加するゲストに楽しいと感じてもらったり、来てよかったと感動してもらえたりする体験を届けたいという思いを持つお客様が多い。例えば酒蔵のように、ご成婚されるお二人にまつわる場所、本質的に価値があるものに投資したいと考える人が増えています」(遠藤さん)
ごく普通の人生が、特別な人生に
「理想のウェディングを創り上げるには、結婚式当日はもちろん、当日を迎えるまでのプロセスも人生が変わるほどの体験になるよう工夫しています。ご相談にお越しになる方にこれまで歩んでこられた人生についてお伺いすると、たいていの方が『そんなに特徴的なことはなく、普通なんです』とおっしゃいます」
ところが、ヒアリングをしていくと、皆自身の人生の素晴らしさに気付くのだという。「弊社の結婚式を選ぶこと自体を、自分の人生、そして二人や家族との関係性への投資だと捉えている方も多いようです。“結婚式”という商材を買っているように見えて、実はそこから派生する体験に価値を置いていただいているのだと感じています」
3歳の息子がいる遠藤さんは、自身の両親と同居し、子育てをサポートしてもらっている。夫もCRAZYに転職し、朝は子どもを保育園に送りながら3人で車通勤をしている。
「仕事も育児も両方ベストパフォーマンスを出し、自分が気持ちよく過ごせる環境を整えるための投資は惜しみません。仕事とプライベートの時間もきっちり分けているわけではない。意思決定が求められる立場なので、自宅にいても朝、子どもが起きる前は仕事モードのことが多いですし、旅先でもメールをチェックします。さまざまな価値観があふれている社会で豊かさを定義するのは自分自身。今後も理想を形にするために投資していきたい」
人の人生を扱う仕事。出産を経て命の重みが実感として分かり、「お客様への共感度も高まった」。CEOとして、今後、社内の“ママプロデューサー”をもっと活躍させていきたいと語る。
1カ月の男子3人夏の旅。家族に必要なライフスタイルを実践
育児を楽しむワーキングファザーの堀込泰三さん。2002年9月東京大学大学院工学系研科航空宇宙工学専攻修士課程修了。2003年4月自動車メーカーに就職、次世代エンジン開発に携わる。2007年の長男誕生時に2年間の育児休業を取得。その後、子どもと過ごす「大切な時間」を増やすため退職。現在、一般社団法人リテールAI研究会理事を務めながら、在宅で翻訳家としても活躍。著書に『子育て主夫青春物語』(言視舎)がある。NPO法人ファザーリングジャパン文京支部代表、「秘密結社主夫の友」主宰、子育て主夫ネットワーク「レノンパパ」メンバー。堀込さんの家族旅行記はこちら。https://www.lifehacker.jp/2014/08/140829summer.html
「今は男女の役割分担を固定する既成概念を持つ人はかなり減り、男性が育児休業を取るのも珍しくなくなった。僕が育休を取った11年前とは状況がまったく違う」と話すのは、大手自動車会社のエンジニアから主夫を経て、現在は夫婦で“ダブル・シュフ”を実践している堀込泰三さん。
堀込さん自身、育休は「消去法だった」と語る。研究者の妻が仕事の都合で早期復帰しなければならず、大企業で働いていた堀込さんが2年間の休暇を取り、アメリカに拠点を移して主夫業に専念。
「この期間がなければ、子育ての楽しさに気づけなかった」と振り返る。その後、単身赴任で会社に復帰したが、アメリカにいる妻と子どもと別れて暮らす寂しさに耐えかねて退職。家族の時間を優先するため在宅でできる翻訳業を始めた。
1週間あれば、自分が大人であることを忘れる
2016年夏、石垣島で朝日を見つめる堀込家の息子2人(当時9歳と5歳)。
Taizo.HORIGOME
家族の形もオリジナリティあふれるが、夏休み中の親子の過ごし方も堀込さんならでは。なんと毎年夏に約1カ月間も、長男と次男を連れて旅に出かけるというのだ。
「7回目の今年は、北海道から東南アジア経由で石垣島に行き計22泊しました。毎年行き先は山や海。旅程は決めずに、安い民宿に泊まったりテントを張ったりして自炊しながら自由に過ごします」(堀込泰三さん)
自然の中で学べることは多い。長男は理科の教科書で天気を習うより前に、海や山の風を肌で感じて気候の変化を学んだ。だが、こうした教育的効果は後付けだと明かす。
「本当は僕が行きたいだけなんです。最初は子どもたちが自由すぎて疲れるんですが、1週間もすれば自分が大人であることを忘れてしまう。親として安全を確保する以外は、子どもに戻って楽しんでいます。もしかしたら子どもたちは近くの公園でも思いっきり遊べればいいのかもしれないけれど、大人は近所だと日常が忘れられない。遠くに出かけるのは、日常から離れるため。約1カ月間という長さも、非日常の中でエネルギーを蓄え、積極的な気持ちで現実に戻るために必要なのだと経験上分かりました」
お金のかかる趣味も、モノへのこだわりもなく、これまでの一番の投資は「もちろん旅」と即答する堀込さん。次男が小学校に入り、少し時間の余裕ができたので、本来好きなものづくりがしたいと、今のライフスタイルを維持することを条件に就職活動を行った。そして1年前、知人の紹介で一般社団法人リテールAI研究会の職を得て、今は理事に就任。翻訳業も続けている。
子どもたちへの願いはただひとつ。「日常の些細なことにスペシャルを見つけられる子に育ってほしい。ご飯がおいしい、自然が気持ちがいい、何でもいいんです。そこに幸せを感じられたらいいですよね」
生き方は三人三様。しかし、それぞれが思う“プレミアムな体験”のために挑戦し続ける姿には、自分自身の確固たる信念と情熱、そして何よりも人生を楽しみ尽くしたいという思いにあふれていた。
何に投資するかは、何を大事に生きるかと同義。3人の選択から見えてくるのは、自分の価値観に従って豊かに生きるという覚悟。これが新時代のプレミアムと言えるだろう。
理想の人生に向かって突き進み、輝き続ける人をアメリカン・エキスプレスは力強く支えます。