元ユニクロ店長補佐が生み出した「やる気見える化システム」——忙しくて部下理解できない状況を改善

人手不足が深刻化するなか、若手社員のモチベーションを高めて離職を防ぎ、いっそうの成果をあげてもらうことは企業にとって大きな課題だ。その解決に役立つ「社員のモチベーションを見える化するクラウドシステム」を、36歳の元ユニクロ店長補佐が当時の「後悔」をヒントに立ち上げたベンチャーが開発した。

最小限の質問で十分な情報を得る

Emotion Tech 今西良光

Emotion Techの今西良光CEO。

撮影:庄司将晃

Employee Tech(エンプロイーテック)と呼ばれるこのシステムは、2013年に設立されたEmotion Tech(エモーションテック、東京都千代田区)が開発し、2017年9月に本格的にサービス提供を開始。ヤクルト本社、ヤマト運輸、東急エージェンシー、ランサーズなど40社ほどが導入済みだ。人事担当者ら7000人以上が投票した「日本の人事部『HRアワード』2018」の組織変革・開発部門で最優秀賞に輝いた。

どんなシステムなのか。

まず、スマホで5分もかからずに答えられる20~30問の社員向けウェブアンケートを、1~3カ月に1回実施する。

「現在の職場で働くことを親しい友人にどの程度おすすめしたいと思いますか?」という質問に0~10点で答えてもらう。その上で「点数をつける上で影響した要因をお答えください」と問い、「上司との関係」「業務量」「報酬・給与」などの項目ごとに、「プラス・マイナスにどのくらい影響したか」を7段階で評価してもらう。必要に応じて自由記述の回答欄も設ける。

最小限の設問数で必要十分な情報が得られる質問設定の手法について、Emotion Techは特許を取得しているという。

店舗ごとに最も効果的な対策を分析

Emotion Techの資料から

出典:Emotion Tech

こうして集まった回答は、やはり特許取得済みのノウハウを駆使して統計的に解析。各要因が、社員のエンゲージメント(自社への愛着や思い入れ)に①どれだけ大きく影響するか②プラスとマイナスのどちらに影響するか、を2本の曲線でグラフ化する(上図)。

2本の曲線のギャップが大きい項目ほど、エンゲージメントの変動に大きな影響があり、かつエンゲージメントを低下させる方向に作用していることを意味する。つまり「優先的に解決すべき課題」だということだ。どの項目がこれに当てはまるか、グラフを見るだけで顧客企業の経営陣や担当者らが一目で分かるのが特長だ。

このような解析は自動で行われ、顧客企業は経過や結果をリアルタイムで把握でき、すぐに改善のための対策作りに着手できる。

このシステムを導入した、飲食業を手がける中堅企業のケースを見てみよう。

数十カ所の店舗ごとに現場の状況には大きな違いがあるため、上記のグラフを各店舗について作成した。

「最優先の課題」が「店長とのコミュニケーション不足」とされた店では、人事担当者や本社のエリアマネジャーが店長と個別に面談し、スタッフとの会話を増やすことなどをアドバイス。「労働時間の長さ」だった店では、スタッフを増やしてシフトに余裕を持たせる——といった具合にきめ細かな対策を実施。システム導入前より、離職率が7〜8%下がる効果が出ているという。

「辞めそうな人」には即アラート

スーツ姿の男性たち。

人手不足が深刻化するなか、特に若手社員の離職防止はどの企業にとっても大きな課題だ。

撮影:今村拓馬

このシステムは、個々の社員の回答を分析して「離職する可能性が高い人」がいれば、人事担当らにすぐアラートを出すため、顧客企業は本人が決意を固める前に面談などでフォローするといった手が打てる。組織体制の変更の効果を社員のモチベーションの変化で定量的に測定したり、働き方改革の具体策をどの分野で打ち出せば良いかの判断材料にしたり、といった使い方も可能だ。

多くの企業が利用する、コンサル大手による「従業員意識調査」などは、回答に数十分かかるアンケートを年1回実施し、結果を分析したレポートがまとまるのは数か月後、といったものが目立つ。これでは、特に人の入れ替わりが激しい顧客企業の場合、離職防止やモチベーション向上に向けた対策をタイムリーに打つのは難しい。

「Employee Techなら、目の前の課題について筋の良い対策が何か、即時かつ直観的に理解できます」(Emotion Techの今西良光CEO)。

「忙しくて部下見られない」店長補佐の経験がヒント

飲食店で働く店員。

社員のモチベーションを「見える化」した分析結果を、経営者がうまく活用できれば、働き手の幸せにもつながるはずだ。

Taiyou Nomachi/Getty Images

今西さんは以前、ユニクロを展開するファーストリテイリングに勤務し、東京都内の店舗で店長の補佐役として人事管理を担当していた。いずれ起業したいという思いを秘め、「小さな職場でもマネジメントを経験したい」と選んだ仕事だった。

ほぼ同じ時期に採用した2人のアルバイト店員のうち1人だけを昇格させたところ、もう1人の女性店員から「私のことなんて何も分かっていないのに、どうしてそんな評価ができるんですか?」と猛烈に抗議された。

今西さんはこの女性店員を「不愛想で、同僚とのチームワークに問題がある」と評価していた。しかし、同僚たちにあらためて聞いてみると、名指しで「あの人に接客してほしい」という顧客がいるほど評判が良かった。

「現場はどこも忙しいので、店長やマネジャーがアルバイトの働きぶりを細かく見るのはとても難しい。私にはできませんでした」(今西さん)

この出来事から、今西さんは現在手がけるビジネスにつながるヒントを得た。退職して仲間とつくった会社が今のEmotion Techだ。

企業のパフォーマンスを大きく左右することは明らかだが、正確な現状を把握することはきわめて難しかった社員の「モチベーション」。これを「見える化」した分析結果を経営者がうまく活用できれば、自社の業績向上だけでなく、働き手の幸せにもつながるはずだ。

(文・庄司将晃)

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