銀行人気に陰りが……。
撮影:今村拓馬
みずほフィナンシャルグループ・三菱UFJ・三井住友銀行のメガバンク3社が一般職を中心に計900人もの採用を削減。AIの導入による業務効率化の陰で、一般職志望の女子学生が就活に苦戦しているという報道があった(朝日新聞デジタル2018年9月1日)。
しかし、学生や就活の調査を行う専門家への取材から見えてきたのは、「蹴られる銀行」の実態だ。
Business Insider Japanでは過去に仕事と子育ての両立を考えて一般職を目指す高学歴女子たちの思いを報じたが、同じ「一般職」でも業界によって格差が出始めている。
メガバンクが就活人気企業ランキングから凋落
これまで一般職を目指していた女子学生たちに、ある変化が起きている。
撮影:今村拓馬
「減らしたといってもやっぱり採用数が多いので銀行はみんな受けていましたが、『すべり止め』。AIが発達して将来的になくなるかもしれない、しかも長時間労働でお堅い雰囲気の企業に行くのはメリットを感じません。最終的に銀行にいくことが決まった子には就活の話はフリづらいですね」
そう話すのは、都内の有名私立大学4年生の女子学生だ。総合職・一般職に関わらず、銀行自体に人気がないという。
同じ金融業でも銀行ではなく生命保険会社や損害保険会社を目指す学生が圧倒的に多く、銀行の内定を蹴ってそちらに就職を決めた人もいたそうだ。女性も結婚や出産を経ても長く働けることを第一に考え、大手保険会社のいわゆる「エリア総合職」に就職を決めた。母親からは「銀行はブラックだからやめて」と言われたこともある。
就職支援大手のディスコが2019年卒業予定の学生を対象に就職希望企業を調査したところ、2017年に1位だったみずほフィナンシャルグループは17位、5位だった三井住友銀行は14位に順位を下げている。これまではメガバンク3社とも毎回上位5位に入っていたが、2018年は三菱UFJ銀行のみという結果だ。 特に変化があったのが女子学生で、女子だけでみると、みずほは24位(同1位)にまで下がった。
撮影:今村拓馬
一方で同社の調査によると、10月1日時点で文系は男女とも約9割内定を得ている。
同社のキャリタスリサーチ上席研究員の武井房子さんは、「過去の内定率と比べても相変わらず売り手市場です」と前置きした上でこう話す。
「メガバンクをはじめ銀行が採用数を減らす中で、総合職よりも一般職やエリア総合職を目指す女子学生にしわ寄せが来ているのは確かですが、一般職の採用枠が減り競争率が上がったことで敬遠した層がいる。加えて、定型的な事務処理だけやっていればよかった時代から、金融商品を勧める営業も、と業務内容が変わってきたため敬遠する層がそもそも受けなかったのではないでしょうか」
一般職のイメージである「定型業務」は、今は派遣などの非正規雇用者が担う。一般職でも営業のような仕事や後輩の育成など、自ら考えて動ける女性を企業は求めているという。
プライドも満たせて転勤ない「エリア総合職」に
奨学金の問題は切実だ。
撮影:今村拓馬
「一般職志望の学生たちが流れているのが、エリア総合職や地方公務員、そして転勤も少なく働き方改革が進むIT企業です。『一般職の収入では奨学金が返せないからエリア総合職を選んだ』という女子学生の声を数多く聞きました。共働きが前提なので、自身もしっかり稼ぎながら長く働きたいという学生が増えている」
ディスコの「女子学生の就職活動に関するアンケート調査」(2018年3月)によると、入社企業での勤務予定期間は「定年まで」が約6割を占める。また7割以上が結婚後も共働きを、8割超が夫の育休取得を望んでいる。
大手保険会社のエリア総合職に就職する前出の女性は、総合職と仕事内容に差がないと説明を受けている。
「友人や就職相談に来た後輩から『ラクな仕事』と言われたり、『一般職扱い』されたりすると頭にきます。バリバリ働けるという点でプライドも満たせるのがエリア総合職の売りなのに」
一般職は選択肢になかったという女性だが、商社の一般職には強い憧れを抱いている。
競争率200倍、雲の上の商社一般職
「一般職=寿退社」はもう古い。
撮影:今村拓馬
銀行の一般職人気に陰りが出る中で変わらず人気を集めているのが、商社の一般職だ。
都内の有名私立大学を卒業し、大手総合商社の一般職で働く女性(25)は、就活時はメーカーの総合職が第一志望で内定ももらったが、若いうちに地方への転勤があると聞き、現在の職に。友人も東京など関東近郊に多いため、プライベートを充実させたかったと言う。 当時、人事担当者から聞かされた内定競争率は「200倍」だったそうだ。
「商社の一般職は華やかで楽しく働けるというイメージで“雲の上の存在”でした。実際に働いてみてもイメージ通りです。収入にも満足しています」
今は営業のサポートや経理事務を行っている。勤務時間は基本的に午前9時から夕方5時まで。週3日は友人たちと食事会を開くなど、ナイトライフも充実している。 プロジェクトが忙しい時は夜8時まで残業することも多いが、仕事にやりがいを感じているので苦にはならない。
一般職から総合職へのキャリアパスもある。
撮影:今村拓馬
商社の一般職を目指す早稲田や慶應の女子学生からOB訪問を受けることが多いそうだが、彼女らが他に志望するのは「損保のエリア総合職」や「メーカーの総合職」で、銀行の一般職はいない。
「私の就活時代も、友人で銀行の一般職を受けた人はいなかったですね。数字一つ間違えただけで大変なカチッとした仕事ですし……」
一緒に働く一般職の女性も早稲田、慶應やMARCHなど有名大学出身者が多く、結婚や出産を経ても働き続けている40〜50代の先輩も多い。自身も結婚後も働き続けたいと思っている。仮にパートナーが海外転勤になり「駐妻」になっても、再び復帰できる制度もあるため安心だ。
一般職から総合職に変更できる社内制度もあるが、今の仕事内容に満足しているため、そうした制度を利用することも転職を考えたこともない。
転職、資格取得、留学……逃げ出す一般職女性
すでに銀行の一般職で働く女性たちも、動き始めた。
撮影:今村拓馬
すでに銀行の一般職で働く女性たちにもある変化が起きている。
中高を都内の私立女子校で過ごし、現在は都内の大学院に通う女性(24)は、 私立女子校時代の友人のうち数人がメガバンクの一般職で働いている。今年で2年目だ。
「当時の就活の頃からAIなど自動化の話は出ていたので、『将来的にはヤバイ』と思っていたようですが、『ファーストキャリアは大手がいい』『10年は安泰』だからと就職を決めたようです」
だが、全体の採用枠も減り、「社内の雰囲気が悪くなってきた」と相談を受けるように。 当時予想していたよりもっと早く仕事がなくなるのではないかという不安から「転職を考え始めたり、スキルアップのためにファイナンシャルプランナーの資格取得や公務員試験受験の勉強を始めたり、留学資金をため始める女性も出てきた」と、友人たちについて話す。
この女性は卒業後は公務員として働きたいというが、一般職の採用枠が減っていることに危機感も覚えている。
「一般職がなくなるというのは、女性の居場所が崩れていくようなもの。学校でも早いうちから今の状況に合ったロールモデルを教えたりキャリアプランを考えられるような授業をして欲しい」
(文・竹下郁子)
一般職は「オワコン」?「雲の上の存在」?女性も男性も、みなさんの考えを聞かせてください。