目指すは「ポストTwitter」。VTuberで誰もが分身でつながる。元DeNA最年少執行役員が描く未来

誰もが気軽に「もう一人の自分」になれる世界。「サマーウォーズ」や「レディ・プレイヤー・ワン」など、映画やアニメで描かれてきた世界が近いうちに実現するかもしれない。

ゲーム実況のライブ配信アプリ「Mirrativ」が8月1日、スマホ1台で誰でもバーチャルYouTuber(VTuber)のように配信ができるアバター機能「エモモ」をリリースすると大きな反響を集め、ユーザーが殺到した。

VTuberとは:主にYouTube上で動画を配信するキャラクターのこと。3DCGなどのアバターを使うことからバーチャルYouTuber、略してVTuberと呼ばれる。

最初の1カ月は一部ユーザーに限定したにもかかわらず、それまでの日本国内のVTuber人口4000人(7月時点。ユーザーローカル調べ)を大きく超える、1万2000人がエモモで自分のアバターを作成して配信。9月1日には全ユーザーに対してエモモの機能を開放し、その数を大幅に伸ばしている。

早期のグローバル展開を視野に、最終的には数億人規模の人々が自分の「分身」を持つ世界を目指すMirrativ。提供するアプリと同じ名前の会社で代表取締役を務める赤川隼一さん(35)に、壮大なビジョンを聞いた。

誰でも気軽にゲーム実況

Mirrativ

スマホ画面をそのまま生配信し、気軽にゲーム実況の配信ができる。

提供:ミラティブ

Mirrativがリリースされたのは2015年。

2014年にAmazonがゲーム実況の配信プラットフォーム「Twitch」を9億7000ドル(約1100億円)で買収するなど、ゲーム実況はすでに大きな市場規模を持っていたが、その頃はPCでの配信が主体。カメラやマイクなどの機材も必要で、配信のハードルは高く、ほとんどの人にとってゲーム実況は「見るもの」になっていた。

そこで、当時DeNAにいた赤川さんらはスマホ1台で、簡単にライブ配信を始めることができるMirrativを開発。Mirrativでは自分が見ているスマホ画面をそのまま他のユーザーと共有し、ゲーム実況の配信ができる。

赤川さんが「友達の家でドラクエをやっている感じ」と表現するように、ゲームが上手な人の実況を見るというよりは、ゲームをしながら視聴者と一緒にコミュニケーションを楽しめるのが特徴だ。

有名人を使ったPRを行わないなど、配信のハードルをなるべく下げ、誰でも気軽に参加できるような雰囲気を作っている。

その結果、2015年時点でゲーム実況の配信を行うユーザーはTwitchでは全ユーザーの1.5%程度しか存在しなかったが、ミラティブでは約20%のユーザーが配信も行っている。

ミラティブ

今ではスマホのゲームアプリ上にMirrativの配信リンクが設置され、ゲームアプリからすぐにライブ配信を始めることができるようになるケースも増えている。大ヒットゲームアプリ「荒野行動」はMirrativでの累計配信数が100万を超えた。

提供:ミラティブ

ポストTwitter

2018年に入り、新たな配信プラットフォームが多数誕生するなど、急激な盛り上がりを見せるVTuber市場。しかし、Mirrativは他のプラットフォームとは大きく異なる。

エモモ

配信するユーザーは自分でカスタマイズしたアバターをゲーム世界に登場させ、ゲームをしながら視聴者と一緒にライブ実況のコミュニケーションを楽しむことができる。アバターは配信者の声に連動して動く仕組みになっている。

提供:ミラティブ

キズナアイなどのバーチャルタレントが、YouTubeの延長線上、多くの人は視聴者にとどまるのに対して、Mirrativは「自分も参加する」という意味で、いわば「Twitterの延長線上」にある。

僕らが目指しているのはメディアではなく、コミュニケーションサービス。サッカーW杯のように、上手な人だけがプレーをするのではなく、世界中のサッカー少年がもっとサッカーを楽しめるような場所、ポストTwitterを作りたいと思っています」(赤川さん)

さらに、ゲーム実況があるからこそ、同じ趣味を持った人が集まり、気軽にコミュニケーションを取ることができるのも大きな違いだ。

「そもそもMirrativを作ったのも自分の原体験が大きい。自分は同じ音楽の趣味を持った人とインターネットによってつながり、今でもフジロックで乾杯したりする。けれど、mixiコミュニティ以降、趣味を通じてつながる空間があまりなかった。同じコンテンツが好きな人同士がつながることができれば、人生がより豊かになると思い、Mirrativを始めた」(赤川さん)

「バーチャル化」は才能の解放

赤川準一社長

DeNA執行役員としてMirrativを運営していたが、「よりコミットしたい」という思いから、2018年3月にチーム全員でスピンアウトし、ミラティブを創業した赤川隼一社長。

撮影:室橋祐貴

VTuberを『次のタレント事業』と見るか、人類がもう一人の自分を持つようになる大きな流れと見るか、ではまったく異なる。僕らが目指しているのは後者

Mirrativが目指すのは数億人が自分の分身(アバター)を持つ世界だ。

PCゲームが主体だったTwitchのユーザーは1億人。スマホゲームの人口を考えれば、数億人の規模になってもおかしくはない。

しかし、本当に人々は自分の分身を持つようになるのだろうか。

その萌芽はすでにMirrativにある。

Mirrativは、ニコニコ生放送やSHOWROOMとは異なり、顔出し文化がない。

顔出し文化があると、容姿も見られ配信のハードルも高くなるが、それがないことによって、ユーザーはTwitterの複数アカウントのように時と場合によって違う「顔」を見せることができる。

「Mirrativでは顔出し文化がなく、純粋にゲームの上手な人が『神』と呼ばれるような文化がもともとあった。ここでは現実社会の『しがらみ』から解放されて、いつもとは違う自分になれる。その上で、アバターを分身として表示すると、相手をより身近に感じることができる。ユーザーにヒアリングをすると、有名なキャラクターになりたいという声よりも、自分のアバターの顔を他の人に使わせないで欲しいという声の方が大きい。それぐらい自分を投影したいという願望は強い」(赤川さん)

Mirrativのミッションは「わかりあう願いをつなごう」。

MirrativHP

HPのトップにも大きく掲げられている「わかりあう願いをつなごう」というミッション。

出典:ミラティブHP

わかりあえないという「人類の根源的な課題」(赤川さん)を解決するために、将来的には、国境や人種も超えた仮想空間でのコミュニケーションも見据える。

いろんな人たちが『なりたい自分』として世界中の人々とつながっていく世界。いきなり外国人と2人になっても話せないかもしれないが、共通のゲームの話題があれば、仲良く話せる。そうしてゲームを軸にわかりあう瞬間を作っていきたい」(赤川さん)

(文・室橋祐貴)

ソーシャルメディアでも最新のビジネス情報をいち早く配信中