全日空、東芝、ADK…2年で1000社以上殺到。就活経験ナシの25歳が作った「ウェブ面接ツール」

就活

売り手市場化で企業の採用競争が激化し、人事担当者が集中できる時間と労力は限界に達しつつある。

撮影:今村拓馬

人手不足が続く中、そしてますます深刻化するなか、大手企業でさえも優秀な人材の確保に四苦八苦している。人事コンサルタントの秋山輝之氏は、人事の現場のこんな声をBusiness Insider Japanの記事(2018年9月11日付)で紹介している。

「実質的に1年中ずっと採用面接をしている。終わらない仕事をえんえんとしている感じ」(通信大手の人事担当)

参考記事:経団連「東京五輪のために採用前倒し」計画が、就活ルール廃止にすり替わった本当の理由

会社規模にかかわらず、人材獲得競争はかつてないほど激化し、人事担当者の負担もピークに達しつつあると言って間違いない。

全日空、東芝、ADK……有名企業が次々と導入

インタビューメーカー

ウェブ面接ツール「インタビューメーカー」のウェブサイトより。導入事例を一気に増やし、最近はフリーアナウンサーの内田恭子さんをPRキャラクターに起用。認知度拡大を進めている。

出典:Blue Agency HPより編集部キャプチャ

そんな現状に目をつけ、企業がより多くの求職者と出会う機会を生み出すとともに、選考を効率化する新たな仕組みが話題を呼んでいる。ベンチャー企業のブルーエージェンシーが手がけるウェブ面接ツール「インタビューメーカー」がそれだ。

同社の前田裕人代表によると、企業の人事担当者からは「(ついに)ウェブ面接ができるようになったんですね」という反応がほとんどなのだという。

「ビデオ通話機能を使って打ち合わせするだけであれば、便利で安定的なアプリがいくらでもあるから何も難しいことはありません。ところが、採用面接にスカイプなどを導入するのは、セキュリティ面を中心とするさまざまな理由があって、意外にハードルが高いのです」(前田さん)

企業がウェブ面接ツールを必要としていることは、同社の実績を見れば一目瞭然だ。2016年5月のβ版リリースからわずか1年で導入企業は800社を突破。2017年5月に正式リリースし、2018年8月時点で1000社を超えた。全日本空輸(ANA)、西武鉄道、アサツー・ディ ケイ(ADK)、東芝、コーセーといった有名企業が、導入事例にズラリと名をそろえる

「面接を録画」と「動画で面接」がもたらすもの

ウェブ面接

ウェブ面接ツール「インタビューメーカー」は、ウェブ面接だけでなく、応募者のステータス管理や出稿中の求人広告管理や広告効果の計測など、採用管理システムを一括で提供する。

出典:Blue Agency

なぜそれほどウェブ面接は必要とされるのか。ポイントは「録画機能」だそうだ。

「面接担当者(例えば人事部)と採用後に配属される現場(例えば営業部)が異なることが多く、入社後に齟齬が起きるケースはかなり多い。現場が多忙でスケジュールがなかなか合わず、やむなく人事部にまかせているのが主な理由ですが、面接を録画できれば、配属予定先の然るべき人も適宜チェックできるので、現場の評価や意見を反映させることができます」(前田さん、以下同)

一方、配属先の社員が面接に直接関与できるケースでは、面接担当者の意見が重視されるあまり、会社という大きな視点で見た時に必要な人材を採用できないケースも多く、その解決策として録画機能が重宝されているという。

面接がブラックボックスになっている、という話をよく聞きます。担当者の好き嫌いで採用が決まり、本当に必要な人材が入ってこない、と。面接の録画を社内で共有することで、担当者による属人的な判断が抑えられ、採用基準が統一されていくんです。求職者たちに会社の姿勢や方針をどう説明するか、という部分も(録画の)積み重ねによって共有されるので、企業文化を固め、見える化する効果もあります」

面接録画を事後的に確認するだけでなく、あらかじめ企業側が用意した「質問動画」に応じる形で、志望者が自宅で撮影した動画をウェブ面接ツールを通じて送り、採用判断の材料とする「動画面接」も増えている。

「求職者にとって、24時間いつでも録画できるのは大きい。対人面接の場合、応募者と担当者の時間を合わせるのはひと苦労。特に中途採用の場合は転職前の職場に勤務中のことも多く、日中の時間を自由に確保するのが難しい。動画面接であれば、退勤後の都合のいい時間に落ち着いて、余裕を持って画面に向き合うことができます」

コピペだらけのエントリーシートはもういらない

面接 就活

企業では「面接がブラックボックス化している」との問題意識が強い。対人面接なら志望者の本質を見抜ける、という発想は、真実のある一面に過ぎない。

撮影:今村拓馬

それでも人物の良し悪しを判断するには、やはり実際に会って話す必要があるのでは?企業側からも「対人面接と同じレベルで(ウェブ面接が)できないと意味がない」との声が多いという。

「僕自身も、採用プロセスのどこかでは、実際に会う必要はあると考えています。ただ、その前段階の選考についてはウェブ面接で十分ではないでしょうか。挨拶して、会社概要を説明して、ごく基本的な質問をするだけでも数十分はかかる。それだと、多忙をきわめる人事担当者が実際に会える人の数は限られてしまう。スクリーニングを目的としてウェブ面接や録画面接を使えば、より見込みのある志望者と数多く会うための有効なツールになるんです」

有名企業の場合、応募者の数が圧倒的に多く、上記のような時間的・労力的な限界から、書類による足切り的な1次選考を行わざるを得ない面がある。

ところが近年では、就職対策サイトやネット上のさまざまなコンテンツからコピペし、それらしいエントリーシートをつくって応募する学生が増え、書類によるスクリーニングでは判断がつかないことも多くなっているという。コピペで埋められない部分は空白のまま送ってくるケースも少なくないとか。

「そういう応募者に対応する時間と労力は企業側にとって大きな負担ですが、動画ならそういうごまかしも利きません。動画ならではの新たな自己表現(例えば、具体的に何かモノをつくって見せるとか)が可能になったことで、書類選考では埋もれていたクリエイティビティを発掘することもできた、という声もあります」

インタビューメーカーを導入した企業のうち、広告代理店大手のADKは中途採用について、従来は書類だけだった1次選考に録画面接を加えた。1次選考のハードルを上げ、次のステップに進む候補者を厳しく絞り込むことで、より熱量の高い志望者を選ぶのが狙いだという。また、人気化粧品ブランドのロクシタンも、日本での採用選考にウェブ面接を導入した。

「録画面接」を導入した総合広告代理店アサツー・ディ ケイ(ADK)の人事担当者インタビュー。サービス提供側のPR動画ながら、企業側が書類一本槍の選考に限界を感じていることは十分伝わってくる。

提供:Blue Agency

小中学生の「なりたい将来の職業」上位にYouTuberがランクインし(ソニー生命など調べ)、上場企業のトップたちが「今一番ハマっているもの、次に“来る”と思うもの」として中国発の動画アプリ「TikTok」をこぞって挙げるなど、カメラの前で自己表現できない人材はもはや「イケてない」と見られる時代が来ているのかもしれない。

大学を出ていない、就活をしていないから見えるもの

前田裕人 ブルーエージェンシー

ウェブ面接ツール「インタビューメーカー」の開発・販売を手がけるブルーエージェンシーの前田裕人代表。

提供:Blue Agency

営業をさらに加速させ、「採用にウェブ面接は当たり前、という状況を早くつくり出したい」と強気な前田さんだが、自身は、求職者の活動を支援するとか、企業の採用活動を効率化することより、新規事業を立ち上げて「チャンスのある社会にしたい」という思いの方が強いという。

「就職や転職は人生にそう何度もない、人生を大きく変えるチャンス。にもかかわらず、地方に住んでいるとか、身体的なハンディキャップを負っているといった理由だけで、チャンスを得られないことがままある。そんな不利な立場にある求職者たちは、人手不足で採用活動の労力が大きくなり人事担当者に余裕がなくなってきたことで、ますますチャンスが遠のいている。両者の出会いのきっかけをつくり、チャンスを広げることが、自分のやるべきことだと思っています」

そう考える背景には、自らの出自がある。「キレイな話とか、カッコいいエピソードとか、全然ないですよ」と前置きして、前田さんはこう語ってくれた。

「自分は音楽に夢中になって大学を出ていないんです。就活もしていない。だからなおさらかもしれないけれど、就活ルールとか就職支援サイトとか、採用市場って自分じゃ考えつかないような仕組みがたくさんあって目からウロコで、純粋に面白いなと感じる。ただし、そういうのもみんなのチャンスを広げられなかったら、全然意味がないと思いますけどね」

時代の空気に流されて転職を煽り立てる人材会社と同じ市場で闘いながら、前田さんは本質的な問題を見抜いているように感じた。「あらゆる人にチャンスを」にこだわる前田さんと、ブルーエージェンシーの次なる展開に注目したい。

(取材・文:川村力)

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