ドコモは新料金プランの方向性を示した。
出典:NTTドコモ
政府が示す「携帯料金4割値下げ」提言に揺れる通信業界。困惑する業界関係者の声も聞かれる中、NTTドコモが具体的な指針を示した。
NTTドコモは、2018年度第2四半期決算説明会を東京・大手町で開催。吉澤和弘社長は第2四半期の決算概況を解説した後、新料金プランや設備投資に関する方向性を定めた中期経営戦略を明らかにした。
2〜4割程度の低廉化になる新料金プランを準備中
NTTドコモ 社長の吉澤和弘氏。
発表された中期経営戦略の中で最も注目度が高いものは、やはり料金プランに関してだ。
ユーザーの契約や利用状況にもよるが、同社は新料金プランによって、全体として2〜4割程度の低廉化を想定。新料金プラン実施による1年あたりのユーザー還元額の総額を4000億円規模になると試算している。
具体的にどのような値下げになるのか。詳細については調整中とのことだが、詳細な質問を求める記者の質問に対して吉澤氏は、「分離プランを軸として検討しているが、さまざまな可能性がある」と回答している。
年間4000億円の還元を行えば、その分値下げ実施前と比べて減益になるわけだが、NTTドコモは金融・決済などを含むライフスタイル分野やビジネスソリューションなどの非通信分野や光通信で利益を上げ全体的な成長につなげようとしている。
分離プランとは、現在主流の料金プランとは異なり、スマートフォンなどの「端末代金」と月々に発生する「通信料金」を別々に扱う料金体系のこと。すでにNTTドコモは分離プランとして、利用する端末や加入期間に関わらず通信費から毎月1500円割り引きされる料金プラン「docomo with」を提供しているが、これは対象端末の購入時のみ加入できるという制限が存在する。
「分離プランを軸に」という言葉をそのまま解釈すれば、docomo withの対象端末を拡大したり、加入タイミングの制限自体を撤廃する可能性なども検討しているのかもしれない。
分離プランで「皆がiPhoneを買う」時代は終わる?
iPhoneなどのハイエンド端末が安く見える時代は終わるのか。
ただし、分離プランにもデメリットはある。それは今までより端末代金が高く見えることだ。
iPhoneなどのハイエンド端末のユーザーの多くは今まで端末代を24カ月分に分割し、通信費の一部として支払ってきた。NTTドコモであれば「月々サポート」といった端末に応じた割引サービスで端末代を実質価格として控えめに見せてきた。
もし、現在とは異なり分離プランが主流になれば、いままで通り最上位クラスのスマートフォンを買おうとしたユーザーが尻込みしてしまう可能性はあるだろう。もちろんNTTドコモに限らず各キャリアは近年、10万円前後のハイエンド端末から3〜4万円程度のミドルレンジ端末までをラインアップとして加えて、ユーザーの選択肢を増やしている。
いずれにせよ、NTTドコモは実際の料金プランの内容と提供時期を、2019年度第1四半期(2019年4〜6月)としているので、続報を待つ必要がある。
NTTドコモとしてはあくまで「自主的」な取り組み
NTTドコモの独自調査の結果、ドコモユーザーの約半分が現在の料金プランをわかりにくいと感じているという。
では、NTTドコモはなぜ2019年度第1四半期を前にこのような方針を発表したのか。
10月には菅義偉官房長官からNTTドコモ、au、ソフトバンクの3キャリアの料金に対する「4割値下げ」発言が話題となっているため、「NTTドコモは、政府高官の発言で忖度し今回の発表に踏み切ったのではないか」という声もある。
これに対し吉澤氏は「今回の取り組みは当社の自主的なもの」と話す。NTTドコモには以前から「料金プランがわかりにくい」「お得感が感じられない」という指摘が多数寄せられており、2018年6月の独自調査によると「料金プランがわかりやすいか」という質問に、約48%のNTTドコモの契約者が「そう思わない」と回答しているという。同社としては菅官房長官の発言もそういった意見のひとつとしてとらえ、今回の料金の低廉化に取り組むという姿勢だ。
また、2019年10月には楽天が同じフルサービスを提供できるキャリアとして通信業界に参入する。前述の菅官房長官の発言も、楽天参入による競争の効果を期待してのものもあるだけに、ドコモとしては楽天参入前に、自社のユーザーに対しおトクさを呼びかけ、解約やMNPを踏みとどまらせたい狙いもありそうだ。
本当に必要なのは「安さ」だけではなく「わかりやすさ」?
詳細については検討中として明言を避けた吉澤氏。
会見のやり取りの中でとりわけ気になったのが、吉澤氏が「2〜4割程度安くする」ではなく「シンプルでわかりやすくする」という点を度々強調していたことだ。
どんなに通信料金を安くしたところで、例えば現在のように基本プラン自体の2年縛り契約があったり、契約に紐づく様々なオプションサービスの月額料金が別に発生していれば、ユーザーの混乱や不満は続くだろう。
また、分離プラン自体が本当にユーザーに求められているものかどうかも冷静に判断しなければならない。
日本では長期間にわたり端末料金と通信料金は一緒のものとして扱われてきた。それが急に分離プランになってユーザーの理解が得られるかは、相当な工夫がないと難しい。
NTTドコモの対応を受け、KDDIやソフトバンクがどのような具体的な方針を打ち出すのかは注視しておく必要がある。
(文、撮影・小林優多郎)