新iPad Pro現地レビュー:徹底的な「理詰め」と「必然」、その秘密を実機から紐解く

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12.9インチモデルと11インチモデルの比較。大きさはけっこう異なる。

今週、アップルが発表した3つの新製品の中で、多くの人が関心を寄せているのが「新iPad Pro」だろう。過去のiPadはもちろん、iPhoneともMacとも異なる「新しいデザイン」を採用し、小型化し、性能アップし、インターフェースまで変わった。

そこにはどんなアップルの戦略が込められているのか、現地で実機に触れた印象から考えてみた。今回の製品、詳細に分析すると、いままでのiPad以上に「理詰め」「必然性」の塊のようなデザインになっている。

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発表会場近くで開かれた実機ハンズオン。世界中から集まった記者が一斉に実機をチェックした。

新iPad Proのサイズが11インチと12.9インチになった合理的な理由

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新iPad Pro 12.9インチモデル(スペースグレー)。

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新iPad Pro 12.9インチモデルの裏側。下部にはSmart Keyboard用の端子が見える。

新しいiPad Proは、iPhoneと同じように「ホームボタン」がなくなった。「画面だけ」になったことは、今回の製品のデザインと特徴を考える上で、非常に重要な要素だ。アップルは「Liquid Retina」と呼ぶ液晶ディスプレイと、顔認証技術「Face ID」を採用し、ディスプレイ周辺の「ベゼル(縁)」が、どの「辺」もほぼ同じ太さになるデザインを採用している。

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顔認証技術「Face ID」を搭載。パーツそのものはiPhone用とほぼ同じものと思われる。

ポイントは、「iPadはディスプレイの縦横比を変えない」「どの向きでも使える」ということだ。

iPadは2010年に生まれて以来ずっと、ディスプレイの縦横比を「4:3」に維持してきた。それは紙のアナロジーであり、縦でも横でも使いやすい、見慣れた形だからだ。

新iPadは四辺の太さが同じになったので、特にそういう使い方がしやすい。iPhoneのFace IDは「縦持ち」の時しか働かないが、iPad Proのものはどの向きでも使えるだからだ。

逆に言うと、ベセルの太さはFace IDの大きさでほぼ決まっており、現状、無理に小さくすることもできない。一辺だけ太くするのは、これまで続けてきたiPadの流儀にも反する。そして、液晶ディスプレイを採用する限り、ベゼルを細くすると製造が難しくなる。

ディスプレイパネルの調達や価格を考えても、現状、「大量に販売するタブレット」(ここが非常に重要。他社のタブレットとは出荷量が圧倒的に違うのだ)では、有機ELよりも液晶を採用するのが利に叶っている。アップル自身が主張するように、iPadは「すべてのノートPCよりも売れている」のだから。

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アップルのティム・クックCEOが、「iPadはすべてのノートPCよりも売れている」と説明し、個人用コンピュータとしての人気を強調。

iPhoneは縦に持つことに特化し、「ホームボタンの分の面積」で、画面を上下に広げた。だが、iPadは画面比を変えない。だからこそ、採れる選択肢は2つだった。

つまり、「画面サイズをそのままにして小さくする」か「ボディサイズをあまり変えずに画面を大きくする」かだ。

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11インチモデルは「ボディサイズを維持してディスプレイを大型化」した。

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12.9インチモデルは「ディスプレイサイズを維持してボディサイズを小型化」している。

12.9インチモデルは前者を採ってボディを小型化し、11インチモデルは後者を選択して画面を大型化したわけだ。技術が進歩した分、本体重量の軽減と薄型化が実現されているので、現行機種に比べ持ちやすくなっている。

一方、薄型化の代償として、3.5mmヘッドホン端子はなくなった。ここは現行のiPhoneシリーズがそうだったように、評価が分かれる点かも知れない。

Apple Pencilの改良が「四角いデザイン」を生んだ

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角の丸みは旧機種と違ってなくなった。その分薄型化しているが、本当に「板」のような形状だ。

アップルはiPadで「丸み」を重視したデザインをずっと採用してきた。だが、新iPad Proは、まるで切り落としたように四辺が四角い。冒頭で述べたように、いままでのiPadともMacともiPhoneとも違うテイストだ。

新iPad Proはなぜ「四角い」のか? これも、実機を触れば納得できる。すべては「第二世代Apple Pencil」があるからだ。

第二世代Apple Pencilでは、充電とペアリングの方法が大きく変わっている。本体のLightningコネクターに差し込むスタイルが廃止され、マグネットで本体に付けることで充電とBluetoothのペアリングが行われる形式になったのだ。

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本体の一辺にApple Pencilがマグネットでくっつき、充電やペアリングを行うようになった。

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Apple Pencilがつけられる辺には、接続用の端子が用意されている。

そのため、Apple Pencilは完全な円筒ではなく、一辺がフラットになっている。ここでiPad Proと磁石で吸着するのだ。

この結果、Apple Pencilが抱えていた、日常的に使う際の不満がかなり解消されている。

Apple Pencilは高精度で、デジタルペンとしても、とても優れた技術だ。それは、今回の第二世代も変わらない。しかし、初代Apple Pencilは、初期製品ゆえの不便な部分が残っていた。丸くて机の上で転がりやすく、充電用端子を隠すフタはなくなりやすく、iPadのLightning端子に刺して充電する姿はどうにも不安を抱かせた。

第二世代は、そういった点を1つ1つ解消した。机の上で転がらないし、フタがなくなることもないし、充電する姿を見ても不安は感じない。

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新Apple Pencil。一辺が平らになり、机の上で転がらなくなっている。充電用のコネクターもなくなった。

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裏側を向けるとこのように丸い。上の写真のように、平らなのは一部だけだ。

これは想像だが、アップルはApple Pencilの精度に自信を持ちつつも、日常的な使い勝手に対する不満を相当意識していたのではないだろうか。マグネットによる接続で充電とペアリングをする、という機構をペンに組み込むのはそれなりに大変で、相当に慎重な設計が行われたはずだ。

マグネットでくっつけることから、本体のデザインも必然的に制約をうける。くっつけるには「平らな面」が必要だからだ。すでに述べたように、iPadは「どの向きでも使える」ことが重要。デザイン的にも、一辺だけ平ら、というのはバランスが悪い。となると、四辺が同じように平らな、今の「四角い」デザインになる。

USB Type Cへの移行にはアップルの頭の中が透けて見える

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実機の底面。Lightningコネクターではなく、USB-Cのコネクターがある。

デザインの変化が必然なら、インターフェースの変化も「必然」だ。今回、かねてから噂はされながらも、業界で最も驚きをもって迎えられたのは、充電と拡張に使うインターフェースが、iPhoneの「Lightning」から「USB-C(USB Type-C)」になったことだろう。

これも、iPadを仕事で使っていくと「そうなるべき」であることが見えてくる。ポイントは次の写真だ。

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発表会で示された、新iPad Proの使用イメージ。この通り使おうと思うと、「USB-Cへの移行」は必須だった。

カメラをつなぎ、撮影中の写真を確認しているのだろう。実はこれ、現行のiPadではけっこう難しい。

LightningとカメラなどのUSB機器をつなぐインターフェースは以前からあるが、これには「電源供給用」のLightningコネクターがついていた。Lightningだけではデジカメへ供給する電力が足りず、正常に機能しないことが多いからだ。カメラをつないで、別途「電源」もつなぐ、というのは本当に面倒だ。

「外での撮影中、気軽にカメラをつないで写真を確認する」には、メモリーカードを介する必要があった。メモリーカードやUSBメモリーをつなぐににも、アダプターが必要でそもそも面倒だった。

だが、こうしたことは、インターフェースがUSB-Cになることで解決できる。電源供給には余裕が出て、iPhoneを充電できるほどになったし、デジカメもメモリーカードも扱いやすいだろう。

だが、USB-Cの採用はこれだけに止まらない。

ディスプレイとの接続が可能になるが、デモを見る限り、単なる「ミラーリング」だけではなくなる。一般的なPCでは、ディスプレイを2つ用意して作業画面を広げる「マルチディスプレイ」ができるが、そういうことが新iPad Proでは容易に可能になっているようだ。

絵をiPad側で描きつつ、全体像は接続した4Kディスプレイで確認……という使い方もできるわけだ。

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ハンズオン会場でのデモ。4KディスプレイをiPad Proにつなぎ、絵を描いているのだが、「iPad Proに表示されている」のは作業している一部であり、4Kディスプレイ側には全体像が見えている。

ハンズオン会場では、どのくらいの周辺機器が新iPad Proで利用可能になるのか、詳細は不明だった。実機で試さないとわからない部分が多いし、おそらく「MacやPCで使えるものはすべてOK」とはいかないだろう。とはいえ、相当に可能性が広がるのは間違いない。

という風に考えると、「次に、iPhoneもLightningをなくすのか」という疑問が湧いてくる。だが、これは「あり得るが、なくならないかもしれない」という可能性もある。なぜなら、スマホはiPadのような汎用コンピュータではないからだ。とはいえ、使い分けも面倒なので、USB-Cへの統一が「あってもいいし、歓迎したい」と個人的には思う。

汎用性能を強化し、PCに近づく「必然」

「パフォーマンス」の設計も必然から生まれている。

iPad Proでは「A12X Bionic」というプロセッサーが採用された。これは今年のiPhoneに使われた「A12 Bionic」の強化版だが、かなり「PC的」な部分が強化されている。

近年、アップルが力を入れているマシンラーニング性能の高速化・高度化の部分は、iPhone用もiPad Pro用も同じ性能だ。だが、プロセッサーの規模は100億トランジスタ対69億トランジスタで、iPad Proの方がずっと多い。強化されたのは、CPUコアとGPUコアの数。つまり、「汎用的な処理速度」の底上げである。

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A12X Bionicのトランジスタ数は100億。かなり大規模なもので、iPhone用(69億)よりさらに大きい。

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A12X Bionicの構成。CPUコアが8つ、GPUが7つとなっている。

デザイナー・イラストレータが待望している「フル機能版Photoshop」も、2019年に登場する。それらをガンガン使うには、iPhone以上に「汎用性能」が高まる必要がある。

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先日のAdobe Maxでも話題だった「フル機能版Photoshop」のデモ。2019年提供開始の予定。

新プロセッサーの機能で、ストレージ容量も「最高1TB」まで増えた。これも、「PCと同じように、妥協なく仕事をする」には重要な点だろう。

とはいえ、PCとiPadは違うものだ。PCやMacを捨てて、iPadだけですべてを賄うことを、アップルが期待しているとも思えない。OSの構造も(まだ、という但し書き付きだが)違うし、やはりできることも違う。

「適材適所をつきつめ、相互に道具として妥協せず使える」のが、新iPad Proの進化の方向性だ。

これは、iPadがPCのようにスマートデバイスの親機になる、いわゆる「iPadの母艦化」とは異なる。母艦はむしろ、今の時代は「クラウド」だ。クラウドから見て等価な仕事の道具になることが、新iPad Proの狙いであり、それはやはり、ここ3年間のアップルの地道な投資と、進化の延長線上にあるものだ。

(文、写真・西田宗千佳)


西田宗千佳:フリージャーナリスト。得意ジャンルはパソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主な著書に『ポケモンGOは終わらない』『ソニー復興の劇薬』『ネットフリックスの時代』『iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』など 。

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