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ライドシェアのウーバー(Uber)、フードデリバリーの米ドアダッシュ(DoorDash)、インド・モバイル決済のペイティーエム(Paytm)……。ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)が投資する世界屈指のスタートアップ企業の価値が上がれば、SVFの株式評価益は増大し、ソフトバンクグループの利益は膨らむ。
ソフトバンクは2018年11月5日、上半期(4月〜9月)の営業利益が前年同期から62.4%増え、1兆4207億円になったと発表。SVFの株式評価益は5038億円に達した。
SVFの投資先の中で、ウーバー、ドアダッシュ、ペイティーエム3社の企業価値(Valuation)の上昇に注目が集まる。ジェフリーズ証券のアナリスト、アツール・ゴヤール氏のレポートによると、ウーバーの価値は、ソフトバンクが同社の15〜20%の株式を取得した際の480億〜500億ドルから、8月末までに700億ドル(7兆9281億円)以上に増加した。
企業価値1000億ドルを狙うウーバー
ウーバーの企業価値は700億ドル以上に増加。上場に向けて、1000億ドルを目指すという。
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フィナンシャル・タイムズは10月17日、ウーバーが6カ月以内の株式上場を準備していると報じると、同社は今後、企業価値を1000億ドル以上に拡大していくと伝えた。また、8月に約5億ドルの資金をトヨタから受け入れることで合意し、世界で最も安全な自動運転社を同社が展開するネットワークに投入していく。
同じく8月、インドでモバイル決済を手がけるペイティーエムの親会社(One97 Communications Ltd.)の資金調達は、世界中のメディアが大きく報じた。著名投資家のウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイが、250億ルピー(約3億5600万ドル)相当の株式を取得し、ペイティーエムの企業価値は100億ドルを超えたという。前回の調達ラウンドで明らかになっていた70億ドルの価値からさらに膨れ上がった。
100億ドルのインド決済ベンチャー
インド・ムンバイの野菜路面店に貼られるPaytmの広告(撮影:2016年11月)
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ソフトバンクは2017年5月にOne97 Communicationsに14億ドル(1585億円)を出資しており、インドにおいて同社最大の投資先となった。孫正義氏のインドにおける長期的な投資戦略が明らかとなったディールだ。
大型投資からおよそ1年後の2018年7月、ソフトバンクとヤフーの合弁会社、PayPay(ペイペイ)は、バーコードやQRコードを使った決済を可能とするスマートフォン決済サービス「PayPay」を今秋から開始すると発表(既に10月5日からサービスイン済み)。PayPayはペイティーエムと連携して、日本市場でスマホ決済を築き上げていく。
拡大する北米のフードデリバリー市場
ドアダッシュ共同創業者・CEOのTony Xu氏(写真右)。
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SVFが2018年に投資したスタートアップで企業価値を伸ばしている3つ目の企業が、アメリカでフードデリバリーのアプリを展開するドアダッシュだ。
SVFは3月、サンフランシスコに拠点を置くドアダッシュが行った5億3500万ドル(約605億円)の資金調達ラウンドを主導。ラウンドにはセコイヤキャピタルやシンガポールの政府系ファンド、GICが加わり、ドアダッシュの企業価値は14億ドル(約1585億円)に上昇したと伝えられた。
SVF主導の投資から5カ月後、ドアダッシュはさらに2億5000万ドルの調達を行うと、企業の評価額は40億ドル(約4530億円)に上昇。アメリカのフードデリバリー市場は競争が激しくなる一方で、今後大きな成長が期待されている。2013年創業のドアダッシュは3月時点で、600都市で事業を運営しているが、年内にはその都市数を北米で3倍にする方針を打ち出している。
そして、運用額10兆円規模のSVFは、また新たにその資金の投下先を見つけた。
11月2日、SVFがシリコンバレーに拠点を置き、建物のエネルギーの消費を抑えるガラス(スマートウィンドー)を製造するビュー社(View Inc.)に11億ドル(約1245億円)を出資したことがわかった。
巨大ファンドからの巨額のベンチャー投資、そして投資企業との国境を越えた連携でシナジーを作り出す。今後も、SVFのアグレッシブな動きに世界中の投資家、起業家、金融界、ビジネスリーダー、メディアの注目が集まる。
(文・佐藤茂)