KDDIの髙橋誠社長は、東京・大手町で開いた決算会見で、話題の「通信料値下げ論争」についてコメントした。
「いまから4000億円規模の還元をするということは絶対にない」
KDDIの髙橋誠社長は11月1日の同社の決算会見の場で、そう言い切った。この発言は、前日にNTTドコモの吉澤和弘社長が発した2019年4〜6月期に2〜4割ほど安くなる料金プランを提供し、年間約4000億円規模のユーザー還元を実施するという発言に対するものだ。
なぜ、髙橋氏はドコモへの追従を否定したのか。その背景にはKDDIが取り組んできた料金プラン改革への自信がある。
髙橋氏「当社はすでに真摯に対応している」
KDDIは固定回線とのセット割「auスマートバリュー」を皮切りにユーザー還元をし続けていると主張している。
昨日報じたように、現在NTTドコモが明らかにしている「新料金プラン」の内容は以下の通りだ。
- 今よりわかりやすいシンプルなプランにする
- ユーザーの使い方によるが、2〜4割ほどの値下げとなる
- 割引額の1年間の想定累計額は最大4000億円
- 通信料金と端末代金を分ける分離プランを中心に設計していく見通し
詳細は現時点では伏せられているため、KDDIの髙橋社長がとりあげたのは、ドコモが言う「分離プラン中心」「最大4000億円の還元」という点だ。
NTTドコモは、10月31日に新料金プランの方針を発表している。
出典:NTTドコモ
KDDIは、NTTドコモとソフトバンクの2社に先んじて2017年7月、端末代金を割り引かない代わりに通信料金を下げる、いわゆる分離プランの「auピタットプラン」「auフラットプラン」の提供を開始。さらに、2016年8月には長期契約者向けのロイヤリティープログラム「au STAR」を開始している。
髙橋社長によると、auピタット/フラットの両プランの契約数は1000万契約を突破し(2018年9月23日時点)、非常に好調だという。
KDDIの分離プラン「auピタットプラン」「auフラットプラン」の1年間の同社業績への影響が明らかになった。
中でもauピタットプランは、ユーザーへの請求額にも大きく影響している。
このプランは月々のデータ通信利用量に応じて料金が段階的に可変する仕組みだが、月々のデータ使用量が少なければ契約から最初の1年間は最低1980円(税抜)で利用できる。実際、auピタットプランに契約変更したユーザーの変更前と後の平均請求額を比べると約3割ほど減少しているという。
これら分離プランによる値下げとau STARによる還元額を1年分合算すると約3000億円を超える還元になると髙橋社長は話す。
「夏から今年度末までに3000億円下がったが、民間企業なので増益をしっかり狙っていく。(中略)我々はドコモさんより一歩先に“宿題”を済ませている。ドコモさんの値下げの話が出たから、そのまま我々が同じ規模で追随することにはならないと思っている」(髙橋社長)
KDDIとしてはNTTドコモの方針表明や政府高官に指摘されるまでもなく、総務省や公正取引委員会の指導に従い通信料金の値下げや料金のシンプル化に対して既に取り組んできた、と言いたいわけだ。
auの通信料以外の収入が順調に増加
auの通信料収入は減少傾向にある。
さらに、髙橋氏は「中期経営戦略を弊社も組み立てている最中だが、最初から減益を発表するつもりはない」と、4000億円のユーザー還元を見込むNTTドコモへの牽制発言も出た。
今回発表された2019年3月期第2四半期決算の業績は増収増益で、通期の目標に向けて順調に推移している。
決算の内訳をみると、auユーザー1人あたりの通信料収入を示すau通信ARPAは、前年同期比1.7%減となる5870円に減少しており、通信料全体の収入で見れば、同2.9%減の4329億円まで落ちている。
しかし、MVNOへの通信設備貸し出しや金融事業を含めたライフデザイン分野、ビジネス分野、グローバル事業のプラス収益によって、通信料収入の減少をカバーした。
KDDIの2019年3月期第2四半期の営業利益の主な増減要因。
髙橋社長は、今回の通信料値下げ論争の発端とも言える菅義偉官房長官の「4割値下げ」発言に対し、以下のように発言している。
髙橋社長「官房長官がおっしゃっている4割というのは何なのか不明確。分離プランによって通信料金としては非常に落ちている。(中略)うちとしては一つ一つ政府や官邸の宿題には、やれることはやっている」
また、ユーザーへの還元と分離プランの推進について、KDDIがいち早く実行してきた「トップランナーである」とし、「持続的成長をし続けてはじめて、還元できる」と、今後も利益の追求と新技術への投資、ユーザーや株主への還元を両立させる考えを示した。
(文、撮影・小林優多郎)