楽天「第4の通信キャリア」参入をKDDIが支援した理由 —— デメリット一切なし、KDDIの「身内化」戦略

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KDDIの2019年3月期第2四半期決算会見の中で、同日発表の楽天との提携について髙橋誠社長が説明した。

菅官房長官が言及する、通信料金の「4割引き下げ」実現の要の1つとみられる、第4の通信キャリア「楽天」参入。2019年10月のキャリア参入開始にあたって、ローミングによる回線網提供の手を差し伸べるキャリアに注目が集まる中、「提携」の意向表明をしたのはKDDIだった。

KDDIは11月1日、楽天と「事業協争」を掲げた提携を発表。これは、KDDI回線をローミングで楽天に貸し出すだけではなく、決済・物流・通信分野のそれぞれで、両社の強みを使って新たな事業をつくっていく、という相互メリットのある提携、という建てつけだ。

KDDIの髙橋誠社長は同日行われたKDDIの四半期決算質疑の中で、今回の合意に至った経緯について、

「今年になってから(楽天から)ローミングの申し入れがあった。たぶん我々だけではなく、NTT(ドコモ)さんであるとかソフトバンクさんにも申し入れになったと思うが、いろいろと条件の話にさせていただいて、我々としても対応できる範囲におさまりそうだ、と」判断したことから、ローミング提供を決意したと経緯を語った。

質問に答える髙橋社長

質問に答える髙橋社長。

提携合意の決定打は、もちろんローミングによって得られる回線収入だけではない。

「通信とライフデザインの融合」を掲げ、通信料金以外の収益の柱づくりを進めるKDDIにとって、楽天の既存事業にはノウハウの点で魅力的な部分が多かった。

髙橋社長は続けて、「(楽天の)120万店舗以上の加盟店をお持ちになっているもの(楽天ペイ)であるとか、物流(分野)に非常に興味があった。“協争”の概念を持って、一緒にやっていける範囲があるんじゃないか」と考えたと説明。楽天の持つ決済基盤や物流基盤の資産が、KDDIが今後推進するau PAYなどの決済事業、Wowma!などEC事業などと親和性が高かったことも魅力だった。

KDDIにとって、楽天への「ローミング回線の提供」はデメリットなし

KDDI

料金プラン改革を進めるKDDIは、いわゆる分離プランであるピタット/フラットプランへの移行でau本体の通信料収入は下落傾向。それをMVNO収入や付加価値事業の収入で補い、業績を伸ばしている構図だ。

一方で、競合になる楽天にローミング回線を提供することは、KDDIにとって不利に働かないのか? KDDIのしたたかさはその契約内容にある。

今回の提携でローミングが提供されるエリアは「東京23区、大阪市、名古屋市および混雑エリアを“除く”、全国エリア」としている。つまり、都市圏は楽天が今後、急ピッチで設置を進める自前アンテナに任せ、都市と都市の間の比較的、収容に余裕のあるエリアについてのみ、ローミング回線を提供するという形だ。

「それほど新たな(アンテナ設備などの)投資がかかるわけではないので、適正な使用料を得られれば、お互いに結果が得られる」(髙橋社長)という発言には、KDDIにとっては比較的軽めの負担で“しっかりと利益の上がる提携”だという認識をしていることがうかがえる。

MVNOへの回線貸し出しとの条件比較にも、髙橋社長は言及している。

MVNOとは

自社で通信設備を持たず、MNOから借り受け事業を展開する仮想移動体通信事業者(Mobile Virtual Network Operator)のこと。

MVNOは全国を対象にしなければいけないが、楽天へのローミングは、回線に余裕のある地域に限定される。KDDIにとってみれば、設備投資効率の悪かった地域で貸すことになり、「単価的にはMVNOよりは高くなる」(髙橋社長)と言う。

楽天とKDDIのローミング提携

楽天のリリース文。

こうしたローミング回線提供は、2026年3月末までの期限を区切った提供だ。

日本の場合、キャリア参入のための免許取得に際して、詳細な計画書を提出することになっている。「2026年3月末」という具体的な数字は、そこから逆算されたものだ。

楽天は、KDDIから切り替え期限を切られたこの時期までに、しっかりと自前回線網のカバー率を上げ、総務省に宣言した計画を守らなければならない。

もちろん、ユーザーの立場に立てば、自前エリアを計画どおりに広げるだけではなく、KDDIのローミングが終了した2026年4月以降に、大幅に回線品質が悪化するようなことも避ける必要がある。

決済事業「au PAY」の離陸に楽天の力を借りる

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KDDIはこれまでも決済事業「au PAY」を展開する予定で、QRコード決済を使うと発言してきた。

そもそもau PAYとは、auの電子マネーサービス「au WALLET」を、QRコード決済でリアル店舗で使えるようにするサービスで、2019年4月から開始する見込みだ。

au WALLETの利用規模は、「ポイントとチャージ額を合算したお客様のおサイフになる額がだいたい1000億円を超えてきた」(髙橋社長)という、それなりに大きな規模だ。

この場合、au PAYとしての利益は、QRコード決済部分の手数料収入ということになるが、KDDIは「QRコード決済の料率だけでは、商売にならない」(髙橋社長)と認識している。

それでもau PAYを始める理由は、au WALLETが店頭で使えることでユーザー満足度が上がり、それによってauからの転出が減り、その延長線上にポイント投資などをはじめとする各種金融サービスのビジネスがあり……といったように経済圏全体での利益創出を狙っているからだ。

au

このau PAYの垂直立ち上げと加盟店拡大に、楽天ペイで先行する楽天の力を借りる。

リリース文には、楽天ペイが加盟店網をKDDIに提供するとあり、いわゆる相乗りでのスピード拡大を狙う形だが、実情はそう単純でもないようだ。

KDDI関係者によると、少なくとも2019年4月のサービス開始当初から楽天ペイ加盟120万店舗超=au PAY加盟店になるわけではないという。実情としては、楽天のノウハウと営業力の助力を得て、場合によっては地道な加盟店交渉もして可能な限り早く立ち上げていく、といったところかもしれない。

いずれにしても、3キャリアにとって、「第4のキャリア・楽天が何を仕掛けるのか」の一挙手一投足を注視する状況は、回線を貸そうが断ろうが変わりはない。

髙橋社長は質疑の中で、「我々が(ローミング提供を)断ったところで、必ずどこか(ドコモかソフトバンクが)対応するだろうと思った」(髙橋社長)とも発言している。その言葉どおり、楽天へのローミング提供は業界の既定路線だった。

必ずどこかが提供するのであれば、下手に距離をうかがうよりも、むしろいち早く身内になり、楽天とも積極的にビジネスを展開し、さらに楽天側の動きをいち早く察知できるポジションをとる。KDDIはそう考えたのではないだろうか。

楽天との“事業協争”はKDDIにメリットこそあれ、デメリットはない —— そうした冷静なビジネス判断が、今回のKDDI×楽天の協争体制をつくったのだ。

(文、写真・伊藤有)

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