「プラスチックやめたら」売り上げ3倍に──LUSHが「脱プラ」を進める理由

世界中で深刻化する、使い捨ての「プラスチックごみ」問題。中でも、海に流れ込み波で砕けて5ミリ以下になった「マイクロプラスチック」は海洋汚染を広げ、人体からも発見されるなど大きな注目を集めている

10年前からこの問題に取り組んできたのが、化粧品会社のLUSH(ラッシュ)だ。「エシカル」(倫理的)であることを何よりも大事にしている同社だが、「脱プラ・減プラ」にはビジネス上も大きなメリットがあるという。

全商品6割「ネイキッド」、プラ容器も100%リサイクル

LUSH

包装無しの商品開発や使用済み容器のリサイクルに取り組むLUSH。2017年に節約したボトルは約80万個だという。

撮影:竹下郁子

2018年9月、そのLUSHの48カ国約930店舗のショップマネジャーや同社社員が一同に会し、新商品や今後同社が取り組むべき社会課題について話し合う「LUSH Creative Showcase」が開かれた。

入浴剤、シャンプー、石鹸、シャワージェル……展示されていた商品の多くに、プラスチックの包装がなかった。こうした包装なしの商品を「ネイキッド」と呼ぶが、LUSHの場合、全商品の約60%を占める。

ボディパウダーなどに使うラメもプラスチックフリー。クリームやボディローションなどの液体を入れる容器は、何度もリサイクルできるポリプロピレンを使い、使用済みの容器は店頭で回収して100 %リサイクルしている。

LUSH

ルース・アンドレードさん。売り上げの全額(消費税を除く)が社会活動を行う団体に寄付される同社の看板商品「チャリティポット」のモミュメントと共に。

撮影:竹下郁子

同社の環境マネジャーとしてさまざまなチャリティーキャンペーンや、民間団体への助成金事業に関わってきたルース・アンドレードさんは言う。

「プラスチックごみ問題に関して、私たちLUSHはいつも世界の一歩先を歩んできたという自負があります。リユースやリサイクルではなく、使わないことが一番大事です」

LUSHがプラスチックを減らす取り組みを始めたのは約10年前。「会社として廃棄物にもっと責任を持とう」という意識からだったという。それ以前も動物実験への反対をはじめ、さまざまな社会課題に取り組んできた。

関連記事コスメ会社LUSHがなぜ反原発キャンペーン?—— 客との接点は倫理観

一方で、プラスチックごみ問題に取り組むことには、ビジネス上も大きなメリットがあるという。

レジ袋200万枚のコストカット、売り上げは3倍に

LUSH

カラフルな「シャンプーバー」。「髪にも頭皮にも環境にも良い」のが売りだ。

撮影:竹下郁子

一般的に化粧品の製造コストのうち、パッケージが占める割合は約半分と言われている。

約10年前、イギリスでも商品がビニールなどプラスチック素材で包装されているものもあった。プラスチック包装をなくしたところ、いわゆるレジ袋約200万枚分が節約できたという。

「パッケージにコストをかけない分、より質の高い原材料で商品をつくることができるようになりました。特に自信があるのが固形のシャンプーバー。材料も利益率もすごくいいんです」(ルース・アンドレードさん)

シャンプーバーは石鹸のような固形のシャンプーで、もちろん容器はいらない。当時、イギリスでプラスチックごみ問題が社会で大きな関心を集めており、シャンプーバーの売り上げも約3倍になったそうだ。

イギリス政府はすでにレジ袋に対して課税し、ペットボトルに対するデポジット制の導入、化粧品中のマイクロプラスチック・マイクロビーズの使用やストロー・綿棒などのプラスチック製品の販売禁止の計画を発表するなど、プラスチックごみの削減に積極的に取り組んでいる。こうした政府の動きに後押しされるように、LUSHでのネイキッド商品の売り上げも上がっているという。

「LUSHでは接客のときに、商品がどのように環境に配慮してつくられているのかなどの背景も説明するようにしています。ネイキッド商品の売り上げが上がっているのは、お客さまも『いい買い物をした』という価値観を提供できているからかもしれません」 (ルース・アンドレードさん)

海ごみの8割占める日用品、包装なしを嫌がる客

海洋プラスチックごみ

海岸に漂着するごみの7〜8割が日用品のごみだ。こうした海洋プラスチックの量は2050年までに魚の量を超えると予測されている。

shutterstock/JJSINA

翻って日本。1人当たりのプラスチックごみ排出量が世界2位を誇るにも関わらず、G7の「海洋プラスチック憲章」に署名しなかったことで大きな批判を集めた。

関連記事マイクロプラスチック汚染と循環経済への大潮流:日本はなぜG7サミットで署名を拒否したのか

LUSHは海ごみのクリーンアップや分析を行っている一般社団法人JEANと共に、政府に海洋憲章への参加を促す署名キャンペーンを行っている。JEAN事務局長の小島あずささんは言う。

LUSH

「LUSH Creative Showcase」の会場でもラッシュジャパンのスタッフが署名活動を行った。

撮影:竹下郁子

「さまざまなグローバル企業やG7以外の国もこの憲章を支持すると表明しています。企業が脱プラ・減プラを進めるには経済的な負担が大きいのは確かです。この憲章はその決断のための後押しになるはずだったのに、残念ですね。海外本社がプラスチック商品を使わないよう方針転換しても、日本法人は煮え切らない会社も多いのが現状ですから」

一方で環境省は10月、プラスチック資源循環戦略の素案をまとめた。2030年までにレジ袋やストローといった使い捨てプラスチックの排出量を25%削減し、プラスチック製容器包装の6割をリサイクルや再利用する。こうした数値目標を政府が掲げるのは初めてだ。(朝日新聞デジタル2018年10月20日)

日本企業もいよいよプラスチック問題に向き合わなければならない時がきた。しかし、課題も多い。

LUSH

包装のないネイキッド商品の代表「バスボム」(入浴剤)。

撮影:竹下郁子

ラッシュジャパンの種村香奈美さん(チャリティバンク事務局)は、プラスチック包装をなくすための壁は4つあると言う。

「衛生基準など商品に関する法律が厳しい。イギリスでは包装しなくてもいい商品も日本の湿度では溶けるなどの環境の問題もあります。次にポーチに入れるなど持ち運びをどうするか。そして大きいのが消費者のマインドです。特に抵抗感が強いのが『ギフト』や、配送時に壊れるなどの心配がある『ネット販売』です」

ショップスタッフによると、「プレゼントなのに包装してないなんて」と驚かれたり、看板商品のバスボム(入浴剤)も「紙袋に入れたら、せっかく可愛いのに見えなくなる」と断れたことも。しかし、「はじめは嫌がっていても、環境問題への配慮だと説明すると『ギフトであげる友人にも伝えます』と言ってわかってくれることが増えました」(店員)など、良い循環に変わってきている。

LUSHの空き容器の回収率は日本は35%。イギリスが約8%なことを考えると、環境への意識は高いといえるだろう。

テクノロジー開発のビジネスチャンスでもある

LUSH

さまざまな肌の色に対応したファンデーション。イベントのセッションでも「持ち運び」が課題として上がっていた。

撮影:竹下郁子

実はイギリスでも、プラスチック包装をなくした10年前も、2017年のクリスマスギフトの多くをネイキッド商品にした際も、多くの批判の声があったという。

「企業は勇気を持たなくてはいけません。客の批判にこたえる新たな選択肢を提供し、『正しいニーズ』を市場に生み出すべきです。そのために欠かせないのがテクノロジー。プラスチックごみ問題に取り組むのは、どんな企業にとってもイノベーションのチャンスなんです」(ルース・アンドレードさん)

LUSHではメイクアップ用品も全てプラスチックフリーにする方針だが、ネックなのが持ち運びだ。現在、アーモンドオイルを絞り出した後に残るかすとバイオ樹脂を合わせた、生分解性のフィルムを使ったプラスチックごみになりにくい容器を開発中だという。

LUSHはこれまでも世界の動物実験の停止または代替に向けた優れた科学研究に対して「若手研究者」「世論喚起」など5つのカテゴリーに分け「LUSH PRIZE」として表彰し、助成をしてきた。総額は2億5000万円。

今後の課題は他の民間企業との連携だ。

「イギリスはお金を払わないとレジでビニール袋がもらえないようにしたら、約80%も使用率が減りました。やっぱり法律を変えることが一番の解決策なんです。だから私たちもこれまで政府に対しての働きかけは積極的にやってきました。今後は他の民間企業と連携したいですね。プラスチックごみはビジネスが生み出した問題なんですから」(ルース・アンドレードさん)

環境問題に対し優れた取り組みをする個人や団体にさまざまな企業が資金提供を行うグローバルファンドを展開していきたいそうだ。

(文・竹下郁子、取材協力・ラッシュジャパン)

ソーシャルメディアでも最新のビジネス情報をいち早く配信中

あわせて読みたい

Live life moment