【独占】メタップスグループのpringがニチガス・伊藤忠・ファミマから資金調達。CEOは「手数料への固定観念を打ち崩す」

pring

送金・決済アプリ「pring」のサービス紹介画面。金融アプリながら「おばあちゃんでもツータップで使える」ユーザーフレンドリーなインターフェースが特徴だ。

出典:pring HPより編集部キャプチャ

メタップスグループで送金・決済事業を手がけるpring(プリン)は、12.8億円の資金調達を実施したと11月5日に発表した。日本瓦斯、SBIインベストメント、UFI FUTECH(ユニー・ファミリーマートホールディングス子会社)、伊藤忠商事、SMBCベンチャーキャピタルなどが第三者割当増資を引き受けた。

存在感が薄れる時期が続いたが……

この半年、QRコード決済市場では驚きのニュースが乱れ飛んだ。

pringが3月に正式版をリリースすると、翌4月にNTTドコモが「d払い」を提供開始。6月にpringが業界最安値(当時)となる決済手数料0.95%を発表した翌々日、LINE Payが手数料を3年間無料にすることを明らかに。8月には“黒船”Amazon Payが実店舗でのQRコード決済に対応。10月5日にはヤフーとソフトバンクが共同出資で「PayPay」をリリースした。

早くにサービス開始して現時点で最大シェアを誇る楽天ペイ含め、大手各社が覇権を競うなか、9月にはベンチャー企業のOrigami Payが66.6億円という巨額調達を実施。提携済みのみずほ銀行や三井住友銀行に加え、ゆうちょ銀行やじぶん銀行(KDDIグループ)との提携も発表したことで、pringは他社の存在感に埋もれる形になった。

参考記事:メタップス、QRコード決済手数料「0.95%」業界最安値の衝撃 —— キャッシュレス化の起爆剤になるか

そんな猛烈に吹き荒れる嵐のさなかに、今回の10億円を超える資金調達。「pringが何を狙っているのか分からない。力技を次々繰り出す大手の前に、最悪撤退もあるのではと思っていたのだが……」(経済専門メディア記者)といった疑念を吹き飛ばす、インパクトのある第三者割当増資の顔ぶれ。本当は何を狙っているのか、pringの荻原充彦CEOに直接聞くことができた。

「デジタルマネーで報酬支払い」をビジネスに

pring 荻原充彦

pringの荻原充彦CEO。大和総研からDeNAを経て、メタップスグループへ。オンライン決済サービス「SPIKE(スパイク)」の立ち上げに尽力した後、現職に。

撮影:今村拓馬

最も注目すべきは、親会社のメタップスと資本業務提携している大手エネルギー販売会社の日本瓦斯(ニチガス)と、コンビニ大手ファミリーマート傘下でフィンテックを手がけるUFI FUTECH、さらにはファミマの親会社である伊藤忠商事からの出資を受けたことだ。

ニチガスは電力最大手の東京電力から出資および役員派遣を受け、猛烈な勢いで顧客を拡大している注目の企業。タレントの出川哲朗さんと本田翼さんを起用したテレビCM「ニチガス・ニ・スルーノ三世」シリーズの効果もあって、知名度が一気に高まった。

「ニチガスの検針員や配送業者に対し、pringを通じて送金手数料ゼロで報酬を支払うシステムの運用が10月末から始まりました。また、企業が従業員に(銀行口座を介さず)デジタルマネーで給与を支払えるよう、厚生労働省が規制の見直しを進めており、2019年にも実現する見通し。それを踏まえてニチガス社員への給与支払いも視野に入れています。エネルギー料金の決済にpringを活用するなど、今後の大きな展開を見据えて出資いただきました」(荻原さん、以下同)

日本瓦斯(ニチガス)が一躍名を馳せるきっかけとなった出川哲朗さん、本田翼さん出演のテレビCM。メタップスグループと博報堂が仕掛けたキャンペーンだった。

提供:NICIGAS【ニチガス】

現在ニチガスと開発を進めている給与・報酬支払いシステムは、今後法人向けビジネスとしてパッケージ提供していく方針で、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を開放して企業側でカスタマイズしてもらう方式も検討しているという。

伊藤忠・ファミマグループの出資に注目

ファミリーマート ドンキホーテ

東京・立川のファミリーマート店舗。ユニー・ファミリーマートHDはドン・キホーテに2000億円以上を出資する(11月上旬に公開株式買い付けを実施予定)。

REUTERS/Sam Nussey

また、市場の注目度という意味では、伊藤忠・ファミマグループからの出資は大きなニュースだ。

ローソンではすでに、楽天ペイ、d払い、LINE Pay、さらにOrigami Payが使える。セブンイレブンはグループ独自の「セブンペイ」を2019年に導入する方針を打ち出している。ファミマもこの動きに追随し、12月から全国の店舗で、楽天ペイ、d払い、LINE Pay、さらにヤフー・ソフトバンクのPayPayが使えるようになる。

参考記事:セブンが“デジタルセブン”への変身を急ぐ理由——拡大路線爆走するファミマの一歩先へ

ユーザーにとってはどこでもどのサービスも使える環境が理想だが、現実にQRコード決済市場のプレーヤーにとって、コンビニは加盟店シェア争いの主戦場となっている。そんななかでファミマが出資という形でpringに興味を示したことは、市場の先行きを占う上で大きな意味を持っていると言えるだろう。

「伊藤忠商事は個人向け金融サービスを以前から強化したいと考えているようで、とりわけ送金・決済の分野には関心が高く、選択肢の一つとしてpringに注目してもらったのだと思います。ユニー・ファミリーマートからの出資も同じ流れにあり、これを機に来年以降ファミマ全店への導入を目指したい」

今回の資金調達により資本構成が変わり、pringはメタップスの連結子会社から持分法適用会社になる。今後、pring単体でのIPO(新規株式公開)を目指すという。

消費増税時の「ポイント還元」の影響は

pring アプリ

スマホ決済市場には、数多くのプレーヤーが進出。QRコード決済については現時点で楽天ペイが最も利用されているが、今後どのサービスがスタンダードになるのかはまだ見えない。

撮影:今村拓馬

次なる展開を期待させるpringの資金調達だが、市場関係者には「QRコード決済のシェア争いは1年もあれば勝ち組と負け組がはっきりする」と見る向きも多い。pringに勝算はあるのか。

「スマホ決済を使っている人は、肌感覚では日本人の数パーセントもいません。地方では特にそう感じる。50%の人に現金やクレカから乗り換えてもらうだけで少なくとも5年はかかるでしょう。今はとにかく市場を広げていく段階なので、呉越同舟が理にかなっている。来年の消費増税に際して、クレカやデジタルマネーなどのキャッシュレス決済を使えば2パーセントの還元を受けられる施策が検討されていますが、実現すれば大きな追い風になる」

とはいえ、市場拡大のプロセスでシェアを握られてしまっては、その後に存在感を発揮するのも難しくなるに違いない。

「僕らは決済市場のシェアにはあまりこだわっていません。スマホ決済はスイッチングコストが(アプリを入れるだけなど)ほぼゼロなので、よりお得なサービスが出てくればすぐにそれに乗り換えられてしまう。決済そのものではなく、スタンダードになる『お金の流れ』をつくり出したい」

pringで「銀行口座の復権」を目指す

pringはサービス開始当初からみずほ銀行とタッグを組み、福島や北九州でキャッシュレス決済促進のための実証実験を続けてきた。その後、メタップスのメーンバンクである三井住友銀行、りそな銀行グループ、地銀各行と接続先を増やしてきた。

pringが北九州市で福岡銀行、西日本シティ銀行、北九州銀行と共同実施中のキャッシュレス促進に向けた実証実験。

提供:pring

銀行口座からのチャージと出金が手数料無料でできるのはpringの大きな魅力であり、その意味で銀行との提携は最重要課題の一つだ。

楽天銀行、セブン銀行、住信SBIネット銀行などネット銀行との提携拡大に目下注力している模様だが、口座数を増やしたいネット銀行にとって間口の広がるサービスは基本歓迎と思われるので、さほどハードルは高くないだろう。

pring 操作方法

送金・決済とも、スマホ操作の容易さがpringの大きな魅力。「地方の実家にいるおばあちゃんに100円を送れてしまう、手数料ゼロの送金システムが、お金を通じた新たなコミュニケーションを可能にする」(荻原CEO)

出典:pring HPより編集部がキャプチャ

問題は地銀だ。得体の知れないサービスへの抵抗感を持つところも多い。地元での送金ニーズを奪われるのではないかとの疑念もあるだろう。商業規模が大きい九州で圧倒的なシェアを誇る福岡銀行、西日本シティ銀行、北九州銀行と9月に接続したが、横浜や北海道、仙台、京都といった大都市の地銀との接続は、ユーザー拡大に不可欠と思われる。

「地銀の担当者のなかには、pringを使われたら振込手数料収入が減る、といった懸念を持たれる人もいますが、本当の敵は現金やクレカなんです」

例えばガス料金なら、クレカ払いが5割で、コンビニなどでの払込票払いが2割。前者はガス会社がクレカ会社に手数料を支払い、後者では消費者が銀行口座からわざわざ現金を引き出して、コンビニへの手数料を加えて支払っている。pringを使えば、そうした手数料が必要なくなるのは事実だ。

「僕らは『銀行口座の復権』と呼んでいるのですが、pringは銀行の出先機関のようなもので、事業者と消費者がお金のやり取りをする時に起きる(無駄な手数料という)摩擦を最小限にすることができる。客が地元を離れて東京などに就労・転勤した時も、そのままpringを通じて送金や支払いができるので、休眠口座にならずに済む利点もある。この構図を理解してもらえれば、銀行との連携はもっと進むと思っています」

「お金の通り道にお金はかからない」を当たり前に

pring 荻原充彦 CEO

「お金コミュニケーションという当初からのコンセプトにこだわりたい」と話すpringの荻原CEO。大和総研、DeNA、メタップスのSPIKEで決済関連事業に深く関わり、その表と裏を知り尽くす。

撮影:今村拓馬

荻原さんは「お金の通り道にはお金がかかる」という固定観念を打ち崩したいと語る。

そうした考えを抱くようになったのは、テクノロジーの進化によって、一種のパラダイムシフトが起きたからだ。10年前、大和総研の社員として「大和ネクスト銀行」の設立に関与した荻原さんは、昨今の変化を誰よりも深く感じている

「当時、銀行を設立するだけでも100億円近いお金がかかりました。開業当初で約80人の人員コストに加え、全銀(全国銀行データ通信)システムに1取引あたり150円ほどの利用料を支払う必要もあった。そんな原価構造のもとでは、手数料をゼロにするのはさすがに無理でした。それが今や、安価なクラウドベースでシステム運用できるし、その分人員コストも減らせる。実際、pringは10人ほどで運営できています」

pring内での送金はデータの付け替えなので、コストは大してかからない。銀行口座からの出し戻しには本来手数料がかかるが、そこはpringが引き受けて「決済・送金データを活用した集客支援や広告枠の販売など、他のマネタイズ方法と組み合わせることでカバーできる」(荻原さん)。今年6月に発表した決済手数料「0.95%」はそうした原価構造の変化を反映したからこその数字だという。

楽天ペイやLINE Payは、決済プロセスでクレカ会社に手数料2.6%を払っている。そういう動かぬ原価があるからこそ、ユーザーに3.5%前後の決済手数料を課さないとビジネスにならないわけだ。

ただ、スマホの普及や人工知能(AI)の発達によって、より細かな個人の与信管理ができるようになってきたことで、クレカの手数料も今後は従来通りとはいかなくなるかもしれない。

「無駄な手数料はこれから間違いなく淘汰される。お金の通り道にお金はかからない、誰もがそのことに気づくはず。pringはその勢いを加速する装置でありたいと考えています」

(取材・文:川村力)

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