【現地レビュー】「新MacBook Air」は再び“定番”に返り咲けるか? ── 11月7日発売

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発表会でもアップルは「MacBook Airがいかに愛された存在か」をアピールした。新型はその評価を引き継ぐことはできるのだろうか。

MacBook Air(以下Air)を、今も使っている人は多い。薄型で軽く、価格的にもお手頃だったので、世界中、とりわけ日本では大ヒット商品になった。

だが、Airがここ数年「安価だが時代遅れに感じる製品」だったことは否めないだろう。デザイン的にも全体設計的も、「2010年代後半のトレンド」からは離れていたからだ。

アップルも、それをもちろん分かっていたはずだ。10月30日(現地時間)に発表され、発表会場で実機を触った新型は、「あのMacBook Airを現在のトレンドで作った」製品になっていたからだ。

新型MacBook Airが発売される11月7日に先立って、現地で触った印象を見直してみよう。

「Airの後継機種不在」で生まれた市場の“ねじれ”

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新MacBook Air(シルバーモデル)。11月7日発売。

アップルが新型Airで何を狙ったのかを理解するには、過去の旧型Airの何が評価されたのかを理解しておく必要がある。

ポイントはシンプルだ。「薄くて持ち運びしやすく、お手頃な製品」だったことだ。アルミボディの削り出しで薄く、性能は「超高性能」ではないけれど、一般的には十分。2008年に出た初代モデルは22万9800円と、決して安価な製品ではなかったが、その後モデルチェンジするにしたがって値段が下がっていった。

これまでで最も大きな変化は、2010年秋に、13インチと11インチの2モデルに変わったことだ。「デザインもコスパも良い」というイメージは、この頃から生まれたものといっていい。

一方で、アップルはここ数年、旧型Airからの脱却を狙っていた節がある。

2015年秋に発表された「MacBook」はインターフェースにUSB-C(Type-C)を採用した最初のMacであり、ゴールド・シルバー・スペースグレイの3色のバリエーションが用意されていた。そして何より、ディスプレイが高解像度な「Retinaディスプレイ」。MacBookがそのままAirを引き継ぎ、ベストセラーの地位に……となれば良かったのだが、そう簡単に話は進まなかった。

ディスプレイサイズが12インチと小さく、ファンレス設計で発熱を抑えるため性能は低めで、しかも安くはなかった。最廉価なモデルでも14万2800円で、「コスパが良い」という旧型Airの美点を引き継いでいなかった。1kg以下という重量にこだわる人以外には、あまり魅力的ではなかったのだ。

一方で、Macには上位モデルである「MacBook Pro」(以下、Pro)がある。こちらは性能は高く、ディスプレイは13.3インチのRetina、指紋認証機能「Touch ID」もある。旧型Airより価格は高いが、MacBookに満足できない人は、13インチのProを購入する……そんな「需要のねじれ」が恒常化していた。

新しい設計と、親しみのある「Air」デザイン

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新型MacBook Air(スペースグレイ)。

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新型MacBook Air(ゴールド)。

新型MacBook AirはどんなノートPCなのだろうか。ボディーは側面から見ると丸みを帯びたくさび形で、ディスプレイは13.3インチ。ボディー全体は旧型Airより横幅が約2cm、奥行きが約1.5cm小型化したが、使い勝手の面では大きな差はなさそうだ。この辺はまさに「MacBook Air」らしい感覚そのものだ。

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本体を側面から。奥が若干厚い「くさび形」は、従来のMacBook Airのデザインそのままだ。

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本体背面。若干丸みを帯びた底面は、昨今のMacに共通のモチーフ。

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本体右側。インターフェースはヘッドホン端子のみ。

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本体左側。電源を兼ねるThunderbolt 3端子が2つある。

一方で、カラーはゴールド・シルバー・スペースグレイの3色。インターフェイスは、USB-Cの上位版にあたり、互換性を持つThunderbolt 3が2つ。電源もこのコネクタを使う。イメージはMacBookに近い。

CPUとして採用されているのは、新型Air発表後にインテルが新たに公開したCPUの「第8世代Core i5 8210Y」。CPUに詳しくない人向けに説明すると、MacBookに使われている、低消費電力を軸にした「Core m系」と呼ばれる設計を発展させたものになる。

気になる処理速度はどうだろう。おそらく「速くはない」と推測はできる。

Proに搭載されているCPUと新型AirのCPUとでは、名前こそ同じ「Core i」だが、ベースとなるクロック周波数も異なるし、組み込まれたGPUの性能も違う。ではMacBook並みかというと、そうでもない。設計から考えて、おそらく、より速度が安定しているのではないか。

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サイズは旧モデルより一回り小さくなった。

MacBookはファンレス設計であるため、CPUに負荷がかかった際の発熱が課題だ。実際、初期モデルでは速度低下が不評だった。

現行モデルではある程度解決しているが、それでも、速度を求めてはいけない世界だ。

新型AirのCPUは、同じように低消費電力を重視したものだが、多少処理速度が上がり、その分消費電力も増えている。

具体的には、処理能力の一つの指針となる発熱量を示す「cTDP」という値が、MacBook向けのCPUでは「5W」だが、新型Air向けでは「7W」とわずかに上がった。そのためか、新型Airには空冷ファンが内蔵されている。

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発表会で示された内部構造。よく見ると左側に、ファンらしき丸いものがあるのが分かる。

この結果、全体のスピードはMacBookよりは速く、安定すると期待できる。おそらく旧型Airを支持していた、学生のレポート作成や社会人のビジネスワークなら、大きな問題にはならない水準だろう(とはいえ、Proと同等の性能を求めるべきではない)。

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新MacBook Airのスペックなど。古くなっていた設計を一新し、最新のノートPCらしい中身に一新されたが、「最高性能のPC」ではない。

キーボードやタッチパッドについても、最新のProと同じ世代の技術でつくられている。この点は歓迎すべきポイントだ。

2015年以降、ノート型Macのキーボードは、ストロークの薄さとタイピング音の大きさで、かなり好みが分かれている。ホコリが挟まって動作不良が起きやすい、とも言われている。だが、最新のProではキーの構造が変わり、特に打鍵音が小さくなった。新型Airではそれと同じものが使われているので、「現行のMacとしては最上級」といって差し支えない。もちろん、これが好みではない、という人もいるだろう。

また使い始めるまでは気づきにくいが、指紋認証機能「Touch ID」の存在は、やはり重要だ。体験したことがない人には「パスワード入力で十分では」と思われやすいのだが、慣れてしまうと「指紋で認証できないのが不便」と思える。

Proでは、Touch IDの導入とともにキーボード最上段のファンクションキーがタッチ式の「Touch Bar」に変わり、この点は現行世代のPro登場以来ずっと議論を呼んでいる。

新型Airの場合、Touch IDは採用されたものの、ファンクションキーは一般的なキーだ(Touch Barではない)。「ファンクションキー」にこだわる人は、むしろこちらの方がいいかもしれない。

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右上の電源ボタンが、指紋認証機能「Touch ID」に。だが、ファンクションキーは従来どおりの物理キーがそのまま残っている。

一方で、ディスプレイの美しさ・カラーマネジメントについては、新型AirはProに劣る。新型Airのディスプレイは、色域が「sRGB」であるのに対し、Proのディスプレイは、デジタルシネマ規格の「P3」に準拠し、より広く美しい。

外部の明かりの色や明るさを把握し、ディスプレイの表示を最適化する「TrueTone」という技術も、ProにはあるがAirにはない。フォトグラファーやデザイナーには、やはりAirよりProの方が向いている。

Airらしさとは「多くの人にちょうどよい」こと

MacBook Air

出典:アップル

これらのことを考えると、「MacBookかProか、それとも新型Airか」という問いの答えも見えてくる。

MacBookは明確に「1キログラム以下にこだわる人」向けの製品になった。性能面でも使い勝手でも、さらには価格でも新型Airの方が有利で、多くの人は新型Airを選ぶだろう。

ProはCPU性能とディスプレイ性能を求める人向けになった。高い性能と高画質なディスプレイが不要なら、新型Airはベストチョイスになり得る。

新型Airはコンセプトからしても、「非常に高いパフォーマンスの製品」ではない。けれども、みんなが日常的にヘビーな動画編集をしたり、Adobe Photoshopをヘビーに使いこなすわけではないのだから、「多くの人にとってちょうどいい」ノートPCであることは間違いない。

2011年以降の旧型Airが持っていた要素のうち、新型Airに欠けているのは学生から支持されたであろう「10万円以下のモデル」だけだ。この需要について、アップルは旧型Airをラインナップに残すことで対応している。

もしかするとアップルは、もう「安価な製品を最新技術でつくる」ことには興味がないのではないか。だとすると、「10万円以下は旧設計モデル」の時代は、意外と長く続くかもしれない。

(文、写真:西田宗千佳)


西田宗千佳:フリージャーナリスト。得意ジャンルはパソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主な著書に『ポケモンGOは終わらない』『ソニー復興の劇薬』『ネットフリックスの時代』『iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』など 。

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