「年収低いほうが家事育児やるべき」との夫の発言など、共働き家庭が増えても「家事育児は結局、女性が中心」と感じる妻たちの声を取り上げたところ、共感の一方で「男性側の言い分も聞いてほしい」との声が相次いだ。
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女性に比べて男性は「家庭優先」が、職場で通りにくい。その実態とは。20〜40代の男性3人のケースを取材した。
10歳の娘が深夜に東京駅で補導
現代において、仕事と家庭をこなすことは、女性だけの問題ではない。
撮影:今村拓馬
「こちらは丸の内警察ですが。◎さんのお父さんですか」
東京都内在住の会社員、大輔さん(仮名、40代)は、夜中に携帯が鳴っているのに気が付き、目を覚ました。電話に出ると、相手は警察。
驚いたことに、小学校4年生の娘(10)が、深夜に東京駅を一人で歩いていところを補導されたという。いつの間にか、娘の部屋は空だった。
大輔さんは5年前に妻をがんで亡くし、一人で仕事、子育て、家事をこなしている。勤め先は中堅メーカーの営業職。子育てを理由に、夜間の業務時間を制限する制度を使ってはいたが、仕事終わりが午後8時や9時になることは、珍しいことではない。娘は一人で夕食を食べ、留守番をする毎日だ。
大輔さんは帰宅後も、宿題をみたり洗濯や片付けをしたりと働きづめだ。朝は夕食分まで作ってから仕事に出かける。
「娘の話をゆっくり聞くことがなくなっていた」(大輔さん)
妻が亡くなった時に4歳だった娘も難しい年頃に。夏休み明けの9月から学校に行くのを嫌がり、不登校が始まった。頭を悩ませつつも仕事を続けていたさなかの、警察からの電話だった。
ただ、大輔さんも必死だった。
残業しない男性も「半人前」扱い
男性が職場で「家事育児」を理由に、仕事を切り上げたり制限したりすることは、女性のそれより難しいという(写真はイメージです)。
撮影:今村拓馬
残業がデフォルトの社内で、残業制限をする自分は「半人前扱い」と感じている。とくに中間管理職からの風当たりは強く、「こんなこともできないのか」と、あからさまになじられることも。
子育てと仕事をどうこなしているか。同僚に聞きたくても、ママ社員のネットワークには「正直、入りづらい」。経済的に困窮しているわけではなく、行政による「シングル家庭への補助」の対象も外れ、情報も少ないと感じる。
現在、大輔さんは2カ月間の休業中だ。スクールカウンセラーを通じて、娘の不登校の背景にいじめがあったことを知り、「一緒に過ごす時間を増やそう」と決めた。大輔さんが小学校まで送迎することで、娘は現在、なんとか学校には行けるようになっている。
ただ、休業期間もやがては終わる。娘との時間を増やしながら、仕事をどう続けていくのか、先はまだよく見えない。大輔さんは言う。
「女性社員が育児を理由にすることは理解されても、男性の私が育児や家事を理由に仕事を制限する必要性は、男性の中間管理職には想像できないようです」
2拠点生活で家族専用の日をつくる
週の半分はお互い「仕事に没頭する日」をつくった(写真はイメージです)。
撮影:今村拓馬
「火、水、木は自宅に帰りません。うちは週半分は別居する、2拠点生活なんです」
都内のベンチャー企業勤務の祐二さん(仮名、40)は毎週、金曜と月曜は、遅くとも午後5時には会社を出て、神奈川県内の自宅に向かう。1時間かけて帰宅すると、車を出し、放課後は私立の学童に通う小学校1年生の娘と、幼稚園年少組の息子を迎えに行く。
土曜はピアノ、英語、運動教室といった子どもの習い事をはしごし、「マネージャーみたいな気分」。日曜も料理、掃除、洗濯と家事をこなし、子どもと遊び、家族との時間にほぼ100%充てている。
ただし、それ以外の火曜から木曜は「心置きなく仕事をする日」だ。残業もすれば、取引先や同僚、友達と飲みにも行く。帰る先は、離婚して一人暮らしをする知人の、東京湾を臨む3LDKのマンション。一部屋を月5万円で借りる「ルームシェア生活」だ。
同い年の妻は大手マスコミ勤務で、仕事は多忙だ。祐二さんの担当の、金、土、日、月は「妻が思い切り仕事をする日」だ。週中分の仕事をここで片付け、大詰めでなければ早めに帰って家族で食事もできる。
分担はっきりさせ「期待値コントロール」
「このかたちに行き着くまでに、本当にいろいろありました」
祐二さんは振り返る。祐二さんは昨年、現在の会社に転職したばかり。当時は都内に居を構え、残業も厭わず働いた。未就学児2人を抱えながら忙しい職場で働く妻とは、何時までに帰れるか、子どもの病気でどちらが休むか。いつもお互い、キリキリしていた。
週半分は別居婚に行き着くまで「本当にいろいろありました」と話す、男性。
撮影:滝川麻衣子
「早く帰ると連絡していたのに、会議が入ったりすると、先に帰って子どもをみている妻は本当にキレていました。期待するあまり、がっかりする落差が大きいので」(祐二さん)
そもそも、妻の方が数百万円単位で、年収が高い。
「うちはあの記事とは(男女の立場が)逆で。私の方が稼いでいるのに、どうして私の方が家事も育児もやっているの?と、よく言われました」
お互い日々の生活に追われ、ストレスがたまった状態でケンカになると、とどまるところがない。
「あなたは(家事育児を)やっているとはいえない」「いや、やっている」の水掛け論の末、離婚の二文字が飛び交うことも。かっとするあまり、「家を飛び出して、朝まで公園で過ごしたこともありましたね」(祐二さん)。
今の「2拠点生活」を始めたのはこの4月、上の子の小学校進学がきっかけだった。体制を整えようと、妻の実家の近くに引っ越し、1週間を半分に区切った。「家事育児の日をはっきりと分担することで、相手への無駄な期待がなくなりました。これが、うちの期待値コントロールです」。
夫婦だからこそ、相手に期待しがちだが、期待するからこそアテが外れると、裏切られたように感じる。衝突の原因を突き止め、打開策を打ち出した結果が、今の生活だ。
勤務先はベンチャーということもあって、定時になるとさっと帰る人は珍しくない。パフォーマンスが落ちていなければ、そのあたりの自由度が高いのも、今の生活にはありがたい。
仕事の手を休め夜泣き対応
昼間、子どもに会えない分「夜泣きで起きてくれるのが嬉しい」という(写真はイメージです)。
ハードワーカーでも「家事や育児参加は苦痛じゃない」と感じる20代もいる。
名刺管理サービスのSansanのPRマネージャー、小池亮介さん(29)は、妻(27)が育児休業中で、10カ月の長男がいる。
小池さんの日常は、午後6時半には青山の会社を出て、都内の自宅に帰宅。長男をお風呂に入れたり妻と食事をしたり、家族との時間を過ごした後、自宅で仕事を再開する。
「だいたい午後10時くらいから就寝までは、仕事の時間に充てています」。一日家事育児をしていた妻は、子どもと一緒に9時頃には就寝。そこからが育児においても小池さんの「出番」だ。
0歳児の長男はだいたい、3時間ごとに目を覚ましては夜泣きする。いつものように午前零時過ぎに泣き出すと、小池さんは仕事の手を休めて息子を抱き上げ、あやしながら寝かし付けをする。
「奥さんを少しでも眠らせてあげたいですし、息子と触れ合える時間でもあります。抱っこしながら、お前、かわいいなあと話しかけていますね」
次のタイミングで息子が目覚める朝方には妻が授乳し、再び休んでいる間、小池さんは朝の仕度をしながら、出勤まで息子をみる。
自分をモチベートすればストレスにならない
自宅で仕事中に子どもをみるのも、帰宅後に家や片付けるのも、苦ではない理由とは(写真はイメージです)。
Gettyimages/kohei_hara
急成長中のベンチャーで、仕事量は少なくない。「仕事対家の比重は、7対3くらいです」。週に1〜2回は会食も入るし、繁忙期には、連日帰宅が遅くなることも。そんな日も、帰ってから洗濯物を畳んだり、部屋を片付けたり、キッチンを掃除したりと家事もする。
ハードワークに家事育児の日常だが、小池さんはこう言う。
「やらされている感はまったくない。子どもはかわいいし、部屋やキッチンがきれいな方が、自分も気分がいい。奥さんは日中、子どもをみるだけで十分、大仕事。夜泣きで寝不足だと本当に辛そうですし、眠れるときにしっかり眠ってもらった方が、家庭も安泰です」
家事育児の分担で、夫婦がもめがちな話は見聞きするが「僕は自分をモチベートするのが得意かもしれません。世の中でいう『〜しなければならない』という外圧で何かするのは辛いけれど、家事も育児も、自分がやりたくてやっているので、ストレスではない。楽しく捉えたら、自然と動けます」
もちろんこの先、妻が仕事に復帰すれば、大変な時期もくるかもしれない。それでも今は、仕事に疲れて帰ってきたところに、息子が夜泣きを始めると、昼間会えない分、こう思う。
「起きてくれて、ありがとう」
(文・滝川麻衣子、写真・今村拓馬)