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- アメリカの国際NGO「フリーダム・ハウス(Freedom House)」は、中国が諸外国や外国人ジャーナリスト向けにセミナーを開催して、いかにオンライン上の言論を取り締まり、中国の経済政策についてポジティブに書かせるか、教えていると報告した。
- このセミナーには、習近平国家主席の愛国心に対する考えを学ぶコースや、中国のネガティブな世論を監視している企業ツアーなどが含まれる。
- その多くは、中国の「一帯一路」構想の一環として行われている。
- これらのセミナーは、一部の国にとっては有用なようだ。セミナーに出席した後、オンライン上の言論を取り締まる規制を作った国もある。
- 中国は長きに渡って、言論の自由を規制してきた。
- 世界中で投資を進めるため、中国は同盟国に対してそのソフトパワーを行使してきた。
フリーダム・ハウスの最新レポートによると、中国は諸外国や外国人ジャーナリスト向けにセミナーを開催して、いかにオンライン上の言論を取り締まり、政府についてポジティブなニュースを書かせるか、教えている。
特定の国や地域に合わせて組まれたと思われるこのプログラムには、「社会主義ジャーナリズムと中国の特性」といったコースや、「中国の夢」に関するクラスが含まれていると、フリーダム・ハウスは報告している。
これら2つのスローガンは、習近平国家主席の下で広く知られるようになったもので、中国共産党に逆らわない限りは愛国心とイノベーションを認めるという、習主席の考えを表している。
プログラムは、中国が2013年に提唱した、中国とアジア、ヨーロッパ、アフリカの70カ国以上を結ぼうとする巨大プロジェクト「一帯一路」構想の関係国向けに作られたようだ。
この構想は習主席肝いりのプロジェクトの1つで、戦略国際問題研究所(CSIS)によると、中国政府は2013年以来、1兆~8兆ドル(約113~906兆円)を投資してきた。一帯一路の複数のパートナー国が、中国のインフラ事業のローンが返済できず、数十億ドル規模の債務を抱えている。
人工知能がいかに人間の行動分析に使われているかを見る、北京の男性。
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フリーダム・ハウスの報告による、この1年で中国が開催したセミナーの一部は以下のとおり。
- 2017年11月:一帯一路の関係国職員向け、サイバースペース・マネジメントに関する2週間のセミナー。ビッグデータを用いてネガティブな世論を監視し、「ポジティブな力を持った世論誘導システム」を作った企業を視察(報告書では企業名は明かされていない)。
- 2018年5月:フィリンピンから著名ジャーナリストとメディア関係者が参加、2週間をかけて「ニューメディアの発展」について学ぶ(実際これがどういう意味なのかは分からない)。
- タイのメディア関係者向けに行われた、「中国の夢」や、ニュースメディアが中国の経済発展を含め、国内・海外ニュースをいかに報道できるかの講義(開催時期は不明)。
- エジプト、ヨルダン、レバノン、リビア、モロッコ、サウジアラビア、アラブ首長国連邦の代表が3週間の「アラブ諸国のメディア幹部向けセミナー」に出席(開催時期は不明)。
これらのセミナーが実際どのように行われているか、詳細はよく分かっていない。だが、2017年8月、一帯一路の関係国の43人を対象に中国商務部が開催した「国際協力の促進に関するセミナー」の様子は写真が公表されていて、中国政府の講義を聴いた出席者が最後に「修了証書」を受け取っていた。
ソフトパワーを行使する中国
「一帯一路」構想下のプロジェクトをまとめた地図(2017年3月現在)。
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これらのセミナーは有用なようだ。
2017年4月に中国のメディア・マネジメントのセミナーに担当者が出席した後、ベトナムではグーグル(Google)やフェイスブック(Facebook)といった国際的なテック企業に対し、ベトナムのユーザーに関する個人情報はベトナム国内で保存することを義務付けるサイバーセキュリティ法が導入された。
ウガンダやタンザニアも中国のセミナーに参加した後、同様の法律を導入していると、フリーダム・ハウスは指摘する。
これは中国の既存のサイバーセキュリティ法を真似したもので、同法はテック企業に国内で収集した個人データ及び金融データは国内で保存するよう義務付けている。
中国当局は以前、国内のテック企業に対し、ユーザーのデータとプライベートな会話の内容を渡すよう求めていた。
2018年に入って、中国公安部は警察が中国のSNSアプリ「微信(WeChat)」のプライベートな会話を入手し、訴訟で使うことができると発表した。
習近平国家主席(北京、2017年6月)。
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中国政府は繰り返し、そのソフトパワーの強さを証明してきた。その多くは、中国が世界に誇る莫大な経済力からくるものだ。
台湾もまた、中国がその経済連携を使って諸外国に台湾との外交関係を絶つよう圧力をかけていると主張している。中国政府は、台湾は中国の一部だと強調する一方、台湾は自らを独立国家と認識している。
オーストラリアの元外務大臣、ジュリー・ビショップ(Julie Bishop)氏も11月初め、オーストラリアが台湾と貿易協定を結ばなかったのは、中国の王毅外相に結ぶなと言われたからだと明かした。中国はオーストラリアにとって最大の貿易相手国で、最大の輸出先であり輸入元だ。
中国もまた、自国内でオンライン上の言論を取り締まっている。以前は、体制に反対する投稿を検閲し、そうした発言をする人物を強制的に失踪させることで、言論の自由を規制してきた。
また、中国は国民の行動を社会信用(ソーシャル・クレジット)システムで格付けし、個人のスコアに応じて賞罰を与えている。
(翻訳、編集:山口佳美)