「投票に行こう!」
2018年11月6日投開票のアメリカ中間選挙は、「前代未聞」の盛り上がりをみせている。
メディアだけでなく、ハリウッド俳優、ミュージシャン、高校生が「投票に行こう!」と声高に呼びかける。SNSやUberなどの配車アプリ、デートアプリまでが、ユーザーに投票を促すサービスを始めた。
トランプ大統領も激戦区を中心に共和党候補への応援演説行脚を続けた。
REUTERS/Carlos Barria
通常は大統領選挙よりも注目度が低いが、トランプ大統領が再選を狙う2020年大統領選挙を占う選挙として、熱気を帯びている。
中間選挙の焦点は通常、州知事選と上下院議員選挙。このほかにも州議会議員や保安官などの選挙もあるが、「ローカル」な選挙だとして投票率も低く、メディアの注目度も大統領選よりかなり下だ。
しかし、今回は異なる。トランプ大統領の誕生を2年前に許してしまった民主党・リベラル派にとっては「リベンジ選挙」。過去最多の候補者を出し、2020年大統領選挙に向けて政権奪回の道筋「ブルー・ウェーブ(青は民主党の色)」を引き起こそうと必死だ。
トランプ大統領と共和党も政権維持をかけて反発する。民主党のトランプ政権批判や、カバノー最高裁判事の承認プロセスでセクハラスキャンダルなどが浮上したことなどを「民主党の魔女狩り」と批判。
トランプ氏は移民が市民生活を脅かすとしたり、民主党関係者を狙った爆弾輸送事件も「リベラルの陰謀かもしれない」と恐怖感を煽って、支持者が棄権するのを止めようと躍起だ。
ディカプリオもブラッド・ピットも
ジョージア州では期日前投票のための待ち時間にピザが配られた。
Getty Images/Jessica McGowan
「この中間選挙は、僕らの一生で最も重大なものになるかもしれない」と呼びかけるのは、俳優のレオナルド・ディカプリオとブラッド・ピット。11月2日、SNS向けのビデオニュース「Now This」に登場した。
「いろんなことが危機に瀕している。銃規制法、移民政策、きれいな水や空気、そして何百万人もの人が健康保険を得られるのかどうかも」(ディカプリオ)
「州議会もいろんなことを決めていくだろう。気候変動、刑法改革、教育費、LGBTQの平等、そして君達が投票する権利にさえ関わってくる」(ピット)
大統領選挙ではハリウッド俳優が資金集めのパーティをしたり、主に民主党候補の集会に顔を出したりするのは普通だが、中間選挙では異例だ。
「Now This」はリベラル系メディアで、Facebookで激戦区の候補者に焦点を当てたビデオを配信、ニュースはビデオで見る傾向が強い若者のフォロワーを集めている。
「我々の時代で、最も重要な選挙が迫っています。真の変化を起こそうとしている候補者を紹介しましょう」として、「13カ国語を駆使して選挙戦を進めるテキサス州の候補」「大手企業からの資金提供を断り、小口献金だけで選挙戦を続ける候補」など、大手メディアが報道しない民主党系候補者のビデオを数十本アップしている。中には、オバマ前大統領のメッセージビデオも含まれる。
候補者陣営は普段は投票に行かないとされる若者、特にミレニアルの票の掘り起こしに躍起だ。環境問題に敏感なミレニアルは、パリ協定を反故にしたトランプ政権ではなく、民主党を支持するとみられ、民主党の勝利はミレニアルにかかっている。
Facebookもティンダーも
その影響力を意識して、「投票に行こう」と異例の呼びかけをしているのが、SNSやアプリ各社だ。 Facebookには、毎日のようにニュースフィードに「候補者を知ろう」という表示が出てくる。クリックすると、自分が住んでいる地域の上下院議員、州知事、州司法長官などの共和・民主党候補がランダムに表示され、各陣営が作ったビデオを見ることができる。公約を比較してから投票に行かせるためだ。
投票日の前日の11月5日、Facebookは、「投票に行くプランを立てよう」と表示。自分の住所を入れると、最寄りの投票所の住所を「備忘録(リマインダー)」アプリに自動的に入力する仕組みだ。
スナップチャットは、ユーザーのプロフィールに有権者登録をしたかどうかを表示し、チームがチャットやビデオで投票を促すメッセージを送っている。
デートアプリ「バンブル」は、「私は有権者です(=投票に行きます)」というマークを作り、ユーザーがプロフィールに貼り付けることができるようにした。同じ政党を支持する人が出会うきっかけにもなるという。
同じくデートアプリの「ティンダー」もユーザーの地元候補者を表示し、誰に投票するのか決めさせて、プロフィールに表示する。
USAトゥデーによると、スナップチャットのユーザー1億人のうち、80%が18歳以上の有権者。「ティンダー」も月間ユーザーの85%が18〜34歳で、まさに政党や候補者が獲得したい世代だ。
また、配車アプリ「Uber」は全米で、ユーザーが投票所に行くのに利用した際、10ドルを値引きすると発表した。アプリ内で「投票所を探す」というボタンを押せば、自動的に料金から値引きされる。さらにUberは#VoteTogetherなど投票促進団体と提携し、一定のコミュニティでは、高齢者の投票などを支援するため、無料で投票所に送り届ける。
10億円集めた高校生のキャラバン
8月にニューヨークを訪れたフロリダ州の高校生の集会。
撮影:Yuna Komiyama
投票できる18歳前後の高校生や高校の卒業生も、選挙戦で奔走している。2018年2月、フロリダ州のマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校で17人が死亡した銃撃事件がきっかけだ。生き残った高校生や卒業生は夏休みの間、70もの集会を全米で開いた。
投開票日直前は、「Road to Change(変革への道)」と題したバスツアーを展開し、ワシントンでは10月末、2日間にわたる「学生と銃による暴力のサミット」を開いた。集会では、18歳以上の参加者に有権者登録をするように書類を配ったり、銃規制に賛成する候補者に投票するように訴え続けている。
米メディアによると、高校生らは2018年6月までに3万6000人以上の市民やセレブから880万ドル(約9億8560万円)の資金を集め、バスツアーや集会の活動と犠牲者家族の支援に当てた。
こうした各方面からの呼びかけで、投票率が底上げされるのは確実だ。実際に、事前投票した人の数も11月3日現在、2014年中間選挙の2830万人を大きく上回る3060万人に上った。州によっては、2014年の2倍、あるいは2016年大統領選挙の水準に迫るところもある。
今回、トランプ大統領が新たな票を掘り起こした2016年大統領選挙にどれだけ迫るのか、ミレニアルが本当に投票に行くのか。新たな票が共和・民主どちらにつくのかが注目される。
(文・津山恵子)