タクシー乗ったら「本がなくても読書できます」って、どういうこと?

タクシーの中で、本を持たずに本を読む──。そんな画期的な読書体験を提供する取り組みが、オーディオブックの制作・配信を行うオトバンクと日本交通によって始まった。活字離れが進む日本で、起死回生の一手になるか。

タクシーをシアターに代える「オーディオブック」

タクシー

記者会見にて。オトバンク社長・久保田裕也さん(写真中央)、日本交通メディア開発部・金高恩さん(右)。

撮影:竹下郁子

プロジェクト名は「本のない図書館タクシー」。10月26日、特別なラッピングが施されたタクシーに乗車してみた。

仕組みはいたってシンプルだ。車内に用意されたタブレットから読みたい本を選んで聞く、ただそれだけ。

今回オトバンクが用意したのは、都市部を走るタクシーの平均乗車時間だという18分に合わせて、短く編集したりハイライトを抜き出した30冊。『捨てる力』(羽生善治)、『スタンフォード式最高の睡眠』(西野精治)『美女と呼ばないで』(林真理子)など幅広いニーズに対応している。

オーディオブック

車内に用意されたタブレットから読みたい本を選ぶ。続きが気になる場合はアプリをDLすれば1カ月無料で聴き放題。

撮影:竹下郁子

今回、選んだ作品は川村元気さんの著書『億男』。

午後1時過ぎの東京都・恵比寿。木漏れ日が差し込むあたたかいシートに身を沈め、ナレーターを務める人気声優・小野大輔さんの声に耳を集中させて目を閉じると、まるでシアターの中心にいるような錯覚に陥った。欲を言えば、タブレットから音を聞くのではなく、車内にスピーカーを装備してくれたら……。

オトバンク社長の久保田裕也さんは、今回のプロジェクトの目的をこう話す。

「私たちの調査で、車の移動中に本を読もうとしても、酔うなどの理由で諦めた人がなんと約半数もいることが分かりました。一方で、私たちのユーザーの約6割が移動中にオーディオブックを利用しています。これは新たなユーザーを開拓するチャンスだと」

キャンペーンは11月11日までで、対象のタクシーは3台。運行エリアは東京23区、武蔵野市、三鷹市。専用ウェブサイトから予約すると1日2枠限定でタクシー運賃などが無料になる(ただし10km以内の利用限定)。

活字離れの若者も楽しめるオリジナルコンテンツを

オーディブル

オトバンクの調査では「読書時間・量を増やしたい」と感じている人は6割以上。

shutterstock/Sirikan Aka

オトバンクは500社以上の出版社と提携し、国内最大規模の約2万5000本のコンテンツを配信している。会員数は50万人を突破。久保田さんによると、2017年の同時期に比べて3倍のペースでユーザーが増えており、2019年春には100万人を突破する見込みだそうだ。

成長の背景には、コンテンツを1冊ずつ購入できる仕組みに加え、新たに月額750円で聴き放題になる定額制のサブスクリプションモデルを取り入れたことがある。

「世界的に年間30%のペースで成長している」(久保田さん)と言われるオーディオブック市場。当然、アマゾンもこの領域では拡大のアクセルを踏み込んでいる。

参考記事:アマゾン傘下Audibleの日本語作品が大幅増 ── 聴いて読書「ボイスブック」市場が加速

オトバンクの売れ筋はビジネス書。今後の課題はビジネスパーソン以外の層にどうリーチしていくかだ。

特に懸念されるのが若い世代の活字離れだ。全国大学生活協同組合連合会が2017年に行った調査によると、1日の読書時間がゼロの大学生は過半数の53.1%にものぼる。

「今後は読書習慣のない人たちにも楽しんでもらえるようなオリジナルコンテンツ制作に力を入れたいです。尺は15〜30分くらいと短くても、シリーズもので内容はしっかりしている、というのが理想です。出版やテレビなどオールドメディアの若い人たちと組んで、新しい読書のかたちを模索していきたいと思っています」(久保田さん)

(文・竹下郁子)

編集部より:初出時、「ユーザーの約6割が移動中にオーディブルを利用しています」「『世界的に年間30%のペースで成長している』(久保田さん)と言われるオーディブル市場」としておりましたが、正しくは「オーディオブック」です。お詫びして訂正致します。 2018年11月8日 13:00

ソーシャルメディアでも最新のビジネス情報をいち早く配信中