オッサン社会を生き抜くには「逃げる勇気と負ける技術を」山口周×北野唯我【前編】

北野唯我さん(左)と、山口周さん。

北野唯我さん(左)と、山口周さん。

撮影:西山里緒

2018年を振り返ると、官僚や大企業、スポーツ界に至るまで、様々な不祥事が世間を騒がせた。こうした不祥事の背景にあるのは「オッサン」がはびこる社会構造なのではないか。そう指摘するのは、話題の本『劣化するオッサン社会の処方箋』の著者、山口周さんだ。

「オッサン」とは年齢ではなく、古い価値観に凝り固まり、新しい価値観を受け入れられない人たちを指す。企業をはじめ、さまざまな組織に蔓延する「オッサン」たちの中でミレニアル世代が生き抜くためにはどうしたらいいのか。 山口さんに、ミレニアル世代を代表してベストセラー『転職の思考法』著者、北野唯我さんが聞いた。

前編では北野さんが山口さんに聞きたかった5つの質問から。

Q1 なぜ『劣化するオッサン社会の処方箋』を書こうと思ったのか?山口さんが出会った「ダメなオッサン」とは?

『劣化するオッサン社会の処方箋』

2018年9月に発売された山口さんの著書。発売後すぐ増刷に。

北野唯我さん(以下、北野):まず「オッサン」の定義を改めて教えてください。

山口周さん(以下、山口):「オッサン」はもちろん「おじさん」のスラングなんですけど、男性だけでもないし、「おじさん」という年代を指しているわけでもなくて。まあ、主に50代、60代の人が陥る状態で、僕は「祟り神」って呼んでいるんですけどね(笑)。

もう死んでるんだけど生きているみたいな。偽善的で理想もなく受け身でダラダラ生きているくせに、若い人が理想を持とうとすると潰しにかかるような人たち、というイメージでしょうか。

北野:そう定義をした時に、「そんなオッサンは放っておいてもいいじゃん」「俺、そんなオッサンじゃないし」という大人が多そうな中で、山口さんがこの本を書かれた根源的な背景とは?

山口:直接的なトリガーは、ここ1年くらい続いている、あまりにも幼稚なふるまいをする大人たちに対して、というところです。個人的に根深くて嫌だなと思ったのは、教育委員会。ここ3年くらい立て続けに起きているんですけども、パターンは一緒。

いじめがあった時、多くの場合、自殺が起きて調査が入るんだけども「いじめはありませんでした」という結果を出して終わりにしようとする。

でも、後から(いじめの)証拠が出てきたり。そういう大人たちの情けなさを2、3年くらいずっと感じていて、そこに日大アメフト部の件やボクシング協会、セクハラの問題がボコボコと出てきた時に、編集者と飲みながらそんな話をしていたら「それ、書きましょう」ってなったんです。

北野:山口さんご自身がぶつかったことがある「駄目なオッサン」というのは具体的な事例があるんでしょうか?

山口:僕は「オッサン」とか「美意識」とか「イノベーション」とかいろんな話の本を書いていますけど、切り口やコンセプトを変えているだけで、実は基本的には全部同じことを言っているんです。

横断歩道

「若い人が束縛とか枠組みとかに縛られて自分らしさを発揮できない社会はおかしい」(山口さん)

撮影:今村拓馬

それは、若い人が束縛とか枠組みとかに縛られて自分らしさを発揮できない社会はおかしいということ。若い人にはもっと自分らしさを全開にしてわがままになってほしいし、年長者に対してはそれを受け入れるサーバントの役割をしてほしいと思っています。

最初に本を書こうと思ったきっかけは、小中学校時代にまでさかのぼるかもしれません。僕は学校の先生から無茶苦茶いじめられてきたんです。ポジションを笠に着て偉そうにする人って嫌いなんですよ。

フラットでフリーダムな価値観の家庭環境で、僕自身もリベラルな人間だったので、理不尽な校則や単なるいじめとしか思えないようなルールを課して権力を振りかざす教師に対して、公然と反論してたんです。

弁が立ち、いつも論破していたからものすごく嫌われていて、最後は内申書書いてやらないって脅されたくらい。そんな感じで人生、ずーっときています。

学校の教室

山口さんがこの本を書こうと思ったのは、学校時代の経験に遡るという。

shutterstock

北野:最近、僕は日常の人間関係の衝突ってほとんど“HOW”で起きているんじゃないかと思っているんです。わかりやすい例が、先輩が「俺たちの時代はこうやっていたんだから、お前たちもこうやれよ」と言ってくること。

意外と、“WHY”とか“WHAT”でぶつかっていることってそんなになくて、上の人が自分たちがやってきた“HOW”しか認めないっていう構造が95%くらいなんじゃないかなと。逆に変化できる大人って、“HOW”の部分をちゃんと変えている。

Q2 「人が変化するための条件」とは?

北野:基本的に人間って今のままでいたいという、慣性の法則みたいなものが働くと思うんです。人が変化するための条件って何だと思いますか?

山口:やっぱり所属するコミュニティが変わるのは結構大きいかなと思います。ある種のモノサシが変わる。情報処理のシステムなんですよ、人間って。情報システムの変化って、入力に対して出力が変わるということで、情報処理の仕方が変わるということは、一つには効果関数が変わるということなんですね。

北野:効果関数?

山口:要するにモノサシが変わる。もう少し具体的に言うと、「住む場所を変える」「仕事を変える」「時間配分を変える」。そうやって入出力の法則を変えると人は変化するんです。 さっき北野さんが言っていた話だと、やっぱり“WHY”とか“WHAT”をどれだけ意識できるかどうかで変わってくる。

人ってあまり変わらないと言われていて、変わるのは「大病を患った時」「服役した時」って言われているんですね。その理由は、意識が“HOW”から“WHY”や“WHAT”に変わるからなんです。効果関数が変わるのと似ていて、人生の目的である“WHAT”や、なぜそれが大事なのかっていう“WHY”がクリアになると、どう生きるかの“HOW”も変わっていくんだと思うんですよね。

Q3 子育てや部下の育成で心がけていることは?

北野唯我さん

北野さんは、2019年1月に新刊『天才を殺す凡人』を発売予定。

撮影:西山里緒

北野:これは僕が2019年1月に出す本『天才を殺す凡人』のテーマでもあるんです。今回の山口さんの本にも「一流」「二流」「三流」とありますが、ふだん子育てや部下の育成で心がけていることは?

山口:やっぱり信じることじゃないかなと思いますね。才能を見抜くことって不可能なので。文脈依存性もあるので。見極められない以上、何かこの人には自分には見えていない才能がきっとあると信じることですね。

北野:文脈依存性というのは、ある文脈だとこの人はめちゃくちゃ才能があるけど、別の文脈だと微妙だなというようなことがみんなにある、ということですか?

山口:1つは、そういう置き場所と自分がフィットするということ。あと、そもそも能力って静的なものじゃないと思うんですよ。動的だと思っていて。みなさん、「オネアミスの翼」って映画を見たことある人?

北野:(会場を見回して)いないですね。

憂鬱

本質的にダメな人も、置き場所によってはすごい人に変わる?

TZIDO SUN /Shutterstock

山口:エヴァンゲリオンを作ったガイナックスの第1作目なんですけどね。あと、わかりやすい例で言ったら、新約聖書。「オネアミスの翼」もそうなんですけど、どちらも本質的にダメな人がすごい人に変わるという話なんです。

新約聖書でいったら、イエスが生きている時の弟子たちは「イエスの次に偉いのは誰か」ということを口論しているような相当残念な集団。でも、ダメな集団がイエスの死後、炎のような強さを持つ伝道師に一瞬で変わるわけです。生きている意味を持つと人って変われるんですね。さっきの話でいうと、“WHAT”がクリアになると豹変するわけです。

何を言っているのかというと、人の能力を静的にアセスメントすることを欧米でも日本の企業でもやっているけれども、ただ意味を与えてあげるとトレーニングとかしなくても能力はバーンと変わっちゃうものだということ。 なので、文脈依存っていうのは、タスクと個人のパーソナリティーとのフィット、個人としてのリミットとアジェンダの与え方のフィットの2つの意味があります。

Q4 「一流」の人から学べることは?

北野:「一流」の人って良質な問いにしか興味ないなと思っていて、僕はいわゆる「一流」と呼ばれる人たちと対面する時には、そういう問いを投げ続けることが重要だと考えているのですが、山口さんはどうお考えですか?

山口:「問いを立てる」というのは、僕も最近思うところですね。

組織の中で問いを立てる人とその答えを出す人っていうと、基本はやっぱりトップが問いを出して、ミドル層以下がそれを解くというのが理想だと思うんですけども、面白いのが評価される人って「解ける人」なんですよね。

ミドル層で優秀な人って、プロブレム・ソルビング(問題解決)に長けた人。問いを立てるのとプロブレム・ソルビングって全然脳の使い方が違うんですよ。だから、そこからトップになる人って問題解決はめちゃくちゃできるんだけども、問いを立てることができない。

現実にいま、企業ってそうなっているんです。上から下まで問題を解く人たちばかりで、足りないのは問題という状態。僕は今後のイノベーションは問いから生まれると思っているので、一流の人がどういう角度で問いを立てているのかは、着眼点として非常に良いと思います。

会議の様子

今の職場は「問題を解く人ばかり」。足りないのは問いを立てる人だ。

shutterstock

北野:良質な問いを立てるためにできることって何なんでしょう?

山口:問題をそもそもどう作るのかってことだけど、問題解決学では「問題」の定義というのは現状とありたい姿とのギャップなので、重要なのはありたい姿を描くということ。ありたい姿を規定するには、結局どういう世の中を作りたいのかということなので、そういう社会ビジョンが持てないと問題意識も持てないと思います。

Q5 オッサンにならないために20、30代でやっておくべきことは?

北野:最後に「オッサン」的な人間にならないために20代・30代でやっておくべきことは何だと思われますか?

山口:いまとてもいい世の中になっているなと思うのは、多様性があるところ。いろいろな「島」で生きられるようになっていると思います。その島のトップ5%と言わずとも、トップ20%くらいに入っていれば十分その島で活躍できる。「島」というか、僕は「交差点」と言っているんですけど、自分の得意な「交差点」を見つけるのが大事かなと思います。

僕の場合は、人文科学とビジネスの交差点。掛け合わせたところにある種の交差するものがあると、すごくユニークになるんです。20代から30代にかけて自分って何が得意で、どういうことをやっている時が楽しいのかをすごく考えました。

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山口さんが25歳の自分にアドバイスするとしたら「あまり思いつめないで」。

自分が得意なことを棚卸ししていったら、物事を構造化したり、起きている状況を抽象化・文章化して説明することが得意だなと気づいて、そういうことが求められる仕事って何かと考えたら、戦略コンサルタントだったんです。なので、5打席目くらいでやっと手応えを感じた。

今まで雲をつかむような感じだったのが、ちゃんとこのハシゴを上っていくと成長できるという感覚をやっと33歳くらいの時に感じられましたね。

北野:山口さんが25歳の自分に1つアドバイスするとしたら?

山口あまり思いつめないで、と。自分が思っている以上に、自分のことってよくわからないものなので、客観的な状況を整理して自分は何が得意かっていうのを考えてみるといいです。不得意なものはもちろん粘ることも大事だけど、そこは見極めが難しいところ。「逃げる勇気。負ける技術」って言っているんですけども、逃げる勇気は絶対に持ってください。上手に負けるのもすごくスキルがいると思うんです。

(後編に続く)

後編では、山口さん、北野さんが会場から出た質問に答えるQ&Aセッションの模様をお届けします。

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