大企業でキャリア築いてきた幹部人材は、会社の外でどう役立つのか?
企業の人材を、新興国やNPO法人に送り込む「留職プログラム」を行うNPO法人クロスフィールズが、新たに大企業の経営幹部の能力を「社外・社会」に生かそうとする事業に乗り出した。企業のノウハウや知見をNPOやスタートアップにシェアするとともに、幹部人材も「会社以外の場で新たなキャリアをつくる」という、一石二鳥の取り組みになるのか。
クロスフィールズがこれまでに行った「留職」風景。会社員が社外でも力を発揮すると、社会は変わるかもしれない。
提供:クロスフィールズ
10月のある日曜日、朝から東京・五反田にあるクロスフィールズの会議室に、40〜50代を中心とした10数名の男女が集まった。キリンホールディングス副社長、NTTドコモの執行役員、リクルートマーケティングパートナーズ社長など、日本を代表する企業の、いわゆる幹部たちだ。
この日開かれたのは、クロスフィールズの新規事業「Executives For Change(エグゼクティブズ・フォー・チェンジ)」の事前オリエンテーション。大手企業の社長や取締役、部長クラスの幹部らが、5つのNPOや社会課題解決型ベンチャーで、支援や相談に乗り出す第一歩となる。
経営幹部らは今秋から5カ月間に渡り、隔週のペースで、受け入れ先のNPOや企業の中に入り込み、ミーティングや支援活動を重ねるという。
次世代型経営者は生まれるか?
大手企業幹部が、経営支援に入る団体と参加者一覧。
出典:クロフフィールズ
2011年創業のクロスフィールズは、若手人材を途上国やNPOなどに送り込む留学ならぬ「留職」プログラムの事業を展開してきた。今回は、参加者を「日本企業の経営幹部」に絞るという、新たな試みだ。
「どんな発見ができるか楽しみです」
リクルートマーケティングパートナーズ社長の山口文洋さんは、今回のプロジェクトでは、聴覚障害者支援のシュアールの支援に入る。山口さんは、入社9年目で現職の社長に就任。最年少でリクルートホールディングスの役員となった、ハイキャリアの持ち主だ。
自社で手がけるスタディサプリという受験生向けサービス事業と、親和性の高い、教育・福祉のセクターのNPO法人へのサポート参加となる。
「株主の期待に応えるという使命をもつ企業から、公共性高いNPOの現場に入ることで、どんなことが起きるか。自ら被験者となって、社会と事業を結びつける次世代の経営者像を探りたいですね」
会社の看板を下ろして始まる挑戦
10月のとある日曜日、複数社にまたがる大企業幹部たちが、オリエンテーションに集まった。
撮影:滝川麻衣子
人生100年時代が言われるようになり、生涯一つの会社でキャリアを終えるのではなく、会社の外で自分の力を活かしてみたいという空気も生まれている。
「ドコモの大野ではなく、一個人の大野として成長の場にしたい。ドコモの看板を手放して、一個人として関わったときに何ができるのか?ということを考えました」
NTTドコモ執行役員でイノベーション統括部長の大野友義さんは、島根県雲南市で介護予防に取り組む会社、光プロジェクトの支援に入る。大野さんはNTTドコモで、AIを用いた技術やサービスの開発に携わってきた。その知見を役立てたいという思いの一方で、自身のキャリアにとって新たな挑戦の意味も大きい。
「企業がサービスをプッシュ型に提案する時代から、お客さんの課題解決に対してソリューションを提案する時代へと変わってきている。雲南市という地元に入り込み、顧客を知りたいという思いもあります」(大野さん)
両者が結びつくことで生まれるもの
「大きな企業ほど、業務の中で社会課題の現場まで入り込むことは難しくなる。一方で、NPOやソーシャルベンチャーは、経営ノウハウが十分でなく、大きなインパクトにつながりにくい。企業の経営幹部がこうした団体に入り、この両者が結びつくことで、社会課題の解決につながるのではと考えました」
クロスフィールズ代表の小沼大地氏は、新規プロジェクトの意図をそう説明する。
「日本社会の課題解決の新たな道筋になると共に、企業の経営幹部にとっても社内では得難い発見の機会になるという、両輪の役割が期待できる」(小沼氏)と、話している。
(文・滝川麻衣子)