「民主党、下院獲得の見込みへ」
CNNの画面テロップがパッと変わった。
11月6日午後10時前(米東部時間)、アメリカの中間選挙の速報が流れると、筆者がいた開票ウォッチパーティの会場では、「キャー!!!」と長い悲鳴が起きた。
NYで最年少下院議員として当選したアレクサンドリア・オカシオコルテス。11月6日、クイーンズのナイトクラブに集まった聴衆の前で。
Rick Loomis/Getty Images
南部ジョージア州アトランタで、民主党州知事候補ステイシー・エイブラムの陣営がホテルの大宴会場に支援者を集めていたパーティーで、二つの大スクリーンに映されていたCNNの映像に、拳を振り上げる男女や踊り始める老人もいた。
民主党はこの日、特にトランプ大統領が就任してからの念願だった下院の奪回を8年ぶりに果たした。アトランタの人々の叫びが、その重要性を表す。
同様に、女性やマイノリティも次々に当選した。ほとんどが民主党からの出馬だ。
女性の上下院議員の数は11月7日午前10時現在、計117人、女性の州知事も50州中9人になった。
「初物」議員も次々に誕生した。
- 初のイスラム教徒議員(下院、女性、ミシガン州)
- 初のアメリカ先住民議員(下院、女性、ニューメキシコ州)
- 初のソマリア系議員(下院、女性、イリノイ州)
- 初のゲイ州知事(コロラド州)
- 初のレズビアン・アメリカ先住民議員(下院、カンザス州)
トランプ氏は「とんでもない成功だ」
中間選挙後の11月7日、ホワイトハウスで会見を開いたトランプ大統領。
REUTERS/Jonathan Ernst
その一方で、民主党は上院で、かなり不利な情勢に追い込まれた。ニューヨーク・タイムズによると、共和党はたやすく51議席の過半数を獲得し、今後も議席を増やす見込み。民主党は45議席に止まっている(7日午前10時)。 今回、共和党候補者らよりも「選挙の顔」だったトランプ大統領は、こうツイートした。
「今夜は、とんでもない成功だ。みんなありがとう」
トランプ氏は、すでに2020年の再選に向けて資金を集めている。今回の遊説でも、候補者にはほとんど触れず、自分の大統領としての仕事ぶりをしゃべりまくった。
その2020年大統領選挙に大きな影響力を持つ州知事も、民主党が7人増やしたものの、激戦州のフロリダ州とオハイオ州を逃した。
フロリダ州の民主党候補アンドリュー・ギレム氏(タラハシー市長)は勝利が期待されたが、得票率0.7%の僅差で破れた。当選すれば女性で黒人初の州知事となるはずだったジョージア州のステイシー・エイブラム氏は、得票率でライバルに差をつけられているものの、「不在者投票の最後の一票が、カウントされるのを待つ」と主張。勝敗がつかないままになっている。
「ブルー・ウェーブ(民主党の青の波)は起きた。でも、レッド・ウォール(共和党の赤の壁)も厚かった」
より具体的な恐怖感が勝利した
ジョージア州知事候補、エイブラム氏の集会にいた10代の陣営インターンたち。
撮影・津山恵子
一夜明けた7日未明、CNNのコメンテーターがこう言った。 ウォール・ストリート・ジャーナルによると、有権者の間で起きている性別や人種の「分断」がはっきり見える。
- 共和党支持者→男性51%、白人54%、地方61%、小さな町52%
- 民主党支持者→女性55%、アフリカ系88%、ヒスパニック系62%、都市部66%
共和党は地方に住む白人男性、民主党は都市に住むマイノリティと女性に強力に支援されている。
トランプ大統領は投開票日の前に、人口数万人、数千人といった小さな町も含めて集会を開き、票を掘り起こした。 トランプのアメリカにおける勝負の決め手は、以前の候補者のように「変革」を訴えるよりも、有権者に「恐怖感」を植え付けることに変化してしまった。
今回の結果をみると、トランピストらが抱いた恐怖感の方が、民主党支持者が抱く恐怖感を上回っているようにみえる。
「我々の国の、民主主義の姿というのが、投票用紙が問うている内容だ」
と、フロリダ州の集会で訴えたのは、オバマ前大統領。
これに対し、トランプ大統領が植え付ける恐怖心は、より具体的だ。
「もし、アメリカを違法移民や難民キャラバンに支配されたくなかったら、共和党に投票するべきだ」(ミズーリ州の集会)
「民主党のシューマー上院議員とペロシ下院議員が議会を支配するようになったら、税金を上げ、人々から仕事を奪うための規制を打ち出し、炭鉱や材木工場を閉鎖し、社会主義を押し付け、(移民が入りやすいように)国境を消してしまうだろう」(モンタナ州の集会)
もちろん、トランプ大統領の発言は間違っており、ミスリーディングだ。しかし、繰り返しそれを聞くトランピストは、それを信じて、投票という行動に移した。
オバマ時代の戦略では勝てない
11月2日、フロリダ州マイアミで民主党候補の応援演説に駆けつけたバラク・オバマ前大統領。
REUTERS/Joe Skipper
リベラル系ライターのデビッド・クリーオンは、こうツイートした。
「繰り返し目に付くパターンは、民主党が郊外に住み学がある有権者を取りまとめるのよりも、共和党が地方の白人をまとめるスピードの方が、速いというものだ。長期的には、(民主党にとって)いい前兆ではない」
オバマ前大統領は地方の選挙区で破れても、人口が多い大都市・郊外の学歴がある人々とマイノリティの票を押さえることで、2選を果たした。しかし、民主党は「トランプ効果」で、恐怖感を抱いて投票所に向かうようになった地方の大量の白人を崩す戦法を立てていく必要がある。
オバマ時代の戦略ではもう勝てない。今回の選挙で学んだに違いない。
また、今回当選した女性やマイノリティの下院議員をどう支えていくかも、民主党としての課題だ。多様性を象徴するような議員が議会にいることは良いことだが、今回当選した「初」議員らは、ほぼ皆、中道よりプログレッシブと呼ばれる左派だ。
ペロシ下院院内総務ら、主流の中道とどうやって折り合っていくのか。 ペロシ議員は、下院で多数派を取っても、下院の過半数で可決できるトランプ大統領の「弾劾訴追」をしないと報じられている。
民主党内の取りまとめが厳しいというのがその背景とみられるが、今回初当選したプログレッシブ議員らは、それを許さず、民主党に投票した有権者の失望を買うことにもなりかねない。
そうなれば、2020年大統領選挙では、今回新たに獲得した若者や女性の票を失うことにもなりかねない。多数派は獲得したものの、下院民主党の舵取りは課題が山積みだ。
(文・津山恵子)