10年目の中国「独身の日」セール。キーワードは「新小売」。新記録を目指すアリババを狙う刺客

アリババ

街中にもアリババなどの「独身の日」セールの広告が登場している。

撮影:李華傑

中国で11月11日に行われるECセール「独身の日」は2018年で10年目を迎える。

中国EC最大手のアリババが、オンラインショッピングの普及を目的に自社のECサイト天猫(Tmall、当時の名称は淘宝商城)で始めたセールの売上高は、初年度(2009年)の5000万元(約8億2000万円)から2017年には1682億元(約2兆8000億円)と、3万倍以上増えた。京東商城(JD.com)など他のEC事業者の売り上げも加えると、その額はさらに膨れ上がる。

今年の独身の日のEC売上高は3000億元(約5兆円)を突破すると予測されるが、セールが定番化する中で消費者も以前ほど盲目的には動かなくなっており、各プラットフォームはキャンペーンの前倒しや新たな切り口の提案で数字を伸ばそうとしている。

キーワードは「新小売」、シャオミも参戦

生鮮スーパー「盒馬(フーマー)鮮生」

オンラインとオフラインを融合したアリババの生鮮スーパー「盒馬(フーマー)鮮生」

Reuters Pictures

今年のセールでアリババをはじめとするEC事業者が前面に打ち出しているキーワードは「新小売(ニューリテール)」だ。

オンライン小売りとリアル店舗の融合によるイノベーション「新小売」は、アリババの馬雲(ジャック・マー)会長が2016年に提唱。その後、同社だけでなく京東、騰訊(テンセント)といったIT大手が、続々とリアル店舗の運営に進出し、無人スーパーやキャッシュレス店舗、さらには無人レストランといった小売りの新業態が登場している。

天猫は今年初めて、傘下のクチコミサイトや生鮮スーパー「盒馬(フーマー)鮮生」、出前アプリの餓了麼(ele.me)だけでなく、百貨店大手「銀泰商業」、家具販売「居然之家」など出資するリアル店舗も加え、グループ一斉にセールを実施。業界2位の京東やラオックスの親会社で、家電量販店を母体に持つ蘇寧易購も、同様にリアル店舗と連動したセールを展開する。

セールで人気を集めるスマホ業界も、ECプラットフォームに頼らず、独自のセールを始めた。

2013年以降5年連続で、天猫の「独身の日」売り上げランキングトップを誇る小米集団(シャオミ)は11月、「シャオミの新小売への対応力を、独身の日のセールで披露する」と発表。主要ECプラットフォームと自社ECサイト、リアル店舗5000店舗で一斉セールを行い、サービススタッフ2900人、配送車3000台、配送スタッフ10万人を投入する。オンライン・オフライン共通のクーポン券を発行するほか、11日は店舗を24時間営業する。

あえてセールを避ける消費者も増加

インアゴーラ

日本商品の越境ECを展開するインアゴーラはインフルエンサーによるプロモーションを展開。写真はライブコマースで鯖江めがねを紹介する人気インフルエンサー。

撮影:浦上早苗

独身の日の爆発的な販売力には、今や世界中のメーカーや小売店が期待する。日本商品専門の中国向け越境プラットフォーム「豌豆(ワンドゥ)」を運営するインアゴーラも、11月に入り、中国インフルエンサーによるライブコマースを配信するなど、セールを盛り上げる。

北京市在住の公務員、秦佳さん(26)は日々、ECのセール情報をチェックし、「洋服も下着も、アクセサリーも美容家電も全部買いたい」と話す。ショッピングが趣味で、7000元(約11万5000円)の月給の3割以上を洋服や美容に使っている秦さんにとって、独身の日は「普段は高いから買えない商品を、まとめ買いする日」。最大のお目当てである高級ドライヤーを中心に、5000元分(約8万円)の予算を立てている。

蘇寧

企業がプロモーションを拡大する一方で、消費者は以前より冷静になっている。

撮影:李華傑

河北省の進学塾で働く孫坤陽さん(24)は、「昨年は2000元(約3万3000円)以上するイヤホンが1000元になったので買いました。今年は欲しい物があまりないですが、テンセントも独身の日にオンラインゲームのセールをやるので、100~200元分買おうかなと考えています」と話した。

一方、中国ではネット人口そのものが頭打ちに近づき、EC市場の成長鈍化が始まっている。アリババ、京東が10月中旬、例年よりかなり早く独身の日のキャンペーンを始め、予約販売に乗り出したことも「業界内の競争が激しくなり、成長プレッシャーが強まっている」との見方がもっぱらで、シェアをいかに守り、成長を続けるかに注目が集まる。

消費者も以前に比べると冷静になり、さまざまなサイトや価格情報を見比べるようになった。

孫さんは「8割引きとか、7割引きとか表示されているけど、実際は年中安売りしている商品もかなり混じっているから、ちゃんと調べないといけない」と指摘する。

事実、10月ごろに商品の販売価格を一旦引き上げて、セール価格の割引率を大きく見せかける詐欺行為は何度となく問題になり、天猫は今年、ビッグデータを用いて、価格推移の監視を強化すると発表した。

「10月下旬に寒くなってコートを買った。周囲に、11月11日まで待ったら安くなるのにと言われたけど、もともとそんなに高い商品じゃなかったから……」と話すのは北京の日系企業で働くアンゲロマさん(25)。セール前後のしつこい広告や配送の遅れを嫌い、あえて独身の日の買い物を避ける友人も少なくないという。

消費者の細分化で台頭する新興EC企業

厳選

大都市の中高所得者をメインターゲットにし急成長する網易厳選のECプラットフォーム。

今年は特定のセグメントに強みを持つ新興ECサイトが急台頭し、アリババや京東のシェアをじわじわと浸食しているのも、両社が独身の日キャンペーンを前倒しした一因と言われている。

北京の外資系企業に勤める李華傑さん(21)は、大都市の中高所得者をメインターゲットとした、網易(ネットイース)のEC「網易厳選」で、50元のデポジットを払い、11月11日に半額になるコートを予約した。無印良品のファンで、日本に留学経験もある李さんだが、網易厳選について「学生時代からチェックしていた。サイトのデザインも売っている商品もおしゃれでシンプル。無印に通じるものがある」という。

また、今年EC業界の風雲児になっているのが、創業3年弱で2018年7月、アメリカで上場を果たした「拼多多(Pingduoduo)」だ。海外の有名メーカーやラグジュアリーブランドと提携するなど、ブランド化を進めるアリババ、京東とは対照的に、拼多多は圧倒的な低価格を打ち出し、地方部でシェアを広げた。安かろう悪かろうの商品が蔓延する同サイトは「偽物市場」と揶揄されてきたが、上場を機に国美電器など中国有名量販店との提携を加速、競合大手が警戒感を強めている。

今年の独身の日のセールも、アリババ、中国EC全体の売上高が過去最高を突破することは確実視されているが、「新小売」によってリアル店舗がどれほど恩恵を受けられるか、拼多多など新興ECがどこまで食い込めるかが注目される。

(文・浦上早苗)

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