米「ねじれ議会」で世界経済に黄信号、目前に迫る「米中新冷戦」

トランプ政権の任期半ばでの信任が問われた米中間選挙は、与党・共和党が上院で過半数を維持したが、下院では野党・民主党が8年ぶりに過半数を奪回。その結果、両院で多数派が異なる「ねじれ議会」が出現した。アメリカの権力構造の変化は、世界経済にどんな影響を与えるのか。

追加の大型減税は困難、絶好調の米景気にブレーキ

米中間選挙の終盤、ミズーリ州であった集会で支持者に手を振るトランプ大統領。

米中間選挙の終盤、ミズーリ州であった集会で支持者に手を振るトランプ大統領。この選挙で与党・共和党は下院での過半数を失い、「ねじれ議会」が出現する結果となった。

REUTERS/Carlos Barria

まず問題となるのが、ねじれ議会の出現によって、野党との間で意見対立がある景気テコ入れ策を実現しにくくなることだ。

トランプ大統領が主張する「中間層への10%の所得税減税」や「大規模なインフラ投資」については、財源などを巡り民主党との間に意見の隔たりがあり、特に前者については法案が議会を通らない可能性がきわめて高くなった。

「トランプ大統領が実現させた企業と個人への大型減税や、財政支出の拡大によってアメリカの景気は押し上げられていますが、2019年にはその効果は薄れます。ねじれ議会のもとで共和・民主両党の対立が続くため、追加の減税や財政支出拡大による景気浮揚策は打てず、アメリカの景気は悪影響を受ける可能性が高い」

第一生命経済研究所の桂畑誠治主任エコノミストはそう分析する。

リーマン・ショック後のアメリカの景気拡大は10年目に入っている。歴史的な低失業率や株高に象徴されるように「絶好調」と言える状態が続いたが、2019年以降にはさすがに息切れする、という見方が多い。

ねじれ議会の制約によって有効な景気テコ入れ策が打てなければ、経済成長へのブレーキがより強くかかることになる。

桂畑氏はそうした要因を織り込んだうえで、2019年のアメリカの実質経済成長率は2.7%と前年を0.2ポイント下回り、2020年には1.9%にまで減速する、と予測する。他の専門家の予想もだいたい同じような内容だ。

グローバル経済をけん引する米景気の減速ぶりが想定を上回れば、おおむね堅調さを保ってきた日本を含む世界各国の経済への悪影響は避けられない。

内政がダメなら「貿易戦争で強硬姿勢」をアピールへ

中国の港に並ぶ輸出向け鉄鋼製品。

中国の港に並ぶ輸出向け鉄鋼製品。アメリカは高関税の対象を段階的に広げ、米中貿易戦争は激化する一方だ。

China Daily via REUTERS

さらに重要なポイントは、激しさを増す米中貿易戦争の今後の展開への影響だ。

アメリカの政治システム上、外交や関税に関する政策については大統領の権限が大きく、議会の影響力は限られる。ねじれ議会によって、減税や財政支出拡大を含む内政面で自身が望む政策を実現しにくくなったトランプ大統領が、支持層へのアピールのために貿易戦争で強硬姿勢を強める——。そんな見方が専門家の間で広がっている。

そもそも、冷戦後に確立したアメリカの「一強体制」を脅かす中国への警戒感は、共和・民主両党に共通する。一党独裁のもとで強引に高成長路線をひた走る異形の経済大国は、軍事力も急ピッチで増強し、南シナ海の島々の軍事拠点化を進めるなど膨張主義的な動きを加速させているからだ。

「中国はほかのすべてのアジアの国々を合わせたのと同じくらいの軍事費を投じて、陸・海・空で米国の優位を侵そうとしている」

ペンス米副大統領は中間選挙に先立つ2018年10月の演説で、中国の軍備拡張から知的財産権の侵害、「アメリカの内政への干渉」まで、多方面にわたる中国批判を展開した。

トランプ政権の中国に対する姿勢を明示したこの演説の内容の激しさは、外交関係者らに大きな驚きを与えた。イギリスの首相を退いたチャーチルが旧ソ連を批判し、冷戦の到来を世界に印象付けた1946年の「鉄のカーテン演説」と重ねる論評も相次いだ。

計り知れない「米中新冷戦」のインパクト

中国とベトナムなどが領有権を争う、南シナ海の西沙(英語名・パラセル)諸島の島をパトロールする中国軍兵士。

中国とベトナムなどが領有権を争う、南シナ海の西沙(英語名・パラセル)諸島の島をパトロールする中国軍兵士。南シナ海の島々の軍事拠点化といった中国の膨張主義的な動きに対し、アメリカのエリート層は警戒感を強めている。

REUTERS/Stringer

「貿易戦争は米中全面競争の前哨戦、第1ステップに過ぎません。本質的には民主主義や法の支配といった価値観を巡る争いであり、米中は経済以外の面も含めて『対立』から『対決』に向かっていくでしょう」

日本総研の呉軍華理事はこう予測する。

現在の米中の経済的な結びつきの深さを踏まえれば、全面対決などあり得ない。そんな見方も根強かったが、「ここ数か月でワシントンの雰囲気はかなり変わりました。経済面での中国とのデカップリング(切り離し)も視野に入れている、と感じます」と呉氏は指摘する。

アメリカのエリート層の「いま中国を抑え込まなければ、いずれこちらがやられる」という危機感の高まりを背景に、「2020年の米大統領選でトランプ政権が交代するかどうかに関わらず、米中対立は長期化する」という観測が専門家の間で急速に広がっている。

米中貿易戦争による世界経済への悪影響は、短期的にはそれほど大きくないという見方が有力だ。しかし、世界1位、2位の経済大国が長きにわたる「新冷戦」に突入すれば、状況は一変する。

もちろん、米ソ冷戦時代の「世界が政治体制によって大きく2つの陣営に分断され、経済もブロック化する」という構図が完全に再現されるとは考えにくい。未来図はきわめて不透明だ。ただ、米中新冷戦が現実のものとなった時、世界経済に計り知れないインパクトを与えることだけは間違いない。

(文・庄司将晃)

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