「彼氏を束縛するAIを作るのが夢」「どうしたら『彼女』から『奥さん』になれるかを『Word2Vec』に聞いてみた」など、メンヘラ✕エンジニアリングという特異なキャラクターが、ネット界隈で注目を集める現役の東京工業大学院生の、らんらんさんこと高桑蘭佳さん(24)。
メンヘラ☓エンジニアリングという新たな境地を切り開く、らんらんこと高桑蘭佳さん。
8月には上場企業ガイアックスの出資を受け、株式会社メンヘラテクノロジーを起業。スタートさせた女子大生と社会人のマッチングサービスが賛否両論を巻き起こすなど、話題にこと欠かない。
「生きづらい自分」がすべての動機と話すらんらんさんは、なぜメンヘラとテクノロジーを結びつけたのか。
自分が生きづらいという原点
「人のためにというより、わたしは自分が生きづらいので、自分のためのテクノロジーやサービスなんです。よく“意識高い系”に誤解されるんですが、意識が本当に低いです」
秋雨の降りそぼるグレーの空の下、メンヘラテクノロジーの出資元ガイアックスが運営する、Nagatacho GRiD(東京都千代田区)にらんらんさんを訪ねた。プラチナブロンドのおかっぱに、黒いパーカー姿。ゆっくり言葉を選びながら、自身について話し始めた。
少し鼻にかかった声といい、年齢不詳のルックスといい、まるでアニメのキャラクターのような不思議な空気をまとっている。
現在らんらんさんは、東京工業大学大学院修士課程1年生で、自然言語処理やアルゴリズム、機械学習について研究中。大学も工学部出身で、エンジニアリング一筋だが、研究動機は
「彼氏を束縛するAIをつくりたいからです」
極めて個人的だ。
「彼氏束縛AIをつくりたい」の記事がバズったが、まったくの本気だ。
「付き合っている人からLINEの返信がなかったり、会えなかったりすると極度に不安になります。社会人の彼氏が出張で1カ月いないのが耐えられなくて。大学を半月休んで出張先までついて行きました」
自他ともに認めるメンヘラ気質という。
メンヘラ:心の疾患をもつ人というネットスラング。昨今は「落ち込みやすく生きづらい性格」「構ってもらいたがりで面倒な性格」といったニュアンスでカジュアルに用いられることも多い。
起業を考えた理由は、「彼氏の会社を買収して、ビジネス面でも束縛したい」から。大学院での研究内容も「テクノロジーによるSNS監視」。もう一つの顔である、ライターとしての専門は「彼氏好きすぎる病み気質☓テック」。
ともすれば「アピールがうっとうしい」とも言われがちな“メンヘラ女子”だが、メンヘラ気質をガソリンにテクノロジーを操るという突き抜け方に、ネット界隈の反応は比較的、好意的だった。
就活支援か出会い系かで炎上
賛否両論を生んだ、女子学生向け就活支援サービス「MM」の真意とは。
そんな中、らんらんさんがCEOを務めるメンヘラテクノロジーの女子学生向け就活支援サービス「MM(ミリ)」が今秋、「就活セクハラ・パワハラにつながる」と物議を醸し、炎上騒ぎを起こした。8月にガイアックスのビジネスコンテストに応募したことで法人化が決まり、強烈な社名やらんらんさんのキャラが注目を集めるさなかのことだ。
- 社会人と接点を持ちたい女子学生と社会人の食事会をマッチング
- 聞きたい業種や企業にいる社会人を選べる
- MMが食事会をセッティングし、提携先の飲食店から送客料でマネタイズ
- 食事会は原則、学生2名・社会人2名
- 悪質な接触は学生側からMMに申告できる
着想の原点は「積極的にインターンやOBOG訪問ができない自分のようなタイプの学生に、社会との接点をもってほしい」(らんらんさん)という、いたって真面目なものだった。
しかし、女子学生限定で社会人とマッチングするという業態が、「パパ活・ママ活」の温床ともなる「出会い系サービス」と大差ないという指摘が、Twitterはじめネット上で相次いだのだ。
見兼ねた出資元のガイアックスも、メディア向けに事業内容説明会のセッティングをアドバイスするなど、火消しに乗り出す騒動となった。
炎上含め、これまでの露出からは突飛なキャラを想像しがちだが、実際に会う彼女は、伏し目がちではかなげだ。
「話題を集めるためのビジネスメンヘラだとか、メンヘラを食い物にしているとも言われますが、私は本当に自分が(精神的に)病んでしまうことが課題でした」
女子の集団からハブられる
インターネット少女だった小学生時代。女子の集団の同調圧力が苦手だった。
石川県の地方都市で生まれ育ったらんらんさんは、インターネットが大好きな小学生時代を送る。親のパソコンで遊ぶうちに小学校2〜3年生からHTMLを使ったホームページ作成をしていた。
「コンピュータの道に進みたいと当時から思っていました」
苦手だったのが、女子の集団の同調圧力だ。
進学校に通う女子高生時代、クラスの女子たちが「今日は学食の日」と、連れ立ってお昼に行くのに、ひとりでぽつんとお弁当を食べていた。いつもはお弁当の彼女たちが、いつ「明日は学食にしようね」と示し合わせたのか、知らされない。
「女の子集団で空気を読むのが苦手で。いじめまではいかないけど、小学校時代から大学生になってもハブられてました」
恋愛依存だけでは、満たされなかった、らんらんさんを変えたのは(写真はイメージです)。
女子が苦手で男子に混じって過ごしていると、なおさら女子からは避けられる。そのせいで、より「彼氏依存になった」面もあるかもしれない。
大学進学後、不安を紛らわそうとガールズバーのアルバイトをしたり夜遊びしたりを重ねるが、満たされなかった。
寂しがりで恋愛にのめり込めば、相手に依存するあまり、少しでも連絡がとれなくなるとかえって不安になる悪循環。
「とにかく相手が離れてしまうのが不安で怖くて、相手の行動も逐一チェックしてしまうんです」
眠れなくなっては心療内科に通い、睡眠薬が手放せなかった。
完璧じゃなくても働いている
転換点となったのが、会社を経営する現在の彼氏によって「社会との接点が増えたこと」だという。
「完璧じゃなくても、強みや個性を生かして働いている人たちがいるんだと気づきました」
「学生が社会との接点をもつ」という、就活支援サービスMMの着想もここにある。
さらに「彼氏だけに関心が集中しないように」と、とった行動で世界は転がりだした。ライター仕事を始めたり、彼氏依存のメンヘラ気質をあえてTwitterや文章で公開することで「自分を少し客観視できるようになった」。
セキュリティを専門としていた大学の研究室でも「彼氏からLINEの返信が来ない」と滅入る様子に、指導教官助手から「あなたならアタッカー(攻撃者)目線で問題解決ができるかもしれない」と、紹介された参考論文が「住所推定」。
「彼氏を束縛したい」欲求を、ネットストーキングのリスクについて研究するエネルギーに変えるという変換が起きる。
現在もメンヘラ気質は続いていると言うが、なんらかの処方箋を見つけたとすれば次のとおり。
- 依存先を増やす
- 視野を広げる
- 社会と接点をもつ
今は、睡眠薬も手放している。
生きづらい人のためのエンジニアリング
自分のいきづらさを克服するスキルとしての、AIであり、テクノロジー。
就活サービスの事業を立ち上げたらんらんさんだが、実は今、就活中だという。
「技術面も研究も私はまだまだしょぼいので、会社はやるにしても、就職してデータサイエンティストやエンジニアとして、腕を磨きたい」
大学院での研究も並行し、力を入れるのが「文章から感情のベクトルを引いてフラット化する手法」。自然言語処理や機械学習を駆使して事前にトラブルを予測するなど、「彼氏とのケンカ仲裁アプリも作りたい」と構想中だ。
ただ、志のベクトルはあくまで自分向きだという。
「正直、みんなの気持ちはわかりません。メンヘラを救いたいというより、自分が生きやすくなるためのスキルとして、テクノロジーを使っているのだと思います」
2018年現在、世界はインターネットが張り巡らされ、各種SNSで人々のコミュニケーションもスピード化・複雑化した。「いつでもつながれる」現代は、つながれないストレスやわかりあえない孤独も、強めてしまいがちだ。
崇高な志なんてなくてもいい。
傷や弱さをさらけ出して進むらんらんさんは、無意識にも、現代の生きづらさを「それでもやれる」と、全肯定しているのかもしれない。
(文・滝川麻衣子、写真・今村拓馬)
高桑蘭佳:通称らんらん。1994年生生まれ。石川県金沢市出身。東京工業大学大学院修士1年。2018年8月にガイアックスの出資を受け、株式会社メンヘラテクノロジーを設立し、同社CEOに就任。自然言語処理を用いた感情分析の研究を行う。「恋愛」☓テクノロジーをテーマに、ライターとしても活動。 Twitterは@pascarrr