終活ねっと 社長の岩崎翔太さん(右)と、DMM.com 執行役員の緒方悠さん。
すでに国民の3割近くが65歳以上という「超高齢社会」を迎えている日本。誰の身にも降りかかる「死」の瞬間にまつわる悩みをITで解決するため、DMMが動き出した。
DMM.com(以下DMM)は11月12日、終活全般に関する情報ポータルサイトを運営する「終活ねっと」と10月31日付で資本業務提携契約を締結したと発表した。
起業したのは1995年生まれの東大生だ。なぜ、学生起業で終活を扱おうと考えたのか?背景には、現在の日本のスタートアップを取り巻く起業環境の変化がありそうだ。
“大学生ベンチャーブーム”に刺激されて起業
岩崎さんは、1995年生まれで現役の東大生だ。
「終活ねっと」社長の岩崎翔太さんは1995年生まれの23歳。灘高校を卒業後、東京大学文学部に進学。在学中の2016年に起業した。
「終活ねっと 〜マガジン〜」は、葬儀やお墓、介護や保険など、終活の悩みを解決する情報を載せたポータルサイトだ。
中心となる社員は4人で全員20代前半。サイトの規模は公表していないが、ライター・編集の人数は大学生を中心に40人ほどだという。
創業から1年余りがすぎた2017年12月には8300万円を調達し、累計の調達金額を1億円に伸ばした。
岩崎さんが起業を意識し始めたきっかけは、たまたま見つけて応募したアルバイト先の環境と関係がある。
アルバイト先は、東大の先輩でもある1994年生まれの金靖征氏が代表を務めるCandle社だった。Candle社はその後、創業からわずか2年半でECやメディア、ゲーム会社などを抱えるクルーズ社に12.5億円で買収された。
当時のオフィスは、VCのイーストベンチャーズが運営していた、スタートアップが多く入っているシェアオフィス。1992年生まれで、現在はユナイテッド社の執行役員である花房弘也氏も働いていた。
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同世代が事業を立ち上げ、資金調達やエグジット(事業売却)などを達成している環境が半径数メートル以内にあった。
岩崎さんはそれまで、サークル活動やアルバイト、暇な時には漫画を読むといった、“いわゆる普通の学生生活”を送っていたという。しかし、起業して短期間に事業売却し、次のチャレンジをはじめるというスタートアップのダイナミズムに大きな刺激を受け、インターン開始から8カ月後の2016年4月、自身も起業を決意した。
「終活産業」には後継者不足問題も
内閣府の発表によると、2017年時点での日本の高齢化率(65歳以上人口の割合)は27.7%。この数字は今後も上昇していくとみられる。
出典:平成30年版高齢社会白書(内閣府)
その後、半年間を事業の選定に費やした。その中で事業化できそうだと選んだのは「終活(ライフエンディング)」領域だった。
岩崎さん自身も祖父母を亡くしており、相続の問題などに直面する親戚を間近に見てきた。超高齢社会を迎えている日本で「終活」は誰もが何らかの形で関わる可能性がある領域だ。
その一方で、葬儀やお墓に関する情報はまだIT化が進んでおらず、相場も不透明であることが多い。この業界に参入すれば大きな社会課題解決につながると考えた。
20代の岩崎さんが「終活」事業に参入することで、既存の事業者から反発を受けるのでは、という不安もあった。
しかし、意外なことにライフエンディング関連のイベントに参加して、出展者から「若いのに来てくれてありがとう」と声をかけられたことで、「終活産業」自体が後継者問題などの課題を抱えていることにも気づいた。「自分たちにもできることがあるのではないか」と感じたという。
DMMも「参入したいという話は出ていた」
「終活ねっと」のサイト画面。
出典:終活ねっと
創業から2年が経ったタイミングでDMMとの資本業務提携を決めた。
「(終活事業は)インフラ整備などの面で、世の中の人々にとってもっといいものになり得る業界。DMMでも業界に参入したいという話は出ては消え、出ては消え、という状況だった」(DMM執行役員の緒方悠さん)
2018年6月に共通の知り合いを通じて岩崎さんと出会い、3カ月ほどは事業の個別相談に乗っていたが、よりDMMのリソースを活用できる体制をつくるため、子会社化を決めた。 子会社化後も、終活ねっとは独立性を持って運営されるという。
今後は終活に関する情報を集約したメディア事業を拡大させつつ、将来的には終活の悩みに答えられるような相談窓口も開いていきたいとし、「ライフエンディングのナンバーワンブランドを目指す」(岩崎さん)という。
岩崎さんのような、20代前半で起業をするケースはもはや珍しくはない。ジャパンベンチャーリサーチのデータによると、2017年の国内未上場企業の資金調達額は過去10年で最高となる2791億円(前年比で21.7%増加)。5年前(2012年)と比較しても、約4倍に膨れ上がっている。
このような流れを受けて、DMMでもスタートアップ支援に乗り出す。同社は2018年10月、若手起業家への支援を目的としたベンチャーキャピタル「DMM VENTURES」を設立した。
若手起業家支援などを手がける、同社の経営企画室室長 市村昭宏さんは、「起業が若者の間で人生の選択肢としてとらえられていることは、隔世の感がある」と話す。
「この風潮を一時のブームで終わらせず、(スタートアップが)きちんとした社会的価値を創出できるよう、DMMとしても、IPO以外の選択肢やセーフティネットとしてバックアップをしていきたい」(市村さん)
(文・写真、西山里緒)