ビジネスノートPC好調のVAIO ── 新製品「VAIO A12」の独自性の裏、ハイエンドのZは終了に

VAIO A12

VAIOは新型2in1 PC「VAIO A12」を発表。一見すると単なるノートPCだが、様々な工夫が施された同社独自の製品だ。

ソニーのPCブランドだった「VAIO」がソニーを離れ独立企業となって4年以上が経過した。ひとつの小さなPCメーカーとなったVAIO社は、いまビジネス向けPC市場で成長を続けている。

ビジネスモバイルPCの伸びが利益をけん引

VAIO 決算

VAIOの経営状況を説明する社長の吉田秀俊氏。売上高の上昇に対し、純利益が大幅に増えていることについては、ボリュームゾーンの低価格帯に的を絞ったことが利益に貢献していると語る。

同社の2017年度(同社の決算期は6月頭から翌年5月末まで)の決算は、経常利益は6億5000万円と前年度比で13.4%増、当期純利益は4億8200万円(同160.5%増)と好調に推移している。

2017年6月に同社社長に就任した吉田秀俊氏は、事業好調の主な要因として、モバイルPC製品のラインアップ拡充と法人向けモバイルPC(VAIO S11やS13)の大幅増を挙げている。特に法人向けモデルは前年度比で30%増の売り上げを記録した。

VAIO Sシリーズ

写真左より、VAIO S11、S13、S15。このうちS13が最も好評だという。

吉田氏は「働き方改革が追い風となっている。テレワークでモバイルPCのニーズが高まっており、セキュリティーの担保も避けては通れない。VAIOは採用する会社ごとにカスタマイズをていねいに行い、好評を得ている」と話す。

また、Business Insider Japanの取材に対し、吉田氏は「Windows 7のサポート終了に伴う企業ニーズも、今後の成長要因の1つ」としている。

新モデルはノートPCとタブレットの使い勝手を真に追求

VAIO A12

VAIO A12。11月13日より予約を開始しており、発売日は11月22日。直販サイト「VAIO Store」の最小構成価格は17万4744円(税別)。

そんな同社が11月13日に発表した新型PC「VAIO A12」(法人向けモデルは「VAIO PA」)は、まさに働き方改革で実現する多様な働き方への対応を、同社ならではの設計で実現したモデルだ。

最大の特徴は、同社が独自に開発した「スタビライザーフラップ」だ。

A12のようなタブレットにチップセットやバッテリーなどの主要部品が集まりキーボードが着脱可能なタイプのPCは、タブレット側の重みで倒れやすくなってしまうという欠点が存在する。

キーボード側にバッテリーなどで重みを増して安定化させる製品もあるが、その場合角度調整の自由がなくなったり、全体の重量が重くなるなどの弊害がある。

しかし、A12はスタビライザーフラップにより本体の重心をずらし安定化させ、着脱式の2in1 PCでありながら、一般的なノートPCと同じ使い勝手と軽さを両立しているという。

スタビライザーフラップ

スタビライザーフラップはVAIOの独自技術(特許登録済み)。

スタビライザーフラップ

実機ではこうなっている。ヒンジの下にある部品(フラップ)が支点をずらす役割を果たす。フラップはわずか1mmのマグネシウム合金だが、同社ではフラップ部への加圧試験も行い、強靱さをアピールしている。

本体であるタブレット側の工夫も特筆すべきものがある。ディスプレーは12.5インチフルHD解像度(1920×1080ドット)液晶で、厚さは7.4mm、重量は607g(LTE非搭載モデル)と大画面かつ薄型軽量に仕上がっている。

さらに、ワコムのAESペン技術による筆圧最大4096段階検知可能なデジタイザーペンに対応。充電もUSB PDでの急速充電のほかに、スマートフォン向けのACアダプターやモバイルバッテリーでの充電も可能とする「5Vアシスト充電」に対応する。

VAIO A12 本体

LTE非搭載のタブレット本体の重さは約607gと大きさの割には軽い。

VAIO A12 ペン

ペンはワコムのアクティブES方式を採用。

VAIO A12 ワイヤレスキーボード

発注時、「ワイヤレスキーボード搭載」のキーボードを選択すれば、独自の無線接続による遠隔文字入力&操作も可能だ。

新製品の裏でハイエンドモデルの生産が終了に

VAIO Z 製品ページ

同社のハイエンドモデル「VAIO Z」は生産完了に。

出典:VAIO

このようにA12は他社にはない独特の特徴を備えたビジネスモバイルPCになっている。

A12の登場でVAIOはさらに多様なビジネスの現場で活躍する機会を得たわけだが、一方でVAIOのPC事業全体のポートフォリオには不安を感じる部分がある。

その最大の不安要素は「高性能モデルの不在」だ。

今回のA12の発表と同時に、同社は直販サイトおよびソニーストアにおいて、性能重視のフラグシップモデル「Zシリーズ」の販売をとりやめている。VAIO Zの公式製品ページには「生産完了」の文字が掲げられており、同社広報によると「現状は、量販店などの在庫限りの販売となる」としている。

Zシリーズの今後の方針について、同社のPC事業担当執行役員の林薫氏は「Zについて現状お知らせすることはないが、現行のS13やS11では“VAIO TruePerformance”を搭載するなど、Zに根ざした製品は提供している」と話す。

※VAIO TruePerformanceとは:
VAIO独自のチューニング技術。同社はS13の製品ページで「VAIO TruePerformance適用後のCore i5が、通常の第8世代のCore i7よりも高い性能を発揮するという効果をもたらします」と案内している。

VAIO スタッフ

写真左よりA12の商品企画を担当した黒崎大輔氏、社長の吉田秀俊氏、PC事業担当執行役員の林薫氏。

しかし、VAIOが戦略としてハイエンド不在を選んだ一方、高性能なハイエンドPC市場の成長は続いている。

競合である日本HPは、10月26日にハイエンドノートPC「Spectre(スペクトル)」の新製品を発表。その発表会場で日本HP関係者は「ハイエンドPCの売り上げは順調に伸びており、とくにアップルやVAIOから乗り換えたお客様が多い」と語っている。

法人強化とモバイルPC好調の背後で、ハイエンドPC、特に個人ユーザーでは、他ブランドへの「流出」が起きている可能性があるのも現実ではないか。

VAIOは、2019年初頭にはさらに別の新製品の発表を予定している。

新製品について吉田氏は「現状の13インチ、11インチのものとは少し違った形で生産性を高めるもの」と予告した。Zシリーズ後継にはならないかもしれないが、それがこのハイエンド市場に再挑戦するものになるのか、また別のVAIOがリーチできていない層へ向けた製品が登場するか。

手堅い戦いを続ける独立PCメーカーの舵取りは、今後も目が離せない。

(文、撮影・小林優多郎)

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