「4割程度下げる余地がある」という菅義偉官房長官の発言に端を発した4割値下げ問題。携帯電話の月額料金の高さや、いわゆる2年縛りなどの契約形態、はたまた格安SIM事業者(MVNO)の料金値下げにつながる、キャリアからの回線貸し出し価格の抑制も検討されるなど、話題にことかかない。
果たしてどの程度の料金が「適正」なのかは、いまや多くの人にとって注目ごとだ。
顧客満足に関する調査会社のJ.D. パワーは、携帯電話に関する顧客満足度調査、「携帯電話サービス顧客満足度調査」「格安スマートフォンサービス/格安SIMカードサービス顧客満足度調査」を毎年実施している。大手3キャリアの満足度に関する「2018年 携帯電話サービス顧客満足度調査」には、意外とも言える注目すべき結果がでている。
「多くのユーザーが携帯の各種費用に不満をもっているが、価格を理由に積極的に格安SIMに移行しようとは考えていない」というのだ。
キャリアの「満足度」のなかで通信費用の占める比率は24%のみ
この調査では、「電話機」、「各種提供サービス」、「通信品質・エリア」、「各種費用」、「電話機購入経験」、「アフターサーポート」の6つのファクターで満足度を測定している。
それぞれのファクターが満足度に与える影響度を見ると、「各種費用」は24%と、「通信品質・エリア」「各種提供サービス」と同程度のウェイトなっている。なお、同じ調査の2011年の結果では「通信品質・エリア」が28%、「各種費用」は18%となっている。
満足度のうち、実は料金に直接関係する「各種費用」の要素は24%で、「通信品質・エリア」や「各種提供サービス」も同程度のウェイトを占める。料金だけが満足度を決めるわけではないことがわかる。
出典:J.D. パワー「2018 年携帯電話サービス 顧客満足度調査」
さらに全体の満足度について10点満点で尋ねたところ、2011年に5.96点、2018年は5.58点と、少し下がってはいるもの、好意的なポイントをつけたユーザーが多い。
一方、費用に対する満足度は2011年の4.92点からさらに下がり、2018年は4.53点となっており、不満に思っているユーザーが多いことがわかる。
満足度は全体、費用ともに右肩下がりの傾向で、料金は増加している。
出典:J.D. パワー「2018 年携帯電話サービス 顧客満足度調査」
こうした現状について、J.D. パワーのサービス&エマージングインダストリー部門 ディレクターの野本達郎氏は「ここ3年くらい、料金プランが高いと思っている人が増えてきている」と近年のユーザー感情を語る。
その背景には、メディアを通じて「携帯料金が高い」という論調が増えてきていることもあるが、実際にもユーザーが支払っている費用は、右肩上がりだ。
J.D. パワーのサービス&エマージングインダストリー部門 ディレクター 野本達郎氏(左)と同部門スーパーバイザー 奥和樹氏(右)。
調査によると、2011年は平均5496円だった月額料金は、2018年には平均8134円に増加している。ここ数年で各種費用が増加している理由について、今回の調査を担当している同部門スーパーバイザーの奥和樹氏は「端末代金が高くなっており、容量プランも大きくなっている」「近年、キャリアの携帯料金まとめ払いが増え、見た目の支払い金額が増加しているケースがある」ことを挙げている。
また注目は、2016年の調査ではスマートフォンの利用者は全体の67%だったが、2018年の調査では80%に伸びていることだ。低価格なフィーチャーフォン、いわゆるガラケーのユーザーが減ってきていること、またスマートフォン自体の販売価格も上がってきており、ハイエンドの場合、標準価格で10万円を超えるモデルも多くなっていることも、「支払い金額の上昇」につながっている。
月々の利用料金別に各種費用の満足度を見てみると、利用料金が増えるにつれ満足度が下がっていく傾向があることがわかった。
月額料金が高い人が料金に不満を持つのは当然の結果……に見える。けれども、続く調査では、「キャリアを変えたいと思っているか」「囲い込まれて出ていけないのか」とは、まったく別という調査結果が出ている。
■J.D. パワーの「2018 年携帯電話サービス 顧客満足度調査」の詳細はこちら
料金が安いから格安スマホ/SIMに転出する、という人はそれほど多くない?
野本氏によると「調査結果を見る限り、実は支払料金が多い人ほど、大手通信キャリアを移動したくないという結果が出ている」のだと言う。
支払料金別に次回の検討先キャリアを見ると、3000円未満のユーザーが大手3キャリアのみを検討しているのが36%に対して、1万円以上1万5000円未満のユーザーでは46%、1万5000円以上2万円未満以上のユーザーは48%のユーザーが、次回の検討先キャリアとして大手3キャリアをあげている。さらに2万円以上のユーザーは格安スマホ/SIMへの移行を検討しているのが12%と最も少ない。
料金を多く支払っているユーザーほど、格安への移行は検討しない傾向。」(野本氏)なお、この支払い金額の集計には携帯料金として、“まとめ払いしているものも含まれる。以前にはなかったまとめ払いによって、キャリアに支払う金額の見た目が増えている現状もある。
出典:J.D. パワー「2018 年携帯電話サービス 顧客満足度調査」
これについて野本氏は「消費者が(通信料金を)高いと感じているのは事実。ただ、それでも解約しないのは、大手3キャリアの“顧客”であること、それに伴う大手3キャリアならではのメリットを享受しているのでは」と分析する。
「今後も大手3キャリアのみを検討していくという人と格安スマホ/SIMを検討していきたいという人を比較すると、前者は支払費用に対する満足度が高いことに加えて、キャリアが提供している『各種提供サービス』に対する満足度も非常に高いという特徴がある。中でもポイントプログラムの利便性を高く評価している傾向にある」 (奥氏)。
auのau WALLET ポイントプログラムや、ドコモのdポイント、ソフトバンクのTポイント連携など、近年キャリア各社はポイント経済圏の形成に取り組んでいる。こうした一種の囲い込み施策は、一方でユーザーから評価もされており、つなぎとめにつながっているということになる。
また、他の大手キャリア独特のメリットとしては、長期間契約するサービスとのセット割がある。固定回線とのセット割引で、ドコモは「ドコモ光セット割」、auは「auスマートバリュー」、ソフトバンクは「おうち割 光セット」を提供。固定回線と組み合わせることでそれぞれ割引を受けられるものだ。
最近は通信サービスだけでなく電気料金や保険などのセット割も登場しているため、キャリアの経済圏で付帯サービスを契約したほうが「おトクに感じる」という傾向はさらに強まっている。
また動画配信などのサービスも、同様のセット割の1つ。
ドコモならJリーグ全試合独占中継でサッカーファンに人気のスポーツ番組配信「DAZN」、auならNetflixの契約がセットになった「auフラットプラン25 Netflixパック」などがある。
DAZNはドコモユーザーなら月額980円だが、それ以外は月額1750円と770円の価格差がある。これらのメリットは、ほかのキャリアや格安SIMに移行すると(当然ながら)享受できなくなる。
■J.D. パワーの「2018 年携帯電話サービス 顧客満足度調査」の詳細はこちら
野本氏は「よく2年縛りや4年縛りといった契約期間や、多種多様な生活関連サービス提供によるユーザーの囲い込みはネガティブに語られる側面もありますが、調査を見る限り、実はユーザーは“縛られて、囲い込まれている”という意識はあまりないのでは。」とも言う。
この指摘は、政府の値下げ方針を考えるうえで、見落とされがちな示唆を含んでいる。
単に携帯利用料金だけを値下げして、逆に現在提供しているサービスの質が落ちてしまうと、価格自体は安くなっても、結局ユーザーの満足度は下がってしまう。
ユーザー満足度の観点から見ると、携帯利用料金が4割下がることと同じくらい、「支払った費用に対してどれだけ満足できるサービスを受けられるか」が重要なのだ。
料金プランの見直し議論は、こうしたユーザー目線の点を踏まえるのも重要なポイントだろう。