原爆投下時の写真が印刷されたTシャツの着用とナチスを想起させるライブパフォーマンスが批判を集めていたBTS(防弾少年団)。東京ドームコンサートが行われた2018年11月13日夜、韓国の所属事務所は声明を出して謝罪した。
一連の騒動が浮き彫りにしたのは、日韓の歴史認識の相違だけではない。
NHK、フジ、テレ朝の年末音楽番組への出演は?
11月13日のBTS東京ドームコンサートにて。
REUTERS/Kim Kyung-Hoon
11月8日夜、テレビ朝日「ミュージックステーション」がBTSの過去の服装を理由に出演中止を決定。その数日後、大みそかのNHK「紅白歌合戦」、12月放送のフジテレビ「FNS歌謡祭」、そしてテレビ朝日の「ミュージックステーション・スーパーライブ」など多くの歌番組がBTSの出演打診を撤回または見送ったと複数のメディアが報じた。
Business Insider Japanでは、NHKをはじめとするテレビ各局にBTSの今後の出演予定について取材した。
NHK広報局によると、紅白歌合戦の出場歌手については「現在、検討中」。現時点でBTSがNHKの番組に「出演する予定はない」という。
2011年に韓流ドラマやK-POP歌手を歌番組に出演させることなどに対する抗議デモが起きたフジテレビは、「FNS歌謡祭」の出演者については「まだ発表しておりません」。現時点でBTSがフジテレビの番組に出演する予定があるかたずねると、「キャスティングについては、お答えしておりません」。
また同局の「ジャンクSPORTS」は10月からBTSの楽曲をエンディングテーマとして起用しているが、今後も継続するかについて「番組制作の詳細については、お答えしておりません」とのことだった。
NHKもフジテレビもテレビ朝日がBTSの出演を見送った経緯については、「コメントする立場にない」と発言を控えた。
スポンサーへの抗議呼びかける
渋谷マルイのBTSの広告。15日までの予定が「Mステ」出演見送り発表から2日後に撤去された。
撮影:西山里緒
そもそも今回のテレビ朝日の決定には「一部の偏った声に過剰に反応している」など批判の声もあった。
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テレビ朝日が出演中止を決める前から、Twitterやブログなどネット上には、BTSの活動中止を求めて行動を起こすよう呼びかける投稿が数多く見られた。
「在特会(在日特権を許さない市民の会)」元会長の桜井誠氏は11月5日のブログで、ミュージックステーションのスポンサー企業を「名だたる有名企業が反日番組に手を貸しているのかと思うと本当に残念」だとし、抗議の問い合わせを呼びかけている。
紅白歌合戦への出演反対をNHKに、また11月15日から始まるBTSのドキュメンタリー映画『Burn the Stage : the Movie』の公開中止を配給先の東宝に求めるため、抗議の電話やメールをするよう呼びかけるツイートもある。
テレビ朝日の出演中止にこれらの「声」がどこまで影響があったのかはわからないが、Business Insider Japanの取材に対し、テレビ朝日側は「電話やメールで様々なご意見が寄せられているが、詳細については従来お答えしておりません」と回答した。
広告撤去したマルイのリスク管理
「声」が上がってからでは遅いと早めの対応をした企業もある。
11月7日に発売されたBTS の日本最新シングル「FAKE LOVE -Japanese ver.-」を宣伝する垂れ幕とポスターが飾られていた渋谷マルイ。広告は当初15日まで展開する予定だったが、10日の営業時間終了後に急遽、どちらも撤去された。現在はマルイグループのクレジットカードなどの広告に差し代えられている。
その理由についてBTSの所属レコード会社・ユニバーサルミュージック広報は「掲出先の要望を受けて撤去した」と説明。
一方、掲出先である丸井グループの広報担当者は「広告主は明かせない」とした上で、「さまざまな報道をもとに広告主と協議し、早めの撤去を決めた」と話す。
「報道されていたような内容について一般の方々からの問い合わせもありましたが、決して多くはありません。数件ほどです」(丸井グループ広報担当者)
「報道されていたような内容」とは、メンバーが過去に着用していたTシャツのことなどだという。
BTS問題が日韓に投げかけるもの
2018年の「Billboard Music Awards」で。
shutterstock/Tinseltown
BTSの所属事務所は11月13日夜に出した声明の中で一連の問題点を洗い出して謝罪、自分たちのスタンスを表明した。
問題視されたTシャツについては「原爆被害者の方を意図せずとも傷つけ得ることになった点はもちろん、原爆のイメージを連想させる当社アーティストの姿によって不快な思いを感じ得た点について心よりお詫び申し上げます」と謝罪。
ナチスを連想させるライブパフォーマンスについては「“画一的な全体主義的教育システムを批判”するためのパフォーマンス」であり、「むしろ全体主義的な現実を批判するため」の創作だったと説明した。
その上で、「この度問題提起された事案だけでなく、さまざまな社会、歴史、文化的な背景に対する理解を基盤に」「私共によって心に傷を負う方がいないように、さらに注意を払います」と表明。
現在は日韓両国の原爆被害者協会の関係者にコンタクトをとり説明や謝罪をしている最中であること、ライブパフォーマンスについて批判する声明を出したユダヤ人の人権団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」には謝罪の書簡を発送したと明かした。
BTSがこうして公式に謝罪するのは、実は今回が初めてではない。2016年には「女は最高の贈り物」などの歌詞が女性差別的だとファンから批判されていたことに対し、正式に謝罪文を発表している。今後もファンと社会の指摘や助言に耳を傾け続けると誓っていた。
いつの間にかイデオロギーや自分に目覚める
9月、国連でスピーチしたことが話題になった。
Reuters/Caitlin Ochs
彼らの対応についてファンのTwitterには、安堵する声や「リスク管理として完璧」という声もある一方、「まだ謝罪が足りない」という意見も。
「防弾少年団を非難する側も、非難しない側も、『日本人は唯一の被爆国民』というナショナリズムに囚われていなかったか」「日本人にとっては、70年以上前の原爆の写真で、今でも複雑な気持ちになるわけだから、韓国はじめアジア諸国の人たちに対して、かつて日本がやったことを『いつまでも過去のことにこだわって』『これからは未来志向で』と言うことはできないよね」というツイートもあった。
「BTSの発するコンテンツを受容する存在のはずのファンたちは、あるいは自らのイデオロギーに目覚め、あるいは自らの政治性に目覚め、あるいは自分語りに目覚めることになる」
『ユリイカ』2018年11月号「K-POPスタディーズ」特集の翻訳者・すんみさんの寄稿の言葉だ。
日本社会も自身の過去と現在を省みるべきことはあるだろう。近年の日韓関係の緊張を象徴するようなこの数日間を通して、あなたは何を考えましたか。
(文・竹下郁子)