日本は外国人労働者に選ばれ続ける国になれるのか——移民論議避けて通る政府の「二枚舌」

政府は2019年度から外国人労働者の受け入れを単純労働まで広げるための新しい在留資格を設ける方針だ。受け入れ拡大のための出入国管理法の改正案がまさに今、国会で議論されており、売れ入れ数は5年間で最大34万人にのぼる見込みだ。だが、そもそも外国人にとって日本は働くのに魅力的な国なのだろうか。

群馬県の農園で働くタイ人労働者。

すでに多くの外国人が人手不足の現場で頼りにされている。今後政府は5年間で最大34万人の外国人を受け入れる方針だ。

REUTERS/Malcolm Foster

人手不足を背景に、日本では外国人の就労が拡大している。留学生が低賃金労働に就労しているケースや、技能実習制度を利用し労働力として活用されてしまう事例が問題視されているが、今回の政府の方針で単純労働を担う正式な資格ができることになる。

実は政府は今回の議論とは別の枠組みで、少しずつ外国人受け入れの方法を拡大して来ている。

その一つが、2015年7月の改正国家戦略特区法によって進んでいる経済特区での外国人家事労働者の就労だ。神奈川県などで「家事支援外国人受入事業」として家事代行の名目で外国人が来日し、就労が可能になっている。これまで家事労働者として日本で働いていた外国人のほとんどは、夫が日本人で日本に住んでいる外国人主婦や留学生だったが、こうした特区では新たに人を呼び込んでいる。

この事業に手をあげたのはダスキンやニチイ学館、パソナ、ピナイ・インターナショナル、ベアーズ、ポピンズの6事業者。3年という限定された期間での運用をしている最中だ。香港やシンガポールのような住み込みメイドを前提とせず、企業が雇用し家庭に派遣する形態をとり、給料は日本人と同等にすることが義務付けられている。

日本人でも外国人でも同賃金

なぜ彼女たちは日本に来ることに決めたのか —— 。

いち早く手を挙げ、現在63人を受け入れているパソナの、家事労働に従事するフィリピン人女性たちに取材した。

同社では、フィリピン人のヘルパーたちは日本語、日本的な配慮やマナーの研修、実技など400時間の研修を現地で受けて来日する。この枠組みで来日したジェニー(36)は7歳の息子をフィリピンに残し、香港で2年メイドをした後、カナダに渡ってパートタイムのセールスの仕事をしていたという。カナダも大好きな国だったが、もっと世界を広げたいと、日本に来ることを決めた。

パソナのフィリピン人労働者がリビングで日本語の勉強をする様子。

社宅で空いた時間に日本語の勉強をするフィリピン人女性たち。

著者提供

母親が子どもを残して他国に出稼ぎに出ることはフィリピンでは珍しくない。夫や親戚が子育てをし、母親が仕送りをするのだ。

シーラ(29)は独身。アブダビで2年住み込みメイドをしていたが、一度フィリピンに戻って3年間アメリカ人の高齢者ケアをしていた。エリザベス(41)は、5歳の子どもをもつシングルマザーだ。6年間台湾の工場で働いた後、3年ポーランドでハウスキーピングの仕事をしていたこともある。

彼女たちが口にする来日理由は、「安全」「健康的な生活」「ご飯もオイシイ」などで、日本に前向きなイメージがあることがわかる。日本語の勉強ができ、研修などでハウスキーピングの技術が上がることも魅力だったという。

パソナの枠組みでは留守宅の掃除が中心。利用者は1時間2700円〜で、1回2時間以上、月2回の利用から申し込める。 香港で住み込みメイドをした経験もあるジェニーは、「1日中、同じ家にいると自由時間も多いけど、飽きてくる。1日に何カ所か回らないといけないのはタフだけど、移動中に電車の中からいろいろな外の景色を見るのも楽しい」と話す。

パソナは来日した外国人家事労働者用に賃貸物件も用意し、2人部屋が3部屋、リビングや台所が共通の3LDKに6人が住んでいる。この住み方も、フィリピンから来た3人に聞くと、「孤独にならない」「ホームシックの時に癒してくれる」「病気のときに医者に行くのも一人暮らしでは助けてもらえない」。

パソナの担当者は、「他国と比べると物価を考慮しても給料は安定しており、個人の空間がある点もメリットではないか」と話す。

行きたい国を選ぶ

シンガポールや香港では、フィリピンやインドネシアなどからの住み込みのメイド文化があり、現地女性の就労率の向上に寄与している。

著者が滞在しているシンガポールで住み込みの家事労働者を雇うには、税金を合わせると月5~8万円程度。雇い主が直接雇用の形でビザを取得し、送り出し国が決めている最低賃金を踏まえ、出身や経験年数などにより月額を決める。

ベビーカーを押すフィリピン人ナニー(親に代わって子守や子育てを行う人)

家事労働者たちは一様に「そこに来ざるを得なかった人たち」ではなく、行き先国を選ぶ立場にあるのだ。

Issei Kato/REUTERS

メイドの手取りは月4~7万円程度。日本でフルタイムで家事代行を頼むことを考えれば激安に思えるが、シンガポールは生活コストが高く、特に家賃が高い。外国人が滞在する場合、月数十万円に及ぶ(駐在員の場合は企業補助が出るケースも多い)。メイドたちの住む部屋、食費や生活必需品は雇用主が賄うので、手取りはほぼ可処分所得になっているとみられ、彼女たちはそこから母国に仕送りをしたり、余暇に使ったり、将来の備えとする。

国同士の経済格差を利用した家事代行には「搾取」という見え方もつきまとう。実際に、シンガポールでは雇用主によるメイド虐待や、過去には不法にパスポートを偽装し低年齢の女性を送り込んでいたエージェントの報道もある。

ただし、メイドの置かれた状況も多様だ。特に、長年送り出し国となってきたフィリピンからの家事労働者は、親戚や友人が既に入国していて情報も豊富で、助け合いのネットワークも構築している。家族を母国に残し頻繁に仕送りをしている母親もいれば、いずれ国に帰ることを前提に若い間だけ違う国で暮らしてみたかったという独身女性もいる。日曜日には手に職を、と勉強にいそしむメイドもいれば、着飾って出かけていく20代のフィリピン人女性の中には高級ホテルであるマリーナベイサンズの宿泊客しか入れないプールで友達と遊んだことがある人もいるという。

つまり、家事労働者たちは全員が「そこに来ざるを得なかった人たち」というわけではなく、行き先国を選ぶ立場なのだ。日本は、人手不足で家事労働や介護などのケアを外国人に頼ろうとしたとき、彼女たちに選んでもらえるかどうかという課題にぶつかることになる。

「もの言えぬ」存在を生みやすい仕組み

コルクボードに居住者の顔写真が貼られている。

パソナでは2人部屋が3つあるルームシェア用の賃貸物件を社宅として利用し、6人のフィリピン人女性が共に暮らしている。

著者提供

法務省によれば、2017年末の日本における在留外国人数は256万人で、前年末に比べて約18万人(7.5%)増。過去最高を記録している。

あらゆる分野で人手不足になる中、日本人の生活は多くの外国人に支えられつつある。「新しい世界を見たい」という好奇心旺盛な外国人に期間限定で来日してもらう方法は、一時的にはお互いWin-Winでもあるように見える。

留守宅の掃除という分野は、家事代行の方法としては、会社が間にはいることで信頼を担保し、トラブルにも会社が対応するという意味で、取り得る選択肢の中ではもっとも無難な形態かもしれない。

しかし、一方で助けてもらう側は助けてくれる人の顔を知らず、働き手は狭きコミュニティで助け合い、気付けば日本人は多くの外国人に支えられているがその顔はよく知らない —— そういった日本の現状を象徴しているようにも見える。

恵泉女学園大学教授で移民、ジェンダー論などに詳しい定松文氏は共著書『産業構造の変化と外国人労働者』の中で、家事支援事業の枠組みについて、本来国がすべき入国のための資格の確認や管理・監視などの移民行政の一部が民間に任されており、在留資格と雇用関係が一体化しているゆえに外国人労働者が「ものを言えない」存在になりやすいと指摘している。

定住前提での議論が必要

現在の政府が決めている枠組みでは家族を呼び寄せたり、日本社会になじんで生活したりすることを想定していない。あくまでも短期で人を補い、入れ替えつづけるのだろうか。ベビーシッターや高齢者の日常的なケアに対しては、この仕組みでは機能していかない可能性がある。

カナダやヨーロッパの一部など永住権を得やすく、転職の自由があるなど家事労働者の人権が広く認められている国もある。労働者にとっては家族を呼び寄せられるかどうかも重要だが、呼び寄せたあとに子どもがきちんと教育を受けられるかといったことも気になってくる。こうした長期的な展望も含めれば、日本が外国人労働者に選ばれ続ける国になるとは到底思えない。

家事支援の枠組みとはまた異なるが、政府は2019年度から外国人労働者の受け入れを単純労働まで広げるために新しい在留資格を設ける方針だ。新たな在留資格「特定技能1号」は家族帯同が認められず、在留期限は最長で5年間。より熟練した「2号」は家族帯同が可能になり、「高度な専門人材」と同様、定期的な審査をクリアすれば在留資格も更新可能としている。

しかし、こうした方針を発表しながらも「移民」ではないと二枚舌を使い分ける政府。本来は定住を前提に社会保障や教育、社会としての受け入れについて議論をしなければならない。『新移民時代』で「未来を創る財団」代表理事の石坂芳男氏は「パッチワーク的な政策では規模やスピードが足りない」と批判。国を挙げて真正面から向き合っていくべき課題だとしている。

長期で外国人が日本社会に根付いて、ともに過ごせる枠組みは果たしてできていくのだろうか —— 。こうした「移民」議論は、すでに目をつぶっていられない状態まで来ている。

中野円佳(なかの・まどか):1984年生まれ。東京大学を卒業後、日本経済新聞社に入社。育休中に通った立命館大学大学院時代の修士論文をもとに2014年9月『「育休世代」のジレンマ』を出版。厚生労働省「働き方の未来2035懇談会」委員などを務める。2017年4月よりシンガポール在住フリーランスで、東京大学大学院博士課程在籍。東大ママ門、海外×キャリア×ママサロンなどを立ち上げる。2児の母。

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