記者会見で決算内容を説明する、RIZAPグループの瀬戸健社長。
RIZAP(ライザップ)グループが、2019年3月期の業績予想を大幅に下方修正した。
当初は、2019年3月期の通期の営業利益を230億円と予想していたが、大きく下方修正し、33億円の赤字になるとした。瀬戸健社長は2018年度の役員報酬全額を自主返上し、予想していた230億円の営業利益を超えるまで返上を続けるという。
さらに、2018年6月にカルビーから移籍した松本晃氏もCOO(最高執行責任者)から外れ、代表取締役のまま「構造改革担当」となる。新たなM&Aは凍結し、不採算部門からは撤退する。
徹底的なサポートでダイエットを成功させるボディメイク事業と、相次ぐ企業買収で急拡大を続ける同社が、突然の大幅な業績予想の下方修正に踏み切ったのはなぜか。
記者会見には、瀬戸健社長と、松本晃氏の2人の代表取締役が顔を揃えた。
瀬戸社長は「お詫び」
「期待を大きく裏切る結果となってしまいました。この場をお借りして、お詫び申し上げます」
2018年11月14日に開いた、第2四半期決算の説明会の冒頭で、瀬戸社長は深々と頭を下げた。
同社が業績予想の大幅な下方修正を迫られた要因は、無軌道ともとれる、急速なM&Aだ。2016年3月期末に23社だったグループは、2018年3月期末には75社にまで膨れ上がっている。
同社のM&A戦略は、問題を抱える企業を安く買収して、ブランドを再構築したり、出店戦略を見直したりして、再生する手法だ。買収した企業は、インテリア、アパレル、ゲームや音楽CDの小売店を展開する企業から、フリーペーパーを発行する新聞社まで、極めて幅広い。
M&Aで業績押し上げ
撮影:今村拓馬
この2年ほど、グループの業績を押し上げてきたのも、この手法と言っていい。
企業を買収する際に、受け入れる純資産(=企業が持つ資産の総額から借金などの負債額を差し引いた残り)の額を下回る価格で買収した場合、「負ののれん」が計上される。この安く買えた差額分は、収益として計上されるので、一時的な業績向上をもたらす。
ただ、純資産額より安く買えてしまうのには、さまざまな「ワケ」がある。会見の席上、松本氏は買い叩いたそれらの会社の現状に対して、次のように指摘した。
「子会社をまわってみると、結構壊れている。たくさん買った会社の中で、不況産業があるんじゃないか。不況産業は右肩下がりですから、だれがやったって、しんどい」
同社の説明では、グループ入りしてから1年以内の企業を中心に、経営再建に手間取ったことが、営業利益を71.6億円下方修正した理由だという。
2018年3月にグループに入ったワンダーコーポレーションは、音楽CDやゲームの販売不振で、減収減益だった。フリーペーパーを発行する「ぱど」も、発行回数を減らした結果、売り上げを減らした。
「先送り体質」を改善できるか
記者会見で質問に答えるRIZAPグループの松本晃・代表取締役(構造改革担当)。
ライザップは今後、買収した企業の不採算事業や、店舗の撤退などを進めるが、こうした「構造改革」に必要な費用として83.5億円を計上している。
買収した企業の再生に注力し、再生のめどが立ってから次の会社を買収するのが本来の姿だが、瀬戸氏は「結果として、再生を実現する前に、新たなM&Aをしてきた」と説明する。
こうした手法を大幅に見直し、ライザップは、買収した企業の再生に一定の道筋が見えるまで、新たなM&Aを凍結する。
また、ボディメイクやヘルスケアといった、グループ本来の主力事業とのシナジー(相乗効果)が見込みにくい企業についても、見直しを進める。すでに、ゲームセンターやボウリング場などを展開するSDエンターテイメントのエンターテインメント事業の譲渡が決まっている。ほかにも、グループ内の企業の売却や、似た業態の企業どうしの経営統合などを進める方針だ。
これまで、「負ののれん」で収益を押し上げる手法は「損失の先送りだ」とも指摘されてきたが、今回、業績予想の大幅な下方修正に踏み切ることで、先送り体質を改める方向にかじを切ったともいえる。
「8月の後半ぐらいから、瀬戸さんとはずいぶん話をしてきた」と話す松本氏は、COOを降り、「構造改革担当」としてグループの建て直しに注力するようだ。今後、グループの企業統治のあり方なども含め、瀬戸氏にアドバイスを続けていく考えだ。
「私と瀬戸さんの対立は一回もない」と、松本氏は強調した。
(文・写真:小島寛明)