撮影:今村拓真
急激な拡大を続けていたRIZAP(ライザップ)グループの膨張が止まった。
業績予想を大幅に下方修正し、通期の純損益が赤字となる見通しを発表した翌日にあたる2018年11月15日、ライザップ株はストップ安にまで値を下げた。
同グループのビジネスモデルは、「結果にコミットする」だ。顧客に高い目標を設定させ、徹底的に寄り添い、2〜3カ月の短期間でダイエットを成功させる。
これまでの同社の経営手法も、まさにこの言葉を想起させる。高い目標をかかげ、業績見通しを上回る結果にこだわるあまり、無軌道な買収を繰り返してきた。
同グループの関係者は、Business Insider Japanの取材に対して「結果にコミットしようとしすぎた面がある」と指摘する。創業者でもある瀬戸健社長は、2021年3月期の連結売上収益3000億円、営業利益350億円を目指していると公言していた。その数字に縛られ過ぎてしまったのか。
業績修正の主導は松本氏か
ライザップのIR情報で掲出されている11月15日時点の終値。
撮影:Business Insider Japan
今回、業績予想の修正を主導したとみられるのは、6月に就任した松本晃代表取締役だった。就任当初は、「まだ、会社の中身がよくわからない」ととぼけていたが、2カ月ほどで、腕をふるい始める。
ライザップのCOOを退任、代表取締役のまま「構造改革担当」となった松本晃氏(2018年11月14日、第2四半期決算説明会で撮影)。
撮影:小島寛明
松本氏はライザップに入社後、買収した会社の中から15、16社には実際自分から訪ねていき、経営陣だけでなく、若手社員の話にも耳を傾けてきたという。買収先の実態が分かるにつれ、
「新規のM&Aはフリーズしてください」
「最近買った会社の中に、しんどい会社がある。資産を洗い直して、しっかりした成長戦略をつくったほうがいい」
8月末以降、瀬戸健社長に繰り返し進言してきた。
また取締役会でも上がってきた買収案件に対して、「反対」という立場を貫いてきた。11月14日の決算発表会当日の取締役会では、「みんなで言いたいことを言おう」という松本氏の呼びかけに、数人から今の“膨張路線”に対する反対や反省が出たという。
「負ののれん」はリスクの大きさ
同社はこの数年、急速なM&Aを重ねてきた。2016年3月期末に23社だったグループは、2018年3月期末には75社にまで膨れ上がっている。この2年で52社を買収したことになる。同社には常時数十件の買収案件が持ち込まれていたという。
ライザップは過去3年間で、売上収益が4.2倍に成長したとしているが、この成長の裏には、買収に伴う「負ののれん」がある。
企業を買収する際に、受け入れる純資産(=企業が持つ資産の総額から借金などの負債額を差し引いた残り)の額を下回る価格で買収した場合、「負ののれん」が計上される。
この安く買えた差額分は、収益として計上されるため、一時的な業績向上をもたらす。
安く買える商品には、理由がある。「負のののれん」の大きさはリスクの大きさとも言っていい。
赤字企業を買えば買うほど、収益は増える。とくに、この1、2年は規模の大きな企業の買収も重ねているため、「負ののれん」の額は膨れ上がっていたようだ。
グループの関係者は、「毎年の決算にこだわるあまり、だんだんと『負ののれん』の大きな企業の買収が魅力的に見えてきたのではないか」と指摘する。
修正前、同グループは2019年3月期の営業利益を230億円と予想していた。このうち、100億円ほどが「負ののれん」による収益を見込んでいたようだ。買収する前から「負ののれん」を見込んで、業績を予想していたことになる。今回、新規のM&Aを凍結したことで、この分の収益はマイナス計上された。
買収企業の業績で苦しむ
記者会見で決算内容を説明する、RIZAPグループの瀬戸健社長。
撮影:小島寛明
同グループが苦しんでいるのも、最近買収した企業の業績だ。
2018年3月にグループに入ったワンダーコーポレーションは、CDなどを販売する新星堂、ゲームソフト、CDなどを販売するWonderGOO(ワンダーグー)などを展開する企業だ。ゲームや、音楽CDの不振で、上期は大きく営業利益を下げた。松本氏が言う「しんどい会社」の一つとみていいだろう。ワンダーコーポレーションは、構造改革関連費用として39億円を計上し、店舗の撤退などを進めるという。
構造改革が必要な最優先の企業として同グループが挙げているのは、MRKホールディングスと「ぱど」だ。
フリーペーパーなどを発行している「ぱど」は、2017年3月にグループ入りしたが、紙媒体向けの広告の不振などから、苦境にある。また、女性向け矯正下着を製造・販売しているMRKホールディングスは、2016年7月にグループ入りしたが、広告宣伝費の増加、新規出店などから、業績予想を大幅に下方修正した。
2018年7月30日に開かれた社員総会。2170席がほぼ埋まった。いまライザップが直面しているのは、まさに全社員の力を結集して乗り越えなければならない苦境だ。
撮影:今村拓真
「何度も何度も松本さんと議論をし、しっかりと現状と向き合って、損失を確定すべきと決断した。今回(松本氏に)来ていただいて、私自身、決断することができた。短期的には、期待を裏切っていることになるが、中長期的には、今やるべきだったと思っていただけるように決断をした」
11月14日の決算発表の席で、瀬戸社長はこう説明した。
ボディーメイクやゴルフなど、本業のライザップ事業はおおむね好調だ。
決算発表に同席した松本氏は「瀬戸さんは、ヘルス、ビューティー、自己実現、自己投資の会社をイメージしていたと思う。それとは違うものもある」と指摘する。
この2年間にグループが買収した企業の中には、本業との親和性があまり想像できない企業がいくつもある。ライザップは今後、事業の核である健康や美容とかけ離れた分野の企業をどのように整理し、建て直しを進めていくのだろうか。
(文・小島寛明、浜田敬子)