アリババ、ファーウェイの若手社員たちと話して感じたこと —— 大ベストセラー『アホとは戦うな!』著者の訪中記

独身の日 アリババ

2018年11月11日、アリババのショッピングイベント「独身の日」は1日で約2135億元(3.5兆円)の取引高を記録した。

REUTERS/Aly Song

中国EC最大手のアリババが11月11日に開いたショッピングイベント「独身の日」の売り上げ(約3兆5100億円)は、10年目にして、ついに楽天の国内流通総額(約3兆4000億円)を越えました。

年一度の特別な日とはいえ、1日の売上高と1年の流通総額が一緒というのは……人口の差によるところはもちろん大きいのですが、両社はもはやプラットフォーマーとしての規模がまったく違うのです。三木谷浩史社長は「ECはもはや情報を集める道具の一つ」と発言されていますが、その楽天を規模で圧倒するアリババに集まるデータ量にはすさまじいものがあります。

喋り続ける中国のビジネスリーダー

アリババ 本社

中国・浙江省杭州市にあるアリババ本社の外観。

REUTERS/Aly Song

「独身の日」の数日前、中国・浙江省にあるアリババ本社を視察してきました。国立シンガポール大学(NUS)で私が主催するビジネスリーダー向けのエグゼクティブ・エデュケーション「中国市場進出プログラム」の一環で、NUSの分校キャンパスとファーウェイの研究所がある蘇州市、アリババ本社がある杭州市を、日本の起業家たちと回ったのです。

蘇州キャンパスでは、中国を代表する政治経済の研究者や、巨大テクノロジー企業のリーダーたちによる講義を聞き、ディスカッションをしました。中国のビジネスリーダーたちはエネルギーのかたまりのような方ばかりで、私はプログラムの主催教員として講義の進行を仕切らないといけなかったのですが、質疑応答やタイムキープのために彼らの話を止めるのが困難でした。

国立シンガポール大学

中国・江蘇省蘇州市に置かれた国立シンガポール大学蘇州研究所。

撮影:田村耕太郎

アリババやファーウェイを訪問して感じたのは、中国関連の記事でもよく指摘されるように、やはり社員の皆さんがよく働くこと。直接聞いてみると、ひたすら激しく、楽しく、長く働くのです。

シンガポールに暮らし、中国を含めたアジアを行き来する私の目には、日本に帰るたび、日本と連絡をとるたびに、休みだけがどんどん増えているように映ります。一人当たりの生産性の低さが問題となり、それについては特段の解決策が導入されたわけでもないのに。

「働き方改革」の掛け声も大事だとは思いますが、それがあまりに均質的に推し進められているために、休むことだけが奨励されている印象を受けます。

アリババの若手社員から聞いたこと

アリババ 本社

中国・浙江省杭州市にあるアリババ本社の内部。

撮影:田村耕太郎

アリババで働く若手からは、こんな声が聞かれました。

「社員の多くは、その日のうちに帰りません。ここで働いていると自分の成長を感じられますし、何よりいろんな仕事に好奇心があります。週末も英語やコーディング、財務を勉強しているのですが、ここではその取り組みが給与に反映されます」

「遅く帰る社員の食費や交通費は会社がサポートしてくれます。仕事が忙しくて社外での異性との出会いがあまりないので社内結婚が多いのですが、その分、(アリババ)創業者のジャック・マー会長が自ら出てきて祝ってくれる喜びがあります」

「異動があるとしたら、アリババのエコシステムの中のまったく違う事業をやってみたい。上司には異動を止める権利はありません。希望する先の部署の上司に認められれば、異動は叶います。ただし、そのためには今の部署で同僚たちより早く実績を出さないといけないのです」

中国人の海外留学生数は年間60万人を超えており、そのうちアメリカへの留学生は35万人にのぼると言われます。これはアメリカに渡るすべての留学生の約35%を占め、インド人(18%)の2倍近い数字です。一方、日本人のアメリカへの留学生数は約2万人。中国の17分の1以下ですから、人口比以上の差があります。

アメリカ留学すればビジネスリーダーになれる可能性が高まると、必ずしも言えるわけではありませんが、35万人ものアメリカ留学生の多くが成長市場である母国・中国に戻り始めている現状を目の当たりにすると、日本が近い未来に中国とまともに競い合えるとは思えなくなるのです。

「喜んで、長時間、激しく」ことが生む付加価値

ファーウェイ Mate20

ファーウェイのフラッグシップ「Mate 20」シリーズの広告。2018年第2四半期、同社のスマホ販売台数シェアはアップルを追い抜いて世界第2位だった。

REUTERS/Stringer

とにかく、中国の巨大企業は人材投資を惜しまない印象を強く受けました。

アリババもファーウェイも巨大になり、これまでのような急成長は望めないでしょうから、それを前提としてきたこれまでの(残業や休暇などの)人事制度に問題が出てくるかもしれません。

しかし、すでに両社の莫大な投資を受けた数万人の人材が、実利主義のもと、嬉々として長時間激しく働けば、生み出す付加価値は何であれケタ違いになります。付加価値の産出量は「生産性×人口×資本×時間」なので、当然のことです。

いまだに中国の台頭を認めたくない日本人も少なからずいるようですが、この数式を前に、いったい何を根拠に中国に対して上から目線でいられるのでしょうか。私はもちろん、「日本人よ! 長時間労働を再評価せよ」などと言いたいのではありません。「少子高齢化する日本はこれから先、この掛け算のどこで勝負するのか?」を問うているのです。

「中国はダメだ」と語る中国人たちの思惑

ファーウェイ 研究所

「中国市場進出プログラム」の一環で、ファーウェイの蘇州研究所を視察した時の模様。

撮影:田村耕太郎

今回の蘇州・杭州滞在で面白かったのは、中国のビジネスリーダーたちが「中国はダメだ」と口にするようになってきたことです。さまざまな背景があるのでしょうが、その一つとして、自国の弱点を強調できるくらい自信ができてきたことが挙げられると思います。

中国人のビジネスリーダーたちはしたたかで、プライドより実利を取ります。だから必要とあらば、「中国の台頭を認めたくない日本」にいくらでも頭を下げることができるのです。

日本では、中国を非難する誤解に満ちた書籍やオピニオン記事が一部に人気で、そうした煽る言説に溜飲を下げる人たちが間違いなく一定数いるようです。そんなことをして、いったい後に何が残るのでしょうか。ここで議論をするつもりはありませんので、このくらいで止めておくことにします。

これからの日本経済の命運は、隣に位置する世界最大の経済フロンティア、中国とどう向き合うかにかかっています。そのためにも、中国市場の現状を数字にもとづいて把握し、現場をしっかり見た上で、中国に対する理解や評価を行うべきではないでしょうか?


田村耕太郎(たむら・こうたろう):国立シンガポール大学リー・クワンユー公共政策大学院兼任教授。ミルケン研究所シニアフェロー、インフォテリア(東証上場)取締役、データラマ社日本法人会長。日、米、シンガポール、インド、香港等の企業アドバイザーを務める。データ分析系を中心にシリコンバレーでエンジェル投資、中国のユニコーンベンチャーにも投資。元参議院議員。イェール大学大学院卒業。著書に『君は、こんなワクワクする世界を見ずに死ねるか!?』など多数。

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