「携帯料金は本当に4割値下げできるのか?」
2018年8月21日の菅官房長官の「4割値下げ」発言を皮切りに、通信業界だけではなく日本全体で注目されている話題だ。
なぜこのタイミングで政府はキャリアに値下げを迫るのか? 4割値下げの根拠はどこにあるのか? 11月9日放送のNewsXで、衆議院議員で前総務大臣政務官の小林史明氏と、スマホジャーナリストの石川温氏を交えて激論を交わした。
料金値下げの取り組みは「今」始まった話ではない
NTTドコモでの勤務歴もあり、前総務大臣政務官を務めた参議院議員の小林史明氏。
そもそも何故、このタイミングになって政府は通信キャリア3社に対し、通信費の値下げを求めるのか。
時期を考えると、2019年10月に8%から10%への消費税増税、夏には参議院選挙を控えている。政府与党としては、増税によって固くなる消費者の財布の紐を少しでもゆるめる意図があるのではないか。さらには選挙対策の意味合いもあるのではないか。
これに対して、小林氏は「(そもそも)前段はあった」と増税や選挙を機に通信費の話を持ち出したのではないと語った。
小林氏「政治的な観点で見ると、増税や参議院選があり、そのような見方もできる。ただ、私は過去(経緯)を見て欲しいとも思う。
昨年(2017年)8月から(総務)政務官を務めたが、その直後に通信3キャリア(MNO)と、いわゆる格安SIMを提供する事業者(MVNO)とモバイル市場の検討会を開いた。当時、市場では競争がうまく働いてないんじゃないかという話をした。
その結論が出たのが(2018年の)7月。小さなことから大きな事まで改革をすると言い、これでかなり市場が動くという空気感と具体案が出ていた。
(中略)
また、規制改革会議で防衛省が当時持っていた電波を民間に開放しようという意見を出した。結果、解放したことで4キャリア分の電波が空き、楽天が手を挙げた形になった。
競争が激化する仕組みができる、楽天が参入する。ということは、(通信費)絶対に下げられると、自信を持ってお話できるようになったのがこの時期(2018年8月)ということだ」
「4割値下げ」の背景にある、公取委とアップルの動き
長年、スマートフォンを含む携帯電話業界を追い続けているジャーナリストの石川温氏。
石川氏は政府の取り組みを認めつつも「菅さんが言う前は、非常に良いバランスが取れていた」と、「4割値下げ」発言の是非に疑問を投げかける。
例えば、NTTドコモが通信料金を4割値下げすれば、格安SIM(格安スマホ)の価格帯にかなり近くなる。となれば、通信速度などで差のある格安SIMを選ぶ需要は自然と縮小する。せっかく盛り上がった格安スマホ市場が縮小するのではないか、という意見だ。
石川氏「格安スマホが盛り上がっていた一方、キャリアが(このままの高止まりは)マズいなということに気が付き始めた。例えば、去年KDDIが分離プランを取り入れたり、他のキャリアも動きを見せていた。
そこで、本当に高いと思った人は格安スマホに行けば良いし、そのままでも良いという人はキャリアを選べば良かった。菅さんがああ言ったことで、このバランスが崩れ始めた気がする」
これに対し小林氏は「これが政治の醍醐味であり、難しさである」と返す。
小林氏「(値下げを実現するための)弾は整っていた。でも、窓が半開きだった。これをドンと開けるために、問題提起をして、報道のみなさんにも書いていただき、(それによって)国民も気がついて、やっぱり(料金には)納得がいかないよねとなってくる。すると、お客様を見ている通信キャリアも、新しいプランを考えなきゃいけないと(なった)」
また、こうも続ける。
小林氏「もう1つ、NTTドコモが新しい料金プランを出してくるというところの一番大きなポイントは、公正取引委員会がアップルに入って、iPhone Agreementと呼ばれるところに切り込んだ。つまり、“NTTドコモさん、あなたたちにiPhoneを売るということは、年間何万台売っていただいて、何本くらいCMを売ってもらわないといけません”こういうことを全キャリアとやっている。こんなメーカーはほとんどない。
これ(この縛り)があると、端末と通信をセットで売らないといけなくなる。そこにメスが入ると、ついに、端末と通信を分けて売っていいよと(なる)。これは通信キャリアは昔からやりたかったことのはず。(公取委のメスで)アップルとの関係も整理できそうだ、と。それでは、楽天も参入してくるし、ジリジリやるくらいなら、今まで温めていたプランで先に行こうじゃないか ── というのが、私はドコモの戦略なんじゃないかと思う」
消費者が声をあげないと通信料金は安くならない
現在決まっている限りでは、2019年4~6月にNTTドコモが端末と通信料金を切り離した新プランを発表、10月には楽天のキャリア事業参入が予定されている。それまでの間、3キャリアのユーザーはどうすればいいのか。
石川氏はユーザーという立場で、できることがあると語る。
石川氏「政府もキャリアもどっちも信じてはいけない。値下げが本当にできるかはわからない。ユーザーとして自分への請求書を見て、ちょっとでも安く使えるように勉強をする。自分から動かないと安くはならない」
一方で、小林氏は国民とコミュニケーションをしっかりとりながら政策を進めていきたいと語る。
小林氏「私はまだ政治歴が6年だが、大きな反省があると思っている。それは、今までの政治行政が“作って終わり”だったことだ。それは本当に国民のみなさんに届いていたか。その通りに国の形が変わっていたかと言われるとそうではないかもしれない。ヒト基点でちゃんと見て、背景と目的を伝える。そういうことをやっていきたい」
石川氏の言う通り、月々の通信料金が下がるかどうかは、まだ不明瞭な点が多い。分離プランでは端末代の補助がなくなるため、月々の「通信料金」は下がっても、総額にはほぼ変化がないということもあり得るからだ。
今後発表される新料金で「値下げをした」という大手キャリアの発表をただ鵜呑みにするのではなく、本当にどれくらい安くなったのかを確認する。さらに、実際に安くなっていないのであれば「変わっていない」と発言していく。
そういった行動を起こすことから、私たちを取り巻く毎月の通信料金は、本当の意味で「安く」なっていくのではないか。
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(文・小林優多郎)