「企業は社員を投資家と思え」社員クチコミのVorkersと人事コンサルのタッグで採用は激変する

リンモチ

精度の高いクチコミはじめ、情報のちからで、個人と会社の関係は大きく変わろうとしている。

クチコミにより、採用が大きく変わろうとしている。

2018年秋、人材業界で注目を集めたのが、人事コンサル大手のリンクアンドモチベーションの22.5億円出資により、同社と転職・就職クチコミサイト「Vorkers(ヴォーカーズ)」が手を組んだニュースだ。

日本ではトップクラスの規模をもつVorkersの社員クチコミは、ユーザーからの信頼性の高さから、採用現場で大きな存在感を持ち始めている。企業が「人材を選ぶ」時代から、企業と個人が互いに選び選ばれる時代へ。

大きなパラダイムシフトが起きると予言する、リンクアンドモチベーション取締役で、10月にVorkers副社長に就任した麻野耕司氏と、Vorkers社長の増井慎二郎氏に、就職・転職の現場に起こりつつある変化と狙いを聞いた。

Vorkersのプロダクトに惚れ込んだ

麻野:純粋に可能性を感じたんですよ。こんなにいいプロダクト(製品)の発展に貢献できるのは素晴らしい。ただ、20%の出資で、M&Aとは違いますよ。あくまでVorkersは独立路線で、上場を目指したい。リンクアンドモチベーションのリソースを使いながら、さらに飛躍するという目的です

東京・渋谷駅からほど近い、Vorkers本社のロングテーブルに、リンクアンドモチベーション取締役の麻野氏と、Vorkers社長の増井氏は並んで座り、打ち解けた様子で話し始めた。

増井:麻野さんとであれば、なぜ企業が働きがいを社員に提供することが大切なのかについて、経営目線とジョブマーケット目線で、議論を深められるのではと。

麻野

リンクアンドモチベーション取締役で、10月にはVorkers副社長も兼務する、麻野耕司氏。

いずれも関西出身で同年代の2人の掛け合いは、まるで旧知の間柄のようだが、知り合ったのはこの1年内で、きっかけはメディアの対談だったという。

リンクアンドモチベーションの事業の中心は人事コンサル。だがこれまでも、ゲームのアカツキや、印刷コマースのラクスルなどへ出資し、IPO(新規上場)に導いている。

Vorkersへの出資もまた、そのプロダクトにほれ込んだ、麻野氏が主導した。

Vorkers:「情報で個人をエンパワメントすることで労働市場を変える」を掲げ、人材業界を経た増井氏が2007年に創業。「社員によるクチコミ」という特徴に加え、投稿の際の高いハードルや機械学習と目視双方による厳しい審査により、日本最大級の就職・転職情報プラットフォームに成長。登録ユーザー数は256万人(11月19日時点)。売上高は7億7500万円、営業利益は4億1300万円。

リンクアンドモチベーションによる出資で、Vorkersは同社の持分法適用会社になる。Vorkersの業績は今後、リンクアンドモチベーションの連結財務諸表にも反映される。しかも麻野氏は、Vorkersの副社長を兼務する。

転職・就職クチコミのプラットフォームとして頭角を現すVorkersが、この提携を契機に、新たな変化を遂げようとしていることは明白だ。

「採用支援というBtoB」を強化する理由

増井氏

Vorkers 創業社長の増井慎二郎氏(右)。「情報で個人をエンパワーメントしたい」と語る。

提携により強化するのが、Vorkersリクルーティングという、企業向けサービスだ。

増井:これまでVorkersは求職者に情報を提供するというBtoCのビジネスモデルでやってきましたが、リンクアンドモチベーションと手を組むことで、今後はBtoB分野を開拓できる。

Vorkersの従来のモデルは、リクルートやエン・ジャパンなどの人材紹介会社への登録によってクチコミを見られるようにすることで、送客手数料を得てきた。

それと並行しつつ、Vorkersリクルーティングでは、Vorkers自身がダイレクトに企業と求職者をつなぐ採用支援を行う。

Vorkersリクルーティングサービスの流れ

  1. 企業は求人を掲載
  2. 登録ユーザーを検索し、学生でも社会人でもスカウトを送れる。企業が採用のためのスカウトを送れる数は、社員からの評価スコアに比例する。
  3. 社員からの評価スコアが高い企業が求職者から見て、より上に表示される。
  4. 入社決定時点でVorkersは企業から手数料を得る。

評価スコア3.5以上の企業は、全体のわずか1%というから高いハードルだ。そこにリンクアンドモチベーションが登場する。麻野氏は言う。

麻野:今、周囲の経営者でも、クチコミを分析して経営やマネジメントに活かしているという会社が、増えています。しかし99%の会社はスコアが3.5未満。どうやったらクチコミ評価が上がるのかという問い合わせを頂くことが多くて。これは地道に組織をよくしていくしかない。そのツールとして「モチベーションクラウド」を紹介します。

モチベーションクラウド:リンクアンドモチベーションの組織改善モデル。従業員へのアンケート調査を元に、組織の問題点を洗い出し、行動計画を策定・実行することで改善につなげる、独自のコンサルツール。

クチコミで応募数は倍以上変わる

若手のさいよう

超高齢社会の日本の労働市場で、若手人材の採用はますます難航する(写真はイメージです)。

企業がクチコミを気にするのも無理はない。増井氏は、クチコミ評価はそのまま「企業の採用力に影響している」と指摘する。クチコミの評価が4点と2点の企業では、倍以上、応募の数が変わるという。

さらに、Vorkersにとって魅力的なのが、リンクアンドモチベーションの強力な法人営業力だ。

増井:BtoBはリンクアンドモチベーションが信頼をつくってきた分野。これまでVorkers単独では話を聞いてもらえなかった企業が、耳を傾けてくれている。マッチングまでのプラットフォームがより強力になる。

リンクアンドモチベーションからは10人の特命部隊がVorkersに送り込まれ、麻野氏も週1度は渋谷のオフィスにやってくるという。

こうしたクチコミ評価にひもづく採用支援モデルを使うことで、企業側の最大のメリットは「入社後」にあるという。

増井:クチコミを通じて入社した人の方が離職率低いというデータがある(Vorkers調べ)。クチコミサイト利用による入社は、会社とのエンゲージメント(結びつき)につながっている。

ルーブル美術館にはゴミが落ちていない

それでは数あるクチコミサービスの中で、Vorkersが企業も注目する「信用」を得ているのはなぜか。

  • 500文字以上の投稿を要件とする、正社員、契約社員として1年以上勤務していることなど高いハードル。
  • ギフト券贈呈など、投稿誘導を一切つけない。
  • 掲載までにクチコミを全件、厳正な審査。
  • クチコミの数ではなく質を追求。

といった具体策に加え、増井氏はルーブル美術館の例えを使う。

「ルーブル美術館にはゴミが落ちていないように、きれいなところにゴミは捨てられない。いかにそういう状態を維持していくか。うちの社員たちにそういう意思があるかどうか。僕自身もいまだに、目視でサイトをチェックしています。AIやテクノロジーの話ができればよかったのですが(笑)」

個人に選ばれる会社はホワイト企業よりむしろ……

増井氏と麻野氏(左)

企業が上の立場から個人を採用するのではなく「個人も企業も選び選ばれる時代が来る」と話す麻野氏(左)と増井氏。

世界最速の少子高齢化による人口減少時代を迎え、日本の会社はかつてない採用難に直面している。

有効求人倍率、転職求人倍率は高いまま推移し、新卒の採用充足率は常に目標を下回るなど、あらゆる指標はそれを如実に物語る。さらに、20年後には全人口の4割近くが65歳以上の高齢者という国で、若手の採用が今以上に難航するのは明白だ。

かつて、年功序列で上がる報酬、終身雇用、老後を支える退職金などと引き換えに、大量の新卒を「一括採用」できた企業も、大きな方針転換を迫られている。

麻野:旧来型の雇用システムと引き換えに、企業が個人を選ぶのではなく、これからの世の中は、個人も企業も選び選ばれる時代が来ると、捉えています。

では、個人に「選ばれる会社」とは、どんな会社なのか。

増井:我々の(クチコミによる)スコアは働きやすさより働きがい。仕事の熱量の高い会社は、評価が高くなる傾向があります。仕事に対する思いの高い人に、うまくチャンスを与えている企業は、スコアが高くなる。

グラフ

日本の高齢化率(65歳以上年齢の占める割合)は右肩上がりで、20年後には4割近くとなる。

出典:総務省統計トピックス

ハイスコアの企業は、福利厚生のいい、いわゆる"ホワイト企業”というよりむしろ、高いミッションとハードな働き方を求められる会社が目立つというのだ。麻野氏が注目するのは、個人と会社の関係性だという。

麻野:個人と企業が対等であるという考えをもっている会社も、(クチコミのスコアは)高くなる傾向があります。社員をしばっていないからこそ、魅力を届けなければという意識が高い。

例えば、離職時の扱いにも「対等」な関係は表れる。

大企業を中心に、終身雇用の思想が一般的な世界では、離職はときに「裏切り者」扱いだ。新卒一括採用の組織で、コストと時間をかけて一人前にした社員が辞めてしまうのは、企業にしてみれば想定外であり"コスパ”が悪い。

しかし、会社を辞める時にも、迎える時と同様、無下にしない会社が選ばれているという。

麻野:社員が離れたときに裏切り者と思うのか、魅力が足りなかったと思うのかの違い。社員は家族というより投資家という方が、これからの時代に合うのではと思っています。家族はずっと一緒に居続ける。投資家ならば、投資してもらえるように会社を磨く必要がある。

両社のタッグが、個人と会社の関係、そして労働市場そのものをどう変えていくのか。業界内外から注目が集まっている。

(文・滝川麻衣子、写真・今村拓馬)

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