YouTube Musicは「音楽産業」と「YouTube」対立の雪解けなのか?

YouTube Music

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YouTubeが手掛ける音楽ストリーミングサービスYouTube Musicが、11月14日より日本でもサービス開始となった。

サービスの大きな特徴はフリーミアムモデルをとっていることで、広告付きだが無料で利用できるYouTube Musicと、広告が表示されずスマホでバックグラウンド再生やオフライン再生も可能な有料版YouTube Music Premiumの2種類が用意されている。プレミアムの料金は月額980円(iOS版は月額1280円)だ。

また、音楽以外の動画も広告なしで再生でき、オリジナル作品の視聴も可能なYouTubeの有料版YouTube Premiumもサービスが開始した。こちらの料金は月額1180円(iOS版は月額1550円)。

Apple MusicやLINE MUSIC、SpotifyやAWAなど各社がサービスを開始し、音楽ストリーミングサービスが普及フェーズに入りつつある今、YouTube Musicのスタートはどんな変化をもたらすのか。

伊藤有副編集長、ITジャーナリストの西田宗千佳氏が、それぞれYouTube Musicの意味合いを解説している。サービスの詳細やグーグルの狙いについては、こちらの記事も参照されたい。

この記事では、日本と世界の音楽業界の現状を紐解きつつ、YouTube Musicのスタートがこの先の音楽シーンにもたらす大きな変化の可能性について語っていきたい。

「ストリーミング後進国」日本だからこそ可能性がある

音楽を聴く女性

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まず前提として言っておかねばならないのは、いまや海外と日本では音楽業界のビジネスモデルが全く違ったものになっている、ということだ。

2018年上半期の音楽市場の内訳を見ても、アメリカでは売り上げの75%がストリーミングからもたらされている一方、日本ではCDやレコードが51%といまだ市場の過半数を占め、ストリーミングは11%ほどにとどまる 。

ヨーロッパでは、日本についでCD中心の音楽市場だったドイツでも、2018年上半期にはストリーミングのシェアがCDを逆転し最大の収益源となった 。

音楽配信売上の内訳/グラフ

2018年音楽配信売り上げの内訳・日本/アメリカ

出典:一般社団法人日本レコード協会/MID-YEAR 2018 RIAA MUSIC REVENUES REPORT

世界的にほぼ唯一の「ストリーミング後進国」となった日本だが、YouTube Musicのスタートをきっかけに、今後は国内でもストリーミングのシェアは増えるだろうと思われる。

YouTube Musicと他のストリーミングサービスとの大きな違いは、ストリーミング配信された楽曲とYouTubeに投稿されたミュージックビデオなどの音楽関連動画をシームレスに楽しめることにあるからだ。

現時点で、日本ではサザンオールスターズや星野源やback number など「YouTubeに公式のミュージックビデオは公開しつつ、Apple MusicやSpotifyなどのストリーミングサービスに音源を解禁していない」人気アーティストが存在する。

また、長らくネット上での音源や動画の発信を行ってこなかったジャニーズ事務所所属のグループも、2018年より「ジャニーズJr.チャンネル」をYouTube上に開設し、SixTONESなどのグループのミュージックビデオを公開している。

そうしたアーティストのファンはYouTube Musicを積極的に選ぶだろう。

日本では若年層を中心にYouTubeを主な音楽視聴メディアとして利用している層は多い。そうした人々がバックグラウンド再生やオフライン再生のために違法アプリではなく公式のサービスを使うようになれば、日本の音楽配信市場のあり方も変わり、ストリーミングがより一般的になっていく可能性が高い。

YouTube Musicが音楽業界に与えるインパクト

では、海外の音楽業界において、YouTube Musicのスタートはどんな意味合いを持っているのか。

一つ目に言えるのは、おそらくこのサービスが、ここ数年続いてきたYouTubeとグローバルな音楽業界との対立の雪解けの象徴になるだろう、ということだ。

そのキーマンはリオ・コーエンである。2016年秋よりYouTubeの音楽部門の総責任者を務める人物だ。

リオ・コーエン

音楽業界の重鎮であるリオ・コーエンがYouTubeに移籍したことで、音楽業界との関係は確実に変わっていくと見られている。

REUTERS/Eric Gaillard

国際レコード産業協会(IFPI)は、ここ数年、YouTubeを名指しで批判してきた。広告収入のみに依拠し有料モデルのないYouTubeは、Spotifyなど他のストリーミングサービスに比較して再生回数あたりの権利者への支払額の割合が低いと指摘し、敵視してきた。

こうした状況を受け「YouTubeと音楽業界との橋渡しをしたい」と現職に転身したのがリオ・コーエンだ。

ヒップホップ界の伝説的グループRun-D.M.C.のマネジャーとして音楽業界でのキャリアをスタートさせた彼は、1980年代にレーベルDef Jamの設立に携わり、ワーナー・ミュージック・グループのCEOを経て、2010年代に入ってもインディーズレーベル「300 Entertainment」を立ち上げMigosやYoung Thugを世に送り出すなど、数々のラッパーたちをスターダムに押し上げてきた。

その一方で、リオ・コーエンはワーナーミュージック・グループ時代にメジャーレーベルとして初めてYouTubeとライセンス契約を結ぶなど、音楽業界においていち早くデジタルへの理解を見せた一人である。

すなわち、ヒップホップカルチャーの立役者であり、アメリカ音楽業界の重鎮である彼は、YouTubeと音楽業界の対立を解消するにはうってつけの人物というわけなのである。

さらに、彼のもとで有能な人材も集められている。たとえば、6月にはSpotifyで最も影響力があると言われるプレイリスト「RapCaviar」のキュレーターをつとめてきたTuma BasaがYouTubeでアーバンミュージック担当ディレクターに就任したことが発表された。

YouTube Musicは、音楽産業側の視点から見ると、これまでは基本的に広告付きの無料モデルであるがゆえに権利者への支払額の割合が低かったYouTubeをフリーミアムモデルの音楽ストリーミングサービスへと変化させ、より権利者への支払額を正当なものにしていくためのサービスと言うことができる。

この方向性でどれだけSpotify に対抗し存在感を高めていくことができるのかが、リオ・コーエンの手腕の見せ所と言っていいだろう。

音楽産業のエコシステムが変わっていく

Spotify

YouTobe Musicが音楽産業の新たなエコシステムを作れれば、Spotify以上の存在感を示せるだろう。

Photo by Spencer Platt/Getty Images

ここからはまだ推測の領域だが、YouTube Musicは、音楽ビジネスにより根源的な変革をもたらす可能性を持っている。

YouTube Musicの最大の強みは、ストリーミング配信された楽曲や公式のミュージックビデオだけでなく、カバー動画やダンス動画など、UGC(ユーザー生成コンテンツ)もシームレスに再生することが可能である、ということだ。これらの動画の著作権の処理もContent IDで管理されており、再生に応じてアーティスト側に還元される。

こうしたYouTubeカバーアーティストは、日本だけでなく、世界各国に無数に存在する。ジャスティン・ビーバーがデビューしたきっかけのように「カバー曲を歌うことで音楽業界に見出され華々しく世に登場する」という例もあるが、最近ではデビュー以前にカバー動画自体が多くの再生回数を獲得する例もある。例えば、韓国の女性シンガーソングライターJ.Flaによるエド・シーラン「Shape Of You」カバーは、2018年11月時点で再生回数1億9000万回を突破している。

日本でも「歌ってみた」動画を投稿するYouTuberは多いが、少なくともサービス上においては、メジャーデビューしたミュージシャンも、これらのYouTuberも同じ土俵に立っている、ということになる。

また昨今は、キズナアイや輝夜月や富士葵など楽曲提供を受けアーティストとしてデビューするVTuberも相次いでいる。これらの楽曲もYouTube Musicで聴くことができる。

これまで、音楽業界の多くの人間はYouTubeをあくまで「広告の場」として認識していた。そこで得た知名度や人気を実際のセールスや動員、有料サービスの再生回数につなげるという発想が主だった。

しかし、YouTube Musicが普及しYouTube自体が収益の軸となることで、音楽産業のエコシステム自体が変わっていく可能性がある。

先行きがどうなるか、注視したい。


柴那典(しば・とものり):音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立。雑誌やウエブなどを中心に音楽やサブカルチャー分野を中心にインタビューや執筆を行う。著書に『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』『ヒットの崩壊』など。

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