2019年3月期中間決算を発表する瀬戸健社長。
撮影:小島寛明
業績の見通しを大幅に下方修正し、株価も大きく値を下げたRIZAP(ライザップ)グループについて、はやくから財務の危うさを指摘してきた人物がいる。元公認会計士で、企業の財務分析を専門とする細野祐二氏(64)だ。
細野氏がとくに問題があるとみている同社の施策のひとつに、2018年5月に発表した増資がある。
グループは7月までに354億円の資金調達に成功しているが、細野氏は「投資家たちは、RIZAPの決算予想を信じて株を買った。投資家をだましたと同じことだ」と指摘する。
「紙の上でつくった利益」
細野氏は、公認会計士だった2010年、害虫駆除会社「キャッツ」の有価証券報告書に虚偽の内容を記載したとして、証券取引法違反の罪で執行猶予付きの有罪判決が確定。公認会計士としての登録を抹消された。
その後、上場企業の財務諸表の分析や、企業向けのコンサルティングなどを行っている。
細野氏が公の場でライザップの財務諸表に深刻な問題があると指摘したのは、2018年7月に開いたセミナーでのことだ。細野氏によれば、セミナーで次のように話したという。
「ライザップは利益が出ていない。決算のうえで見えている利益というのは、紙の上でつくった利益で、現金がついていない」
5月15日にライザップが発表した2018年3月期の決算では、グループの営業利益は5期連続増益、過去最高を達成したとしていた。
さらに、2019年3月期の業績の見通しでは、売上収益が前期よりも1137億円増え、2500億円となり、営業利益も230億円に達すると発表している。
768億円の有利子負債
一方、7月に細野氏が開いたセミナーでは、ライザップの財務について、極めて厳しい分析が披露されている。
ライザップは企業買収を重ね、2016年3月期末で23社だったグループは、2018年3月期末には75社に達している。買収にかかる費用や、買収した企業の再建にかかる費用などで、借り入れはふくらんでいる。
細野氏が作成した資料によれば、2018年3月期末、ライザップの有利子負債は長期と短期を合わせて約768億円に達している。これに対して営業キャッシュフローは8800万円だ。
細野氏は、この時点の営業キャッシュフローで借入金を返済すると仮定すると、872年かかると指摘した。
費用はかさんでいるものの、2017年3月期102億円、2018年3月期135億円と、順調に連結の営業利益は増え、決算上は5期連続の増益になっている。
「構造的な事業損失会社ばかり買収」
決算説明会に出席した松本晃代表取締役(構造改革担当、写真右)。大幅な業績予想の下方修正を主導したのは松本氏とみられている。
撮影:小島寛明
増益を支えたのが、「負ののれん」だ。
企業を買収する際に、受け入れる純資産(=企業が持つ資産の総額から借金などの負債額を差し引いた残り)の額を下回る価格で買収した場合、「負ののれん」が計上される。
ライザップが採用している国際会計基準では、会社が保有している株式や再建、不動産の資産を、期末の時価で評価し、決算に反映させる。
このため、買収した時点での企業の「時価」よりも安く買うことができた差額が収益として計上され、一時的な業績向上をもたらす。
こうした買収手法について、細野氏は「ライザップが買っているのは構造的な事業損失会社だ」と指摘する。
いまは赤字で、今後も黒字化の見通しが立たない企業であれば、「時価」より安くても、引き取ってくれる企業がいるなら、売ってしまいたい。この数年、ライザップが買収した企業の多くが、こうした状況にあったと細野氏はみる。
「赤字が出ると分かっているような会社を買収するなら、利益として計上せず、事業損失引当金を計上しておけば、赤字が出ても引当金を取り崩せばいい。でも、それでは業績予想は達成できず、銀行から借り入れもできない」
結果として、赤字が続く見通しの高い企業を買収しても、「負ののれん」による利益は計上され、銀行からの借り入れも、市場からの資金調達にも成功している。
ライザップ立て直しへの3つの処方箋
こうした手法に歯止めがかかったのが、11月14日に発表された2019年3月期の中間決算だった。ライザップは、営業利益を263億円下方修正し、期末には33億円の赤字になるとの見通しを示した。
グループ入りした企業の再建にかかる費用や、不採算店舗の閉鎖などにかかる費用を見込む一方で、今後、時価よりも「割安」で買収する計画だった企業の負ののれんによる収益を下方修正した。
細野氏は「おおむね、期待どおりの中間決算になった」と評価する。
では、ライザップは今後どうすべきなのか。細野氏は次の3つの処方箋を示している。
- 赤字解消が見込めない子会社への資金援助の停止
- 買収の凍結
- 広告の抑制
中間決算の時点で、ライザップは当面、買収を凍結する方針を示している。また、買収した企業のうち、グループ内にとどまっても相乗効果が見込めない企業の売却を目指す交渉も進めている。
細野氏は「ボディメイクのビジネスモデルはすばらしい。ノウハウもある。高所得者向けのビジネスに徹すれば、口コミだけでも十分にもうけられる」と指摘する。
(文・小島寛明)