ゴーン会長ら数人で決める役員報酬制度が不正の温床か——独立委員会は未設置

日産自動車のカルロス・ゴーン会長。

自動車販売で世界2位の企業連合を率いてきた日産自動車のカルロス・ゴーン会長。カリスマ経営者の突然の逮捕劇は世界に衝撃を与えた。

REUTERS/Benoit Tessier

自動車販売台数で世界2位の企業連合を率いてきた日産自動車会長のカルロス・ゴーン容疑者が逮捕された事件では、受け取っていた高額の役員報酬が改めて注目された。

日産の役員報酬制度は、開示資料を見る限り透明性や客観性が高いとは言えず、各役員の報酬額決定にゴーン会長の意向を強く反映させる余地がありそうだ。グローバル企業には似つかわしくない役員報酬制度が、衝撃的な不正の温床となったのだろうか。

「1人に権力が集中」、暴走防ぐには不十分

日産自動車の西川廣人社長。

ゴーン会長らの逮捕を受け、11月19日夜、横浜市の日産グローバル本社で記者会見する西川廣人社長。

撮影:庄司将晃

東京地検特捜部による逮捕の容疑は、ゴーン会長の2010~14年度の役員報酬が実際には計99億9800万円だったにもかかわらず、有価証券報告書には50億円ほど少なく記載した、というものだ。

さらに複数のメディアの報道によると、日産は海外子会社などの資金で世界各地に高級住宅を買い、ゴーン会長は無料で使っていたが、有価証券報告書に報酬として記載されていなかったという。一連の取引は、ゴーン会長とともに逮捕された日産代表取締役のグレッグ・ケリー容疑者が主導した疑いがあるとされる。

日産の有価証券報告書には「取締役会議長が、各取締役の報酬について定めた契約、業績、第三者による役員に関する報酬のベンチマーク結果を参考に、代表取締役と協議の上、決定する」と記載されている。

日産の取締役会議長はゴーン会長。現体制で代表権を持つのはゴーン会長、ケリー代表取締役、西川廣人社長の3人。つまりゴーン会長がいくつかの「参考情報」も踏まえながら、ともに逮捕されたケリー代表取締役と、西川社長の2人と話し合ったうえで決める、と読める。

倒産寸前と言われた日産を救い、世界的なカリスマ経営者となったゴーン会長の権威は絶大だった。「あまりにも1人に権力が集中しすぎていた」(西川社長)なかで、ゴーン会長がもしその気になった場合に「暴走」を防ぐには不十分に見える制度だ。

ある企業会計の専門家は「あれだけの規模のグローバル企業に、このような不透明な制度はふさわしくない」と批判する。

社外取締役主導の「報酬委員会」設ける企業が増加

東京証券取引所の資料

出典:東京証券取引所「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況、委員会の設置状況及び相談役・顧問等の開示状況(2018年7月31日)」

日本の主要企業では、企業トップなどからの影響を受けない立場の社外取締役が主導して役員報酬額を決める「報酬委員会」を設けるケースが増えている。企業経営の透明性を高めて海外からの投資を呼び込みたい政府が旗を振り、東京証券取引所の「コーポレートガバナンス・コード」と呼ばれるルールの整備を進めてきたことなどが背景にある。

東証によると、一部上場企業のうち報酬委員会を設置する企業の割合は2015年の13.4%から2018年には37.7%に上がった(上図)。収益性やコーポレートガバナンスの面で「投資家にとって魅力の高い企業」を集めた株価指数「JPX日経インデックス400」の構成銘柄に限れば、2018年は63.7%だ。

デロイトトーマツコンサルティングと三井住友信託銀行が2018年11月20日に発表した「役員報酬サーベイ」によると、売上高1兆円以上の日本企業の社長の報酬額の中央値は2015年に7359万円だったが、2018年には9855万円。欧米主要国に比べればなお低い水準とはいえ、報酬が増えれば、その決定プロセスの正当性もより強く求められるのは当然だ。

しかし、日産が2018年7月に公表した「コーポレートガバナンス報告書」には、報酬委員会はなくても「現行の仕組みで有効に機能していると考えている」と記載されている。

上場企業で未設置「好ましくない」

東京都内の日産自動車のショールーム。

東京都内の日産自動車のショールーム。長年にわたり日産の「顔」だったゴーン会長の逮捕は、今後の経営にどのような影響を与えるのだろうか。

REUTERS/Toru Hanai

デロイトトーマツコンサルティングの村中靖パートナーは、役員報酬サーベイの結果を説明する記者会見で「一般論」と断りつつ次のように指摘した。

「上場会社でありながら、報酬委員会を設置していないことは好ましくはありません。報酬委員会が存在しないと(役員報酬決定における)独立性・客観性は担保されにくい」

東京商工リサーチのまとめでは、ゴーン会長の報酬は2009年度に日本の上場企業で1位となった後、虚偽記載の疑いがある期間も含めて高水準が続き、2016年度まで毎年トップ10入り。2017年度も4年ぶりに10億円を下回ったものの7億3500万円にのぼった。

ケタ違いの高額報酬をほしいままにし、他の取締役の報酬決定にも強い影響力を発揮する。いずれも、日産の今の役員報酬制度のもとでゴーン会長のような「絶対権力者」にとっては不可能ではないと見られる。

その誘惑に負けたことが、今回の不正につながる要因の一つだったのか。いずれはっきりする日が来るだろう。

(文・庄司将晃)

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