アドビは、11月20日にパシフィコ横浜で「Adobe MAX Japan 2018」を開催。同イベントは例年、一般参加のチケットが早々に売り切れるなど、非常に大規模で人気のイベントとなっている。
アドビは、11月20日に神奈川県・パシフィコ横浜でクリエイティブイベント「Adobe MAX Japan 2018」を開催した。
同イベントは10月にアメリカ・ロサンゼルスで開催された「Adobe MAX 2018」の日本版。10月に発表された内容に加えて、日本ならではのニュースも登場し、日本にいるクリエイターやTECH界隈の関係者を沸かせた。
その中でもとくに大きなニュースが「フォント」に関するアップデートだ。
オリジナルフォント「貂明朝」に新書体が追加
2017年に発表された「貂明朝」に、今回新しいファミリー「貂明朝テキスト」が追加された。
同社は、10月の本家Adobe MAXで2011年に買収し提供していたフォント配信サービス「Typekit」を「Adobe Fonts」にリニューアル。
名称を変更したほか、複雑化していた価格面や機能制限を刷新。無料プランと有料プラン(Creatve Cloudの各有料プランに付属する形)の2種類に絞り、同期できる機器の数やウェブフォントのアクセス可能な回数などの制限は撤廃した。
有料プランでは1万5000種類の欧文フォント、185種類の日本語フォントを提供中で、日本語フォントの中にはアドビ純正のもの以外にモリサワや大日本印刷などの8社の他社製フォントも含まれる。どのフォントも契約中であれば、紙やウェブ、映像などの媒体を問わず非営利・営利目的どちらでも利用できる。
Adobe Fontsはリニューアルに伴い、Creative Cloudに完全に統合され、料金・ライセンス周りがシンプルになった。
貂明朝テキストは2017年11月に同社が公開した「貂明朝」のファミリー(シリーズ)にあたり、貂明朝と比べて抑揚を抑えた外観をしており、より本文用に利用しやすい書体デザインになっている。
貂明朝シリーズの生みの親であるアドビの西塚涼子氏は「貂明朝リリース後、ブログの文章などとして使われているのを見かけた。美術館などの図録などで、本文とタイトルすべてを貂明朝ファミリーで組んでもらうようなイメージをしている」と開発の背景を語っている。
貂明朝と貂明朝テキストの差分はひらがなとカタカナのみ。漢字や欧文などは共通となっており、1つのデザインの中で共存しやすくなっている。
天気や干支などのかわいい絵文字も増えた
貂明朝ファミリーに増えた新しい干支と動物のカラー絵文字。
貂明朝テキストの登場に合わせて、貂明朝のバージョンアップも行われた。それが色付きカラーグリフ、いわゆる絵文字の拡充だ。
既存の貂(てん、イタチ科の動物)に加え、犬や猫、干支、天気といったグラフィックが追加された。これらは異体字として利用でき、すべての絵文字はカラー版のほかに白黒版も収録されている。
なお、絵文字も貂明朝および新登場の貂明朝テキストの両方で利用できるが、従来の貂明朝を利用している場合、Adobe Fontsのツール上でアクティベート解除し、再度アクティベートを手動で行なう必要がある。
Adobe MAX Japan 2018の会場では、複数のブースを巡るともらえる景品として貂明朝の絵文字がプリントされたマグカップが用意されていたが、大人気で午後の早い内に配布終了となった。
余談ではあるが、これらの絵文字のデザインにも同社のツールがフル活用されている。スケッチはiOS/Android向けに提供されている「Adobe Photoshop Sketch」を利用。さらに、いくつかの絵文字は同社のストックフォトサービス「Adobe Stock」に収録されている写真が基となっている。
いつ使う? 日本で一番画数の多い漢字もサポート
源ノ角ゴシックで追加された漢字。写真左から「びゃん」と「たいと」。
もう1つ大きなアップデートが加えられたフォントがある。それが「源ノ角ゴシック」だ。
源ノ角ゴシック(Source Han Sans)はアドビとグーグルが共同で開発しているオープンソースのフォントで、アドビではAdobe FontsやGitHubで、グーグルでは「Noto Sans CJK」という名称で「Google Fonts」上を通じて配信している。
日本語に加えて韓国語で用いる文字、中国語の繁体字と簡体字をサポートしており、アドビとグーグルの両社は、これらの言語を利用する東アジアの約15億人へ統一された書体デザインを提供することを目的としている。
源ノ角ゴシックのVersion 2.0では、主に台湾で使われる漢字と主に香港で使われる漢字が明確に区別された。
今回のアップデート(V2.0)により、約1700文字の字体を追加、1400文字ものデザイン修正が行われた。とくに大きいトピックとしては「繁体字香港」への対応と、日本で最も画数の多いと言われる84画の「たいと」と56画の「びゃん」と読む漢字が追加された点が挙げられる。
なお、貂明朝と同じく、既に源ノ角ゴシックを利用している場合は再アクティベーションを手動で行なう必要があるので、注意が必要だ。
世界初披露の新技術もフォントが関係していた
Sneaksでは、まだ正式な機能として搭載されるかわからないものの、新技術のデモが行われ、会場参加者のフィードバックを募るというもの。
このような日本語フォントに対する取り組みについて、アドビは常に精力的に行っている。
その意志は、Adobe MAX Japan 2018の最後を締めくくる催しの1つで、同社の開発中機能を“ちょい見せ”する「Sneaks Preview」にも表れていた。
Adobe MAX Japan 2018のSneaksでデモを行ったのは、アドビの研究所「Adobe Research」に所属する唯一の日本人で テクニカルリサーチアーティストの伊藤大地氏。
日本版Adobe MAXのSneaksで披露された5つの機能のうち、4つはアメリカの本家Adobe MAXで既に公開されたものだった。デモ用の素材を日本独自のものにしているなど差異はあったが、熱心なクリエイターなどであれば既に知っている技術だっただろう。
しかし、5つのうちの1つである「Graffiti-Inspired Stylization of Fonts(正式名称未定)」は、世界に先駆けて日本で初披露されたものであり、これもまたフォントに関わる技術だった。同技術について、日本版Adobe MAXでSneaksのデモを行ったテクニカルリサーチアーティストの伊藤大地氏は「今回のために無理を言って日本語にも対応してもらった」と壇上で話していた。
「Graffiti-Inspired Stylization of Fonts」と題されたデモ。入力したテキストのGraffiti(ラクガキ)風の文字が瞬時に表示され、書体の太さや色、影などを自由自在に変えられる。
アドビ広報も日本向けに新技術を初お披露目した経緯について以下のように述べており、「日本ユーザーのために特別に」といった意志があったようだ。
今回、伊藤は10月にすでに発表した4つのプロジェクトに加え、未発表の1つをAdobe MAX Japanで初披露した。10月に発表されたものはすでにYouTubeで一般公開しているため、日本のユーザーに向けてAdobe MAX Japan用に特別に未公開プロジェクトをデモで紹介して見せた。
フォント、つまり文字はデザイナーなどの職種や、ディスプレーなど表示媒体に限らず、誰もが接している技術であり、文化だ。クリエイティブツールを扱うアドビにとっても重要なファクターであることは間違いない。
今後も同社はAdobe FontsやCreative Cloudを通して様々なユースケースに対応したフォント製品を展開していくだろう。
(文、撮影・小林優多郎)