消費税8%しか払わず店内で食べたら?制度のせいで小売りが“悪者”になる?

小銭。

Photo by Yuichiro Chino/Getty Images

消費税率が2019年10月に10%へ上がるのと同時に導入される「軽減税率」。生活必需品である「外食やお酒を除く飲食料品」などにかかる税率に限って8%に据え置く制度だが、どんな場合に適用されるか、その線引きはかなり込み入っている。

店頭での混乱を心配する小売りの現場を訪ねた。

国が決めたルール「お客様には納得してもらうしか……」

旬八キッチン&テーブル。

東京・新橋の旬八キッチン&テーブル。平日朝は日替わりのおにぎりや総菜などを提供し、テイクアウトもイートインもできる。

東京・新橋のオフィス街にある「旬八キッチン&テーブル」。新鮮な野菜や果物を使った料理や飲み物をテイクアウトとイートインの両方で楽しめる店だ。

平日朝は、日替わりのおにぎりや総菜などが大きなテーブルの上に並ぶ。出勤前の勤め人らが次々に訪れ、好きなものを取ってレジで支払いを済ませると、そのままオフィスに向かったり、30席ほどのイートインコーナーでスマホ片手に食べ始めたり。

軽減税率が導入されると、この店で何が起きるのか?

食べ物や飲み物をテイクアウトする場合、消費税の税率は今と同じ8%で済むが、イートインコーナーで食べたら10%になる。「生活必需品」とは言えない外食は軽減税率の対象にならず、イートインコーナーでの飲食は外食とみなす。そう政府が決めたからだ。

「旬八」の朝のメニューであれば、おにぎりや総菜を選んでお客がレジに持って行くと、同じものを買ったのにテイクアウトかイートインかで異なる金額の消費税を支払うことになる。

「お客様には『政府が決めたルールなので』と説明し、納得していただくしかないですね」

「旬八」や青果店、自社農場の運営まで幅広く「食と農」に関する事業を手がけるアグリゲート(本社・東京都品川区)CEOの左今克憲さんは淡々と話す。

8%しか払っていないのに店内で食べ始める人がいたら?

旬八キッチン&テーブルのレジ。

旬八キッチン&テーブルのレジ。軽減税率が導入されれば、同じおにぎりを買ってもテイクアウトとイートインのどちらを選ぶかで、支払う消費税額が変わる。

店員がレジでお客にテイクアウトかイートインかを確認するのは手間がかかる。

国税庁がウェブサイトで公開している「消費税の軽減税率制度に関するQ&A(個別事例編)」によると、「旬八」やコンビニのように、持ち帰りも店内で食べることもできる飲食料品を扱う店の場合、「イートインコーナーを利用する場合はお申し出ください」などと目立つ場所に掲示しておけばいちいちお客に確認しなくてもいい、としている。

ただ、「8%」しか支払っていない客が店内で飲食する例が日常化している、といったケースを税務署が把握したら、店側に税率の再計算と追加納税を求めることもあり得るという。

「税務署が来たら『どうぞ調べてください』と言うしかないですが、お客様から『あの人、消費税を8%しか払っていないのに店内で食べてますよ』と店員が注意を受けることも予想されます。そのたびに『差額を支払ってください』とお願いする対応が求められたりすれば、今よりも人手が必要になり人件費もかかります。まずは大手がどう対応するかを見て、追随したいと考えていますが、どういう形になるのでしょうか」(左今さん)

政府が決めた制度なのに会社が悪者に?

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「出前」と同じかと思いきや、「ケータリング」にかかる消費税率は異なる。

EujarimPhotography/Getty Images

問題はこれだけではない。アグリゲートでは、出前とケータリングの税率も区別しなければならない。

軽減税率の制度上、単なるデリバリーである出前は「8%」だが、お客が指定した場所にスタッフが出向いて調理や盛り付けもするケータリングの場合は「10%」が適用される。

「旬八」は近所のオフィスに弁当の出前もしている。アグリゲートでは、付き合いのある企業などの依頼に応じてケータリングを請け負う。お客が「同じようなサービスなのになぜ税率が違うのか」という疑問を持っても不思議ではない。

「軽減税率は政府が決めた制度なのに会社が悪者にされるのでは、という心配もあります。政府には軽減税率についてきちんと周知してもらえると助かります」(左今さん)

吉野家で牛丼食べたら10%、デパ地下で松阪牛買ったら8%

移動販売車。

移動販売車で買った食べ物を公園のベンチで食べたら?軽減税率が適用されるかどうかの線引きはとても込み入っている。

d3sign/Getty Images

軽減税率制度は非常に複雑だ。移動販売車で買ったハンバーガーを目の前にあるベンチで食べたら?回転ずし店で食べ残しをパックに詰めて持ち帰ったら?テイクアウトもできるコーヒー店の回数券はどうなる?

さまざまなケースに応じてどの税率を適用するか、事業者側は的確に判断してお客に支払ってもらわないと税務署からミスを指摘されかねない。複数の税率に対応するためレジを買い替えたり、店員向けの対応マニュアルを作ったりしなければならないケースも多い。テイクアウトとイートイン、出前とケータリングという代表的な「境界事例」をすべて手がけるアグリゲートのような企業の負担は特に大きい。

そもそも、そこまでの手間とコストを民間に押し付けてまで実行すべき政策なのかは、かなり怪しい。

軽減税率導入の目的は「増税によって生活が苦しくなる低所得者の負担を軽くすること」だと政府は説明してきた。だが、「飲食料品にも多く支出する傾向があるお金持ちの方が、軽減税率による負担軽減の金額が大きい」という試算を複数のエコノミストが公表している。

「吉野家の店で牛丼を食べたら10%、デパ地下で松阪牛のステーキ肉を買ったら8%」

そんなたとえ話がいくつもつくられた。

低所得者対策であれば、軽減税率のようなバラマキでなくとも、カナダが導入した「低所得者に的を絞った給付金」など、ほかにもっとシンプルな手段はある。誰のための、何のための軽減税率か。そんな疑問の声を置き去りにしたまま、狂騒曲の幕は上がるのだろうか。

(文・写真、庄司将晃)

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