イラク、ファルージャの通りをパレードするISISの戦闘員(2014年3月)。
AP
- 戦略国際問題研究所(CSIS)の最新レポートによると、世界のイスラム過激派の数は現在、2001年9月11日の4倍近くに増えていることが分かった。
- 外交アナリストらは、これはテロとの戦いが大失敗であることを示すもう1つのサインだと話している。
- 同レポートによると、イスラム原理主義の戦闘員は約70カ国におよそ23万人いるという。
アメリカのワシントンD.C.に拠点を置くシンクタンク「戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Studies: CSIS)」の最新レポートによると、世界のイスラム過激派の数は現在、2001年9月11日の4倍近くに増えていることが分かった。外交アナリストらは、これはテロとの戦いが大失敗であることを示すもう1つのサインだと話している。
「イスラム国(IS)はイラクとシリアでその支配地域を失っているが、広まり続けるイスラム原理主義運動は敗北からは程遠い」
1980年までデータベースの数字を遡った同レポートによると、イスラム原理主義の戦闘員は約70カ国におよそ23万人いるという。2016年以降、戦闘員の数は全体としてわずかに減少しているが、レポートは現在、推定されている数字は過去40年の中でも最も高い部類に入ると言う。
「このわずかな減少は、新たな戦場がなく、アメリカとその同盟国によるシリアやアフガニスタン、パキスタン、イラクといった国でのイスラム原理主義グループに対する対テロキャンペーンが上手く行っている結果かもしれない」と、レポートは指摘する。「しかし、23万人という戦闘員の数(推定)の多さは、依然として懸念事項だ」
イスラム国グループやアルカイダとその系列以外にも、同レポートは世界各地で活動する44のグループを発見。その結果、スンニ派武装集団の数が最も多いのは、シリア、アフガニスタン、パキスタンであることが分かった。
要するに、9.11の同時多発テロ事件から20年近くが経つ今、アメリカが76カ国で対テロ作戦を実施する一方で、イスラム過激派組織は世界中で高いプレゼンスを維持しているということだ。
「アメリカのテロとの戦いは、恐ろしいほど高くついた失敗」
ワシントンD.C.に拠点を置くケイトー研究所(Cato Institute)の防衛・外交専門のシニア・フェロー、トレバー・スロール(Trevor Thrall)氏はINSIDERに対し、CSISのレポートは「アメリカのテロとの戦いは、恐ろしいほど高くついた失敗だという何年も前から専門家が指摘してきたことを裏付けるものだ」と語った。
「アメリカ人をテロリストの攻撃から守ることは、我々が真剣に取り組むべき重要な目標だ。だが、それは海外で終わりなき軍事介入を必要としないものだ」と、スロール氏は加えた。「そして、政治家や多くのアナリストたちがテロリズムについて大げさな主張を続けても、9.11以降の歴史的証拠は、アメリカへのテロリストの脅威は非常に低く、今日までにかかった数兆ドルの支出を正当化しないことを示している」
タリバンとの戦闘中、屋上にポジションを取るアメリカの海兵隊(アフガニスタン、2009年8月12日)。
AP Photo/Julie Jacobson
スロール氏は、今日、世界中で活動している過激派の多さは、その軍事力の高さにかかわらず、アメリカが「ムスリム世界のテロリズムの根本原因に対処する」態勢が整っていないことを示していると言う。
「アメリカ主導の体制変革、国家建設、国外の脆弱もしくは圧政政権との提携に向けた取り組みは、問題を軽減することに失敗しているだけでなく、多くの場合、物事を悪化させている」と、スロール氏は指摘する。
ボストン大学の政治学の教授で外交政策の専門家でもあるネタ・クローフォード(Neta Crawford)氏もこれに同意する。
「敵を増やす以上に、我々の政策はこの17年間、アメリカ経済に損害を与えてきた。そして、機会費用と将来の負担義務(例え戦争が終わった後でも)の観点から、アメリカ経済を弱らせ続けるだろう」とクローフォード氏はINSIDERに語った。
同氏が指揮する戦争費用プロジェクト(Cost of War Project)の直近のレポートは、アメリカが2019年10月までに負担するテロとの戦いの費用は6兆ドル(約679兆円)に達するだろうとの見込みを示している。また、同プロジェクトは、この戦いでおよそ50万人が命を落としたと指摘する。
「テロとの戦いは、成功したといえる部分もあるだろう。9.11以降、アメリカ本土への攻撃もなかった。だが、アメリカの政策全体が機能したかどうか、したとすればどう機能したか、我々にはよく分からない」と、クローフォード氏は言う。同氏は、この件については、アメリカ政府が「その政策の影響と有効性」についてさらなる分析をするよう呼びかけている。
クローフォード氏はまた、「民間人を傷つけることなく、存在するもしくは潜在的なテロリストを全員殺すことはできない」と言い、戦争地域で「アメリカやその同盟国が意図せず民間人を殺害することで、友人を失っている」と加えた。
「過激派を1人殺害すれば、家族や知人を刺激し、より多くの過激派を生み出す」
マリーン・コー(Marine Corps)大学の武装政治の専門家、ブランドン・バレリアーノ(Brandon Valeriano)氏はINSIDERに対し、CSISのレポートは「ずっと前に、スタンリー・マクリスタル(Stanley McChrystal)大将が話していたことを示している」と語った。マクリスタル大将は、「反乱の動きと戦うには、異なるインパクトの算定方法が求められる」と話していたという。
「過激派を1人殺害すれば、家族や知人を刺激し、より多くの過激派を生み出すことになる」とバレリアーノ氏は加えた。
同氏は、もしますます複雑化する「現代の戦闘地域に勝利のビジョンがあるなら」、「単に敵の戦闘員の死者数だけでなく、暴力への欲求が最小化される、希望あるより良い状況を作り出す援助や福祉に対する配慮も必要だ」と言う。
ウサマ・ビンラディンのビジョンが現実のものに
FBIの元捜査官でテロリズムの専門家アリ・ソウファン(Ali Soufan)氏は、テロとの戦いはアメリカにとって終わりのない、希望のないものだと考えているようだ。
ソウファン氏はINSIDERに対し、「国際的なテロとの戦い」におけるアメリカの大半の勝利は、「一時的ではかないもの」だと語った。「現地で起こることに西側諸国とその軍隊が実際、長期的に影響を与えられることはほとんどない」と同氏は言う。
ウサマ・ビンラディン氏。
Mazhar Ali Khan/AP
現在の過激派の活動状況やムスリム世界で起きているさまざまな紛争を考えると、ソウファン氏は、アメリカはウサマ・ビンラディン氏の殺害には成功したが、そのイデオロギーを殺すことには明らかに失敗したと指摘する。
「シリアやイラク、リビア、イエメン、その他の場所などで我々が見ている地域紛争は、ウサマ・ビンラディンのイデオロギーから生まれたイスラム原理主義のテロリズムが中心だ」と同氏は言う。
「生前、ビンラディンは『野蛮状態のマネジメント』 —— 搾取する政府を崩壊させるためにカオスを作り出し、そのカオスを自身が権力を掌握するためのアドバンテージにする戦略 —— を呼びかけていた」とソウファン氏は言い、「それこそ我々が今日、中東や北アフリカなどで見ているものだ」と語った。
(翻訳、編集:山口佳美)