2018年には、姿を消したシェアリングエコノミーサービスも。明暗を分けるのは何か(写真はイメージです)。
Shutterstock
シェアリングエコノミーサービスの成功と失敗を分ける本当の条件は何だろうか。
シェアリングエコノミーとは、遊休資産(モノ、スキル、空間)を主に個人間取引でマッチングさせるサービスのこと。メルカリやココナラのように国内で急成長しているサービスも増えてきている。一方で、スキルシェアの領域を中心に2018年中に撤退するサービス(例:DMM Okan、WoW!me、teacha、pook)も増えてきた。
各サービスの動向を追っていて分かったことは、既存ビジネスとシェアサービスでは商売ルールが明確に異なるのではないかということ。既存ビジネスで成功体験のある会社が、同じような成功パターンで攻めても上手くいかないことが多い。
そんな中、シェアリングエコノミー協会の理事で、スキルシェア大手のココナラ代表の南章行社長に、シェアサービス成功の条件を聞いた。ココナラは、2017年10月に発表された国内テクノロジー企業成長率ランキング1位( ※過去3決算期で売上高は約13倍)であり、会員数85万人以上(2018年11月現在)の日本最大級のスキルシェアサービス。最も成功したシェアサービス企業の一つといえる。
※デロイトトウシュトーマツリミテッド2017年日本テクノロジー Fast50より
個人間取引サービスにすることで成り立つかが重要
ココナラ社長の南章行氏。スキルシェアで85万人のユーザーを抱えるサービスに成長している。
提供:ココナラ
「個人間取引サービス(N対N型)にすることで既存の法人サービス(1対N型)より、提供者と購入者の双方にメリットがある状態にならないといけません。そのためには3つの条件があります」
南氏によると、シェアリングエコノミーはサービスがスタートする前のサービス設計で勝負が決まっていることが多いという。
1つ目の条件:サービスが安くなる理由があること。
『未使用なスペースやスキマ時間でできるスキルだから安く提供できる』『既存の法人サービスの利ざやが大きいから安くできる』という状態が実現できているかが重要です。
2つ目の条件:バラエティが価値になること。
『商材が豊富だからサービスを訪問する』という状態が必要。『ココナラにいけば必要なサービスが何かあるのではないか』と思われる状態です。
3つ目の条件:提供者が喜んでやる理由があること。
例えば、『使わないから売ったり、貸したりする』『タダでも喜んでやる場合がある』などの状態になっていることです。例えば、民泊は低価格でも、人との出会いが楽しくてやる提供者がいます。
こうしたサービスの前提となる設計をクリアした上で、さらに、次のような条件も必要であるという。
「ニーズ」「時間」「場所」「価格」等の変数を減らすことが重要
スキルシェアの未来のカギを握るのは、場所・時間・価格の「変数」だという(写真はイメージです)。
「シェアリングエコノミーは、いかにマッチングを発生させるかがすべて」と南氏は語る。
「“同じ場所や同じ時間でないとサービス提供できない状態”はマッチングのハードルを上げてしまいます。マッチングに至るまでの『変数』が多ければ多いほど、ハードルが上がります。例えば、東京と山口にそれぞれ住む人同士で需要と供給が一致しても、対面サービスが前提だとマッチングが難しいのです」
「そこで例えば『場所』を絞ります。当初は『渋谷区のみ』『東京都内のみ』などでサービスをスタート、小さくてもマッチングを起こし、徐々に広げていく。スキルシェアのストアカも、スタート時は全国対応ではなく、東京からでした」
「マッチングさせやすくするために、一般的には『ニーズ』を絞ります。家事代行だけ、英会話だけ、と言ったように。一方で、ココナラは『ニーズ』は何でもありの総合型スキルシェアでスタートしました。その代わり『オンライン限定、リアルタイム性なし、500円均一』という3つの絞り込みで、『場所』『時間』『価格』の変数を大幅に減らすことで、マッチングしやすさを向上させました」
サービス開始前からの提供者集めとコミュニティ作り
ココナラの南氏は、サービスが公式スタートする前のベータ版の段階から、約1000人に声をかけて、400人にユーザー登録してもらい、200名にハイクオリティのサービスを出品してもらうことができたという。
メルカリやUberなどの有名シェアサービスに共通のある特徴とは。
撮影:今村拓馬
コミュニティのイベントも3回ほど実施して、初期ユーザーにサービスのビジョンを伝えていたおかげで、サービス開始時に口コミを起こすことができていた。
サービス開始の同時期にココナラと同様のサービス・機能で事業をスタートした競合他社がいたというが、「提供者」側を事前に集めていなかったため、ふざけたサービスばかりが大喜利のように出品されてしまい撤退していったという。
提供者が購入者に転化するモデルは成長がより速い
さらに南氏によると、提供者が購入者にもなりえるサービスは成長が速くなるとのこと。
「シェアサービスは、提供者と購入者をバランスよく集めないといけないので、どちらか片方だけ増えてもサービスは成長しないところが難しい。 ココナラの場合、人の役に立とうというブランディングで提供者を集めたため、提供者側は『実質500円以上のサービスを提供している』という自覚があり、それゆえに『他の提供者サービスも500円以上の価値を提供しているのでは?』と考えたようです。提供者自身が、初期の購入者(ユーザー)に転化していきました」
ホストとゲストが互いに転化するモデルは、サービスが成り立つ必須条件ではないが、このモデルを構築できたサービスは成長が速いという。Airbnb、Uber、メルカリなどの有名シェアサービスも同様に、提供者側が購入者側になりやすいモデルであり、特に伸びているサービスの共通点のようだ。
シェアサービスが失敗する3つの条件
今年は撤退したシェアサービスも相次いだ(写真はイメージです)。
shutterstock/
次に、シェアサービスが失敗してしまう時の条件は以下が考えられる。ココナラ南氏の知見に加え、私自身の意見も述べさせていただく。
(1)「勝者総取り」の原則に勝てなかったパターン
2018年に撤退したシェアサービスの大きな共通点はすべて後発組であること。ネットサービスにおける「勝者総取り」の原則は、シェアサービスにも同じく通じる。
南氏は「個人間のプラットフォームはwinner-take-all(勝者総取り)になりやすい」と言う。今年撤退したサービスは、表面的な切り口以外に、実態として差別化ができていないことが多かったのかもしれない。
(2)購入者向けの魅力ばかりに力を入れて、需要と供給のバランスを崩す
今年9月に撤退した家事シェアのDMM Okanは購入者向けの魅力が強かった。
「業界最安値(1.5時間一律3600円)」「朝7時から夜10時までOK」「1.5時間からでも依頼が可能」など、競合の家事シェアサービスにはない購入者目線の魅力を盛り込みすぎて、それを実現できるワーカーが集まらず撤退している。
購入者への魅力が強いサービス設計は、開始のプレスリリース時点ではSNSでバズらせることができるが、その後の提供者集めに苦戦している。
(3)有名人をサービス利用者の広告塔にすると一般ユーザーが敬遠する
「有名人のサービスを広告塔にはしない」のはココナラ創業時からの南氏の戦略である。
「例えば、有名人の3万円のサービスの隣に、無名な個人の500円サービスが並ぶと、個人が惨めに感じてしまうことが問題」と語る。
広告塔に有名人を使うとイメージ向上効果があるが、「有名人のためのサービス」と思われてしまうと、個人が「自分向けのサービスではない」と敬遠してしまい、提供者が集まらない。
国内シェアリングエコノミー市場の伸びはこれから
2018年11月に駐車場シェアのakippaがサービス開始から約4年半で会員数100万人を突破するなど、モノやスキル分野以外でもシェアサービスの躍進は大きい。撤退するサービスも増えている一方で、市場全体は今後も大きく伸びていく長期トレンドが続くと予想されている。 新しい市場であるシェアエコにおいて2018年は、成功と失敗を分ける事例が業界にようやく蓄積されてきた年と言えそうだ。
加藤こういち:シェアリングエコノミー研究家。シェアリングエコノミーを500回以上使ってミレニアル世代のライフスタイルにどう入れていくべきかを研究中。4年前に上京してからシェアエコで孤独を解消したことをキッカケにその魅力にはまる。シェアエコ事業者、ホスト、ゲスト視点でバランスよく、業界情報を整理して発信することで社会貢献するのがミッション。